ある昼休み(1)
初めての投稿です。
不慣れなことが多いと思いますが、やさしく見守っていただければ幸いです。
教室に戻って午後の授業の準備をしなきゃ。
私は急ぎ足で歩いていた。
お昼休みの間を図書館で過ごしていたのだけれど、少し、いやかなり本に熱中し過ぎてしまったみたい。
青々とした芝生が美しい中庭を横目にして、教室棟へと急ぐ。本当はもう走ってしまいたいところだけど、グッと堪える。
ここは王族や貴族の御子息・御令嬢たちが集まる学び舎。女性がむやみやたらに走り回ることを良しとしていないのだ。
この学園は3つの理念のもとに成り立っている。
・紳士は勇猛に。淑女は優雅に。
・恥ずることなく生きよ。
・自由の名の下に翔け。
たくさんの生徒が集まってきているわけだが、たとえ家格の差があろうと、ここではそれが関係ないということも特徴と言える。
この場所にそれを持ち込めば、平等な教育を受けることが難しくなるからだ。
親の肩書きや爵位等を利用して、成績を不当に上げさせるなどの不正が起きるかもしれない。恩を売るために、よからぬことを考えるかもしれない。
一個人として、互いに切磋琢磨してこそ真の教養が身に付くというものである。そしてそんな生活の中でなければ、生涯の友を見つけることはできないだろう。
建物の脇を抜けて食堂棟入り口の前に出る。ここまで来れば、教室棟まではあともう少しだ。
一旦立ち止まって食堂棟正面の外壁にある大きな時計を見上げると、針は12時50分を指していた。午後の授業開始まで10分ほどある。
なんとか間に合いそう。私はほうっと、ひとつ安堵の溜息をついた。
食堂棟からは昼食を終えた生徒たちが続々と出てきていて、教室棟へと繋がる渡り廊下を歩いていく。
私もその人の波に乗って再び歩き出した、その時。
「待ちなさい、リリア・マーベル」
突然後ろから大きな声を掛けられたのだった。
驚いて立ち止まり振り返ると、そこにいたのは伯爵家御令嬢のローレンヌ様と男爵家御子息のラルゴ様、子爵家御令嬢のモニカ様だった。
みんな私より1学年上の先輩のため、私自身とはこうやって急に呼び止められるほどの接点はない方達だ。
だから今、何か怒っているような大きな声で「待ちなさい」と呼び止められるだけの理由は見当も付かない。
「はい。ローレンヌ様」
どうして私に怒ったように呼び掛けてきたのか分からないけれど、こちらには敵対する気持ちがないので、私は先輩たちへ敬意を込めて丁寧にお辞儀してから、声の主であるローレンヌ様の名前を呼ぶことで応じた。
この学園では親の肩書や爵位は関係ないけれど、先輩・後輩の関係には厳しい面がある。
怒っている先輩の神経を逆撫でしないよう、慎重に慎重に。
けれど、私のこの態度も先輩たちには気に入らないもののようだった。
ラルゴ様は「貴様」と呟いて拳を振り上げるような動作をされ、モニカ様は信じられないとでも言いたげに目を見開いてから小さく首を横に振った。
ローレンヌ様はと言うと、私をギロリと睨みつけている。
そして、先ほど呼び掛けてきた時よりもさらに語気を強めて言った。
「そうやってなんでもない風を装って。あなたって、本当に嫌らしい人ね。あなたはあの方に相応しくない。絶対に相応しくないわ」
「え…?あの…」
教室棟に向かおうとしていた生徒たちもこの騒ぎに気付き、何事かと足を止める。私たちの周りには人だかりができ始めていた。
周りに人は集まってくるし、あまり面識のない3人の先輩たちによく分からないまま責められるしで、私はとても心細い思いがした。
発する声がいつもより小さくなってしまう。
「あの…ローレンヌ様。申し訳ありません。気付かぬうちに失礼なことをしてしまったでしょうか…。こうやってお聞きするのも大変失礼なことだと思いますが、どうぞお教えください…」
怒りの理由が分からない。何も思い当たらない。
けれど、ローレンヌ様だけでなく、ラルゴ様、モニカ様までもがここまで怒ってらっしゃるのだから、きっと何かをしてしまったのだろうと思う。
先ほど、人の波に乗って歩き始めた時にぶつかってしまったのだろうか。もしかしたら足を踏んでしまった?
私は気付いていなかったけれど、そうであるなら痛い思いをされたはず。
一度立ち止まったとは言え、私は急ぎ教室へと向かっていたのだから相当勢いがついていたことだろう。申し訳ないことだわ。
書きながらの更新ですが、それほど間を空けずにできたらなと思っています。