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白球のシンデレラ  作者: 雅鳳飛恋
一年生編

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第35話 勧誘

 寮へと戻った面々は、皐月と暁羅を暫し待たせる事になったが、軽く汗を流してから食堂に集まった。


「二人はいつまでこっちにいるんだ?」


 各々テーブルを囲んで座っている中で、涼は疑問に思った事を尋ねた。

 皐月と暁羅は京都ガールズ所属で、住まいも京都市内である。二人はガールズの選手の中でも特に有名なので、涼達も知っていたのだろう。


「そうですね。四回戦まではこちらに滞在する予定です。そのは皆さんの勝ち進み次第ですね」

「少なくとも三日後まではいるのか」


 二人は四回戦の藤院学園戦を観戦するそうだ。その後は鎌倉学館が勝ち進み次第だと言う。


「どうぞ」

「ありがとうございます」

「どうもです」


 会話に興じていると、和が淹れた飲み物を皐月と暁羅に差し出す。皐月は紅茶で、暁羅は珈琲だ。テーブルに置かれたカップからは、良い匂いが漂ってくる。


「それまではどこで過ごすのかしら?」


 四回戦まで三日ある。その間中学生である二人は何処に滞在するのかと心配になった春香が尋ねた。


「伯母様の御自宅でお世話になります」


 皐月が説明すると、暁羅も頷いている。どうやら、レンと皐月の伯母である綾瀬の自宅で寝泊まりする様だ。綾瀬の自宅は鎌倉市の鎌倉地域にあり、およそ一人で住んでいるとは思えない様な豪邸だ。

 ちなみに鎌倉学館は鎌倉市の腰越地域にあり、七里ヶ浜が目の前にある。


「そう。それなら安心ね」


 納得した春香は、安堵した表情を浮かべて頷いた。


「そう言えば、暁羅は鎌倉学館うちからも声掛けられているよね?」

「はい」


 レンが思い出した様に、鎌倉学館も暁羅を勧誘していると尋ねると、本人は肯定した。


「「「「「えっ?」」」」」


 レンと暁羅のやり取りを聞いていた、セラと澪以外の面々は吃驚している。


「っ! 痛ったぁ~」


 驚いた拍子に、恵李華が膝をテーブルにぶつけてしまった様で、膝を押さえている。

 恵李華の対角線にいる亜梨紗は、口許を両手で必死に押さえて口に含んでいた紅茶を吹き出さないよう懸命に我慢している。


「な、何でレンが知っているんだ?」


 鎌倉学館が暁羅をスカウトしている事を知っているレンの事を不思議に思った涼が、レンに対して訝し気な視線を向ける。


「ん? 私が綾ちゃんに言ったからね。皐月と暁羅をスカウトしろって」


 問われたレンは、自分が主導した事だと事も無げに言う。


「私もスカウトは任されているからね。私と先生《早織》が中学生のスカウトを主に行っているんだよ」


 レンの言う通り、スカウトは主にレンと早織が行っている。綾瀬も行っているが、野球部の事は当人達が一番理解している。なので、レンと早織に一任されているのだ。

 当然二人には、現地まで足を運んで視察する時間などない。なので現在は、目的の選手がいる場合は、他の部活でスカウトを担当している者に、それぞれ近くまで赴く者に頼んで、ついでに視察して来て貰っている。そしてレンと早織は、撮影して来て貰った映像などの資料を改めて確認する事になっている。


「そ、そうなのか。全然知らなかった・・・・・・」

「皆も気になるいたら言ってくれて良いよ。検討するから」


 レンは、逸材を発掘する可能性を広げる為に、皆にも中学生の事を気に掛けておく様に言う。

 そして、進学先に悩んでいる暁羅を、レンは改めて直接勧誘する事にした。


「暁羅は進学先に悩んでいるんだろう? だったら鎌倉学館うちにおいでよ。私は暁羅と一緒に野球したいしね。もちろん、野球をする上で強豪校に行くのは自然な事だし、正しい事だと思う。だけど、自分達の力で強豪校を作るのも面白いと思うんだよ。幸い鎌倉学館うちは設備も含めて環境が良いからね。それに自分達で部を強くすれば、大学やプロのスカウトも注目してくれるだろうし」


 レンはそこまで言うと一度口を閉じ、部員一同視線を順に向けてから、再び口を開く。


「だから、是非とも私と、この仲間達と一緒に鎌倉学館野球部の歴史を作ろうじゃないか」


 弁舌をふるうレンに対して、皐月が感動した様に熱の籠った視線をレン向ける。


「さすがお姉様です。良い事を仰います」


 お淑やかに興奮するという器用な事をしている皐月はもちろんの事、他の面々も感動や感心した表情を浮かべている。


「・・・・・・レンさんがそこまで言うなら、もう少し真剣に考えてみます」

「うん。今はそれで良いよ」

「とりあえず今大会でベスト四まで行けたら、前向きに検討する事にします」


 現時点では色よい返事を貰えたと判断したレンは、この辺でスカウトの話は切り上げる事にして、その後は久々に会った事もあり、会話に花を咲かせて過ごすのであった。


◇ ◇ ◇


 夕日が顔を覗かせ、辺り一面を橙色に染め上げている頃、皐月と暁羅は綾瀬宅に向かう事にした。


「それでは、そろそろおいとま致しますね」


 そう言って席を立った皐月と暁羅は挨拶を済ませ、寮の玄関へと向かう。玄関へと向かう二人にレンが声を掛ける。


「送って行くよ」

「私も行くわ」


 皐月と暁羅を綾瀬宅まで送って行く事にしたレンとセラは、共に出掛ける準備をする。


「そうだな。それが良い」


 これから日が沈む時間になるなか、中学生二人を知らない土地に送りだす訳にはいかないと判断した涼は、寮監――正式な寮監が決まるまでだが――としてレンとセラ二人の外出を許可する。

 寮生は外出時、外出届を提出する必要がある。外泊時は外泊届が必要だ。そして、玄関を入ってすぐの所の壁に貼り付いたホワイトボードにある個人の名前の欄に、外出する旨を記載しなければならない。

 生徒達にしてみれば少々窮屈に感じるかもしれないが、学校側からすれば、親御さんから大事なお子さんを預かっている事になる。なので、子供達を守る上で大事な事だ。


「折角鎌倉まで来たんだ。ついでに少し観光してくると良い」


 涼の好意により、四人で綾瀬宅に向かう道すがら、少し観光する事になった。


 仕度を終えて戻って来たレンとセラが靴を履くと、レンが三人を促す様に扉を開く。


「それじゃ、行こうか」


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