発覚
このうち、黒幕は誰なのか。
僕はさりげなく振る舞いながらも、そちら側から視線を逸らさないようにして歩いていった。
問いかけに対して、ラルゴが言い訳をするように僕に語りかけてくる。
どういうつもりなのか、ラルゴはリリアのことを“この女”と言いかけた。
もし言い切っていたら、僕はラルゴのことを殴っていただろう。
リリアを守るために、僕はローレンヌ達との間に立った。
そして、怒りを隠してラルゴに話の続きを促した。
ラルゴは、リリアがやっていないことをやったことがあたかも事実であるかのように語っていく。
先ほどから少し弱まっていた酷い臭いが、再び漂い始める。
こいつか…?
話の流れから、ローレンヌを心配するフリをして、そちらに視線を向ける。
ローレンヌの方からも酷い臭いを感じる。
どちらもなのか…?
様子を注意深く観察する。
そうしているうち、ラルゴはリリアに向けて非難する言葉をかけ始めた。
ラルゴはまるで、怒りのあまりに正気を失ったかのようだった。
聞いているのも嫌になる言葉の数々を積み上げていく。
臭いはどんどん強くなり、ラルゴの口から黒い靄のようなものが出始めた。
これは、闇属性の攻撃魔法だ。
リリアに害をなそうとしていることが分かり、咄嗟に光属性の魔法を放って相殺した。
そして、見えた。黒幕の正体が。
僕の放った魔法によりラルゴもローレンヌもさきほどまで浮かべていた怒りの表情を解いたのだが、この場に1人だけ、未だリリアに向けて強烈な悪意を含んだ視線を向けている人物がいたのだ。
いつも控えめにローレンヌに付き従っている時とは、全く異なる表情をしていた。
黒幕の狙いはリリアにある。
今は僕の放った魔法で攻撃が抑えられているが、このままここにいては危険だ。
説明する余裕はなかった。
それは後回しにすることにして、僕はリリアに一刻も早くこの場を離れるよう伝えた。
それに対して、リリアから返事はなかった。
ふいに泣いている気がして振り返ると、リリアは僕の視線から顔を背けるようにして走り去っていった。
思わず名前を呼んだが、リリアが振り返ることはなかった。
すぐにでも追いかけていきたいところだが、今この場を離れることができない。
もどかしさを抱えながら、リリアに付けた護衛騎士の1人に目線だけで後を追うよう指示を出した。
改めて、黒幕と向き合う。
タイミングよく、先生方が駆けつけた。
生徒会メンバーが僕の後を追ってこの場にくる途中で、先生方に声を掛け、連れてきてくれたのだ。
僕は先生方と僕の護衛騎士達に、モニカを取り押さえるよう言った。
モニカは暴れながら、
「畜生。邪魔しやがって。もう少しであの女に直接言ってやれたのに。憎くてたまらない。あんな女、いなくなればいい。消えろ、消えてしまえ」と叫んだ。
ローレンヌもラルゴも周りの生徒達もみんな、モニカの異常な様子をただただ驚いて見ていた。
取り囲まれて動きを制限されたモニカに近付き、僕は強力な封じの魔法をかける。
これでもう、モニカはリリアに害をなすことはできない。
狙いがリリアだと気付いた時には背筋が凍った。
リリアを狙った理由、一連のローレンヌ事件のこと、それから黒の丸薬のことを詳しく聞かなければならない。
場所を移そうとしていたところで、リリアの後を追った護衛騎士が戻ってきた。
どうしたのか尋ねると、彼は僕に耳打ちをした。
「リリア様が突然光に包まれて消えました。転移魔法を使ったようです。たまたま近くにいたこの学校の教師の話によると、リリア様はお屋敷の方に戻られているそうで心配ないとのことですが、一旦フィリオ様にご報告に戻りました。念のためマーベル邸まで様子を見に行こうと思いますが、よろしいでしょうか」
思いもよらない内容に驚いてしまった。
リリアは自分の意思で転移魔法を使えないはずなのだから。
僕はすぐにリリアの指輪の気配を追った。
するとリリアは報告の通り、たしかにマーベル邸にいた。
そのことには安心はしたが、転移魔法に関しての疑問は残る。
僕はこの場を一旦離れることを周りに告げてから、護衛騎士の案内でリリアが消えた場所へ行ってみることにした。
「この辺りです」
護衛騎士は校舎棟の脇の小道で立ち止まり、言った。
だけど言われなくても、僕にはここでリリアが姿を消したことが分かったし、リリア自身が転移魔法を使ったのだということも分かった。
この辺りは花の香りがする。
余程気が動転していたんだろう。
無意識に使ってしまったのだ。
リリアのことを思うと胸が痛んだ。
僕も今すぐ、転移魔法でリリアの元に飛んでいきたい。
リリアは持っている魔力量が多すぎるため、体がそれに耐えられるようになるまで、魔力を制限するためのペンダントを着けていた。
かなり幼い頃から付けているため、リリア自身、大量の魔力を持っていることを自覚しておらず、漏れ出てしまっている微量のものが自分の魔力量だと思っていた。
本人がコントロールできない状態で大量の魔力を有することは、とても無防備なことだ。
操られるなどして、悪事を働く輩に利用される可能性もある。
あまり知られていいことではない。
そのため、リリアの魔力に関しては学校の先生方でもほんの一部しか知らないことだった。
たまたま近くにいたのは誰だったんだろう。
護衛騎士に尋ねると「名前まではすみません。分からないのですが、さきほどまで図書館のカウンターの中にいましたよ」と教えてくれた。
図書館のカウンターは、先生方が日替わりで担当することになっている。
今日の当番は、誰だったろうか。
あとで確認してみよう。
僕は護衛騎士に「マーベル邸まで行かなくていい」と告げて、モニカの取り調べに戻った。




