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白球のシンデレラ  作者: 雅鳳飛恋
一年生編

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第45話 同点

 打席に立つ涼に視線を向けていた朝居は、考えを纏めると齊藤にサインを出す。


(岡田は長打もある。高めは危ない、低めを意識しよう)

(はい)


 朝居の意思を確りと理解した齊藤は頷いて投球モーションに移った。初球はアウトローにスクリューを投げ込むが、ストライクゾーンから低めに外れてボールとなる。


 二球目はインローにフォーシームを投じる。

 ストライクゾーンの際どい所に決まったフォーシームに涼は手が出ず、ストライクとなった。


 朝居は三球目のサインを出す。


(インハイにボール球よ)


 ボール球を要求する朝居のサインに迷いなく頷いた齊藤は、中腰になってミットを構える朝居目掛けて確りとボール球を投げ込んだ。

 これでカウントはツーボール、ワンストライクとなった。


 四球目はアウトローにチェンジアップを投じる。

 涼はバットを振るが、緩急差に対応出来ず空振りしてしまう。


(チェンジアップか。バット振るの早過ぎたな・・・・・・)


 涼は一度打席を外れ、数回素振りをして打つイメージを描いてから打席に入る。


 そして五球目、齊藤はサイン通りインローにカットボールを投げ込んだ。


(絶対打つっ!)


 涼は投げ込まれたカットボールにタイミングを合わせてバットをスイングする。タイミングは少し早かったが、確りとボールを捉えた。ボールは鋭い打球で三塁線へと飛んでいく。


(まずいっ!)


 打たれたと瞬時に認識した朝居は、マスクを外して立ち上がり、打球の行方に目を凝らす。


 三塁手である鈴木が三塁ベース側へとダビングキャッチを試みるが、僅かに届かずボールはグラブの先を通りすぎていった。


「フェアっ!」


 三塁ベースを越えてから三塁線へと切れた打球に、三塁の塁審がフェアだと宣告した。


 打球を確認した齊藤は、捕手キャッチャーである朝居の後ろへと移動し、カバーに備える。


 左翼手である長野が必死に打球を追い掛けて捕球した頃には、二塁走者(ランナー)だった慧は既に本塁ホームへ還るところであった。悠々と本塁ホームに還る慧の姿を視認した長野は中継に入る茂木へと送球するが、三塁ベースに到着寸前だったレンを刺すのは不可能だと判断し、二塁ベースへと懸命に走る涼を刺すべく二塁ベースで待つ平瀬へと送球した。二塁へと滑り込む涼と、ボールを捕球した平瀬がタッチにいくのは際どいタイミングであった。

 結果は――


「っ! セーフっ!」


 二塁の塁審が両腕を左右に広げて声高にセーフと宣言した。


「よぉしっ!」


 拳を握り締めてガッツポーズをする涼のツーベースヒットで同点に追い付き、三対三となった。


『四番岡田、タイムリーツーベースヒットを放ち、試合を振り出しに戻しましたっ!』

『確りと四番としての仕事を果たしましたね』

主将キャプテン岡田、プレーでもチームを引っ張ります』

『そうですね。この場面で同点に出来たのは大きいですよ。素晴らしい働きです』


 盛り上がる球場を背に打席に立つのは五番のセラだ。打席に向かうセラを尻目に朝居が球審に声を描ける。


「すみません。タイムをお願いします」


 タイムを取った朝居はマウンドへと歩を進めると、内野陣もマウンドへと集まる。


「すみません。打たれちゃいました」

「いや、コースも良かったし齊藤の形は良かったよ。その上で打たれた以上私のリードが悪かったって事。齊藤は気にする事ないよ」

「そうそう。気にせず、肩の力抜きなぁ~」


 軽く頭を下げる齊藤の胸をミットで軽く叩いて励ます朝居と、気の抜けた声色で声を掛ける平瀬の言葉に齊藤は気を楽にする。


「打たれたならこっちも打ち返せば良いだけさ」


 快活に笑う佐藤の言葉に、齊藤と同級生の茂木と鈴木も同意する様に声を掛けた。


 齊藤の表情から余計な固さが抜けたのを確認した朝居は、次の打者バッターに対する対策を伝えようと口を開く。


「次の打者バッターは敬遠しよう」

「満塁策だね。ツーアウトだし良いんじゃない?」


 平瀬を筆頭に頷く面々の後押しを受けて齊藤も賛同する。


「わかりました」


 満塁策はもちろんだが、セラより恵李華の方が比較的打ち取り易いという判断だろう。事実、今大会の打率、出塁率、得点圏打率など、打撃に関する成績はセラの方が良い。


 方針を固めると、各々自身のポジションへと戻っていく。 


 試合が再開されると朝居は立ち上がり、敬遠に備えてミットを構える。齊藤が敬遠球を四球投げると、セラは四球フォアボールで出塁した。


 そして満塁の場面で打順が回ったのは恵李華だ。

 左打席に入る恵李華は齊藤と相対する。


 齊藤は初球、アウトローにスライダーを投げ込む。

 恵李華は初球を見送ると、スライダーはストライクゾーンの外側に僅かに外れてボールとなった。


 二球目はインローにフォーシームを投じる。

 恵李華は再び見送るが、フォーシームはストライクゾーン内に決まりストライクとなった。


 三球目はインハイにフォーシームを投じてボールとなる。


 四球目はアウトローにチェンジアップを投げて恵李華から空振りを奪う。


 恵李華は五球目に投じられたアウトローへのカーブを捉えると、三塁側へのファールとなった。


 そして六球目、カウントはツーボール、ツーストライクの状況で投じられたのはインローへのシュートだ。

 恵李華はバットをスイングしてボールを捉えるが、打球は二塁手である平瀬の前へと転がってしまう。平瀬は前進して打球を捕球すると、素早く一塁へと送球する。一塁手の佐藤は確りとボールを捕球して、恵李華はアウトとなった。残念ながら恵李華はセカンドゴロに倒れ、三者残塁となってしまった。


「すみません。打てませんでした・・・・・・」

「気にするな。試合はまだ終わっていない」


 肩を落として悔しがる恵李華を励ます涼に続いて各々声を掛けていく。


「武内さんに代わって鈴木さんでいきます。準備は良いですか?」


 ブルペンからベンチに戻っていた真希に確認を取る早織に対して、真希は準備万端だと告げる。


 各々守備の準備を終えると自分のポジションへと向かって行く。


『鎌倉学館投手の交代があります。代打で出場した武内に代わり、背番号一〇番、二年生の鈴木をマウンドへ送ります』

『武内さんは野手なので投手を出す必要がありますからね』

『これで両校二年生同士の投げ合いとなります!』

『楽しみですね』


 三対三と同点の場面でマウンドに登った真希は一体どんな投球を見せてくれるのか、八回裏の守備が始まる。


『面白そう』『次も読みたい』

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