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~今日もしっかり運びます~

住宅街のような、普通の町。そこに広がる、突然の地獄。近づくと聞こえてくる、阿鼻叫喚。入口でみぐるみをはがされた後、門の奥へ追い立てられる人々。その場所へ、一つの世での役割を終えた人々を運ぶのが私の仕事だ。


ここは、俗にいう「現世」とは違う、まあ、近いもので言えば、「あの世」なのだろう。

しかし、見た目は「現世」とほとんど変わりはない。しいて言うなら、よく見ると住民が鬼のような姿をしているというくらいか。そこに、誰も、「人間だったもの」は違和感を抱くことはない。ここに、馴染み始めた私を除いて。


私の仕事が、「人間だったもの」への裏切りとみなす人もいるかもしれない。しかし、輪廻のためには必要不可欠なのだ。



さあ、今日も仕事だ。


朝。いや、朝ともとれるような時間。

ここは日が沈まないので、朝と言われたら朝なのだ。


私は、駅のような建物の前に、軽トラックの荷台を大きめに改造したような乗り物で乗り付ける。

この乗り物は、「センター」から運んでくる。

なにかしらの免許をとったような記憶はないけど、なんとなく運転できる。私が「人間」だったころは、まだ免許をとれるような歳ではなかったし。

この乗り物の荷台には、10人ほど乗れる。ふくよかな方が多い日は、7人くらいになっちゃうけど。最小記録は5人、最大記録は15人。

あの日は、大人なのにやせこけた人が多かったな。最近は、特にやせた人が多いから、一回で12、3人は乗せていけてしまう。そーいえば子供は乗せたことがないな。まあ、子供大嫌いだから都合がいいけど。


運転席からぼおっと外を眺めてると、いつの間にかちっちゃい小鬼が立ってる。きゅるんとした一つしかない目で、私のことをじっと見つめて、手を差し出してくる。運転席の窓をハンドルをくるくる動かして開け、身分証明証をみせる。「センター」から発行されているものだ。「現世」のパスポートに近い形で、めくると私の顔と名前、そのほか書いてある情報は私には読むことができない。

小鬼はじっと身分証を見ると、納得したようにひとつ頷き、いつのまにか姿を消した。


またぼおっとしてしまって、気づくと駅のような建物から「人間だったもの」が出てきていた。

今日は、いろんな顔の人がいるな。色が真っ白い人が半分くらい、そのほかは私と同じような見た目の人や、濃ゆい肌の人も、少し。なんだか、それぞれの固有名称があったような気がするけど、まあどうでもいいや。


ひいふうみいと数を数えると、今日の一回目は11人。まずまずの数だ。全員女性。恰好はバラバラ。緑のまだら模様のような上下を着ている人、窮屈そうなボタンがいっぱいついた服を着てる人もいる。パジャマのような布切れを着ている人や、それならまだいいほうで、ペラペラの布のようなものを巻き付けただけの人などもいた。なんだっけ、あれ。名前があったはずなんだけど。思い出せない。

全員女性か、男性のどちらかなんだけど、私はほとんど女性を乗せることがおおい。私のような「役割」の人はあと一人しかしらないけど、彼女も女性が多いねえと言っていた。


「人間だったもの」は、物言わず吸い込まれるように荷台へ乗っていく。乗りやすいように後ろが階段のようになっているからね。

全員乗り込んだのを確認する。「人間だったもの」は、みな静かにうつむき加減で座っている。

「しゅっぱつしんこー」

と言いながら私は走り出す。何か乗り物で走り出すときに、この言葉を言わなければならないのは、なんとなく覚えている。「現世」での数少ない記憶の一つだ。



進みはじめて少し。後ろが急ににぎやかになった。

ちらりと振り向くと、みな煌びやかな恰好に変わっている。キラキラ輝く黄金色のドレスや、透き通るような青いワンピース。レースや布がふんだんに使われたきれいな布地の洋服を着ている人もいる。

みな、先ほどとは打って変わってウキウキと楽しそうだ。

ちなみに、どういうことかは知らないが、私の服も若干変化する。いつも着ている首まで覆える赤い服(知り合いの彼女はそれを「セーター」と教えてくれた)と、足全体を覆える白い服(これまた「ズボン」ということを教えてくれた)が、若干動きにくい服へ変貌する。(特徴を彼女に伝えると、「ブレザー」だよ、と教えてくれた)


「人間だったもの」は、服装が変化したことに()()()()いない。特に教えられたわけではないが、()()()()()と、「人間だったもの」になってしまうんだろうな。私は毎回、「ブレザー」に変わったなあと平常心を保つようにしている。なぜか、この服を着ていると、ウキウキした気持ちがふつふつと湧き上がってくるような、そんな気がしてしまうのだ。


道のかたわらには、住宅が立ち並んでいて、駅前で見たようなきゅるんとした目の鬼が、にこにこと手を振っている。

「人間だったもの」は、楽しそうにそれに手を振り返す。私は、何も考えずに車を走らせる。


また少し走った頃だろうか。街並みが、普通の住宅街から、すこし寂れてきて、荒野のような道が多くなってきた。

建物はそこそこ建っているが、「人間」が住みようなものとは少し違う。土のような素材でできているようで、そのそばには明らかに先ほどの鬼たちとは違う、若干恐怖感をあおるような三つ目玉がついた鬼たちが、4つある手を広げてじろりと様子をうかがっている。

しかし、「人間だったもの」はそんなことには気づかず、やはり楽しそうににこにこと手を振っている。


私は、また無心で走り続ける。


もうすぐ、目的地だ。


目的地に着くまで、「人間だったもの」は何も、何も気づくことはない。



少し小高い丘を越えると、目的地だ。丘を越え、少し走るとそこには「地獄」がある。これでも、前よりは縮小されたほうらしいけど…


「地獄」の門の前へ車をつける。門の向こうからは、阿鼻叫喚が聞こえる。

そこで、荷台の「人間だったもの」は、やっと異常に気付いて、叫び、パニックになり、必死で逃げようとするが、そこに構えている数人の恐ろしい外見をした鬼がそれを許さない。

逃げる「人間だったもの」を殴り、捕らえ、門を開け、そこで身ぐるみをはがしていく。

持っているこん棒や大きな針のようなもので引き裂き、煌びやかだったはずのドレスが、ただの布切れへ変わって、どこかへ消えてしまう。

全裸になった「人間だったもの」を、鬼がこん棒などでたたきながら、門の中へ追い立てていく。

私は、矛先が自分に向かないうちにさっさと車を走らせた。

ここは、来るたびに、やはり若干手が震えてしまう。

門のほうからは、まだ、「人間だったもの」のえげつない悲鳴が聞こえてくる。



そのあと何往復かしたかな。やっと今日の仕事が終わった。

「センター」へ戻って、休もう。

確か、明日は非番だったはずだ。

いろいろ教えてくれる「彼女」と、散歩にでも出かけようかな。


あまり難しいことは考えないこと。しかし、自分を保って、ある程度の意識は持っておくこと。

「彼女」が教えてくれた。


「彼女」と語り合って、自分を整理して、また仕事へ向かう。


理由はわからない。自分が何者かもよく分からない。

しかし、いまできる最善策はそれだけだ。


私は決して、「人間だったもの」に成り果てない。


「輪廻」しては、いけない。


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