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秘密の交換

私は服の上からペンダントのチェーンの部分に無意識に触れていた。

ルシウス先生は昼間に私のペンダントを見ていたので、服の中であってもそこに何があるのかが分かったのだろう。


私はペンダントを服の中から外へと出した。

「…そうです。私がこのペンダントを触りながら話したから、そう思われたのですか?」

ルシウス先生は目を伏せて、緩やかに首を振った。


「ううん。そうじゃなくても分かったよ。そのペンダントはノルモンタニューで作られたものだから」

「えっ?」

私は驚いて、ペンダントとルシウス先生の顔を交互に見た。

ルシウス先生は優しげな瞳で私を見ていた。


「リリアさんは知らなかったようだね」


私はこくりと頷いた。

私にとって、このペンダントははどこで作られたものなのかは全く関係なくて、誰がくれたかが重要だったから。


「知りませんでした。それに、ひと目見てどこで作られたものなのかが分かるなんて思ってもいなかったです。私にはこのペンダントが他のものと比べて、特にこれといった特徴があるようには見えていなくて…。先生以外からはそんな指摘をされたこともなかったですし…」


ルシウス先生は私のペンダントに手を伸ばして、慈しむように触れた。

昼間にペンダントに触れようとして手を伸ばされた時には驚いてしまったけれど、今は不思議と驚くことはなかった。

それは私がルシウス先生がこちらに手を伸ばしてくる様子を見ていたから、というだけではないような気がした。


「ノルモンタニューで作られたという言い方は正確とは言えないかな。そう、リリアさんの言う通り、見た目に特徴があるわけではないんだ。このペンダントにはね。とある秘術がかけられている。だから分かったんだよ。その秘術を使えるのは、“ある限られた者たち“のみなんだ。そのうちの一部がノルモンタニューにも暮らしている。一般には知られてないけどね」


私はルシウス先生の話に驚くばかりだった。

このペンダントに秘術がかけられているなんて話、私は知らない。

ノルモンタニューにも暮らしているという、一部の者のみが使える秘術が、この世界にあるということも、初めて聞く話だった。

その“ある限られた者“とは、どういった人たちなのだろう。

そして、なぜルシウス先生は知っているのだろう?

いくら魔法学を修めているとは言っても、そのような秘術を一目で見破れるものなのだろうか。

あらゆる疑問が湧いてくる。


「なぜ…そんなことを知っているのですか?魔法学の先生だから?」

私は自分で言ってから、その発言に対して首を振った。

「いいえ、きっと違う気がする。いくら魔法学の先生で知識があったとしても、一目見ただけでは分からないんじゃないかと思うんです」


ルシウス先生は視線を私から外して、すっと正面の壁を見た。

そして、静かに笑った。

「ふふ…。リリアさん、鋭いな。なぜだろうって?気になるよね」


私はルシウス先生の横顔を見つめながら、何も言わず、次の言葉を待った。

知らなかったことが次々に明るみになっていくことに、少しの怖さも感じる。

けれど、知らなければならないことのような気がしていた。


ルシウス先生は相変わらず、絵も何も掛けられていない正面の壁を見つめている。

そうしてから、ゆっくり瞬きをして静かに言った。

「それはね。僕がノルモンタニューの出身だからだよ。故郷なんだ。そして、そのとある秘術を使う一部の民の出でもある」

「えっ…?先生がノルモンタニュー出身…?」


ルシウス先生の出身地は学校で公開されている情報とは異なっていた。

王族も通う学校に出自を隠して簡単に入り込めるとは思えないし、誰にも知られずに入り込めているのだとしたら大問題となるだろう。

何の目的があって隠しているのだろう?


秘術を使う民の出だということを知られないため?

けれど、ノルモンタニューで暮らす大多数の人は秘術の存在すら知らない人々だとルシウス先生は言っていた。

だとすれば、出身地を隠さなければならない理由が私には思い当たらない。


もしや、よくない考えを?


ルシウス先生は私の方に向き直って言った。

「リリアさんの言いたいことは分かるよ。僕がノルモンタニュー出身ということが、公式の情報とは違うってことでしょ?」


ルシウス先生はいつもと変わらず、穏やかな表情をしていた。

とても悪いことを考えている人には見えない。


「それにはちょっと訳があってね。違うということにしているんだ。もちろん学園長はご存知のことだよ。だから安心してね。怪しい者ではありません。ただ、他言はしないで欲しいんだ。公にしない方が身動きが取りやすいから」


ルシウス先生は私に懇願するように、顔の前で両手を合わせている。


「学園長がご存知なら、ルシウス先生は悪いことをしているわけではないですよね?」

「もちろんだよ。誓って、悪いことはしていないよ」


私はルシウス先生の瞳をじっくりと見た。

まっすぐに私を見ている、そこには嘘がないと思った。


「それだったら、私は安心できます。何かの大きな使命を帯びているのだと推察しました。大丈夫です。妨げになるようなことはしません。先生が言わないで欲しいと思っていることを言いふらしたりもしません」


「ありがとう。リリアさんならそう言ってくれると思ったよ。それでね。リリアさん、教えてほしいんだ。僕の秘密を一つ君にあげたから、君の秘密も一つ僕にくれないかな?」


私はルシウス先生の言わんとすることが分かった。


「君も同じ民の血を引いているでしょう?」

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