表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白球のシンデレラ  作者: 雅鳳飛恋
一年生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/62

第33話 代打

 澪が矢榮高校を無失点に抑えていても、攻撃では出塁してチャンスを作りながら、後一本が出なかった。そして互いに無得点のまま、とうとう九回裏までやってきていた。好投を続ける両校の先発投手は、九回まで続投している。


 この回の先頭打者である三番のレンが、左打席に入る。木村とは今日、四度目の対戦だ。


(ここでホームランでも打てばサヨナラか。狙ってみるかな?)


 どのような状況でも特に緊張する事なく、普段と変わらない精神状態でいられるのがレンの強みだ。


(ストライクゾーンに来たら初球から打ちにいこう)


 レンが方針を決めると、サイン交換を済ませた木村は袖で汗を拭い、一息吐いて集中力を高めてから腕を振りかぶる。

 木村が投じた球は、捕手がアウトローに構えたミットに吸い込まれていく。


(初球から来たね。打たせてもらうよ)


 確りとストライクゾーンに入っているボールを、レンは打ちにいった。鋭いスイングでボールを捉えると、ライナー性の打球がセンター方向へと飛んでいく。


「っ! いったー!」

「いったんじゃない!?」


 レンの打撃バッティングを見ていた鎌倉学館ベンチでは、身を乗り出して打球の行方を追い、ホームランじゃないかと声をあげている。


「いったぞ!」

「サヨナラだっ!」

「やられたっ」


 スタンドでもサヨナラだと盛り上がっていた。


 打球は中堅手の頭上を越えて飛んでいく。


(厳しいかな?)


 打った手応えからフェンスを越えなさそうだと思ったレンは、一塁を蹴って二塁を目指した。


 矢榮高校バッテリーは、焦った表情を浮かべて打球の行方に目を凝らしている。


 ライナー性で飛んでいった打球は、フェンス最上部に直撃して跳ね返る。後数センチ、数ミリでホームランという当たりだった。

 勢いのある打球だったため、打球を追う中堅手の前に綺麗に跳ね返ってしまう。打球を捕球した中堅手は、素早く中継に入る遊撃手に送球する。そのため、レンは三塁に向かう事は出来ずに、二塁でストップした。


「あぁー! 惜しいっ」

「後少しだった!」

「ナイバッ!」


 鎌倉学館ベンチでは惜しくもホームランにならなかった事に悔しさを顕にしているが、レンの打撃バッティングを称えている。


「危ねぇっ!」

「助かった!」

「まだ大丈夫っ! 落ち着いていこう!」


 対して矢榮高校ベンチでは、安堵した様子が広がっており――


「惜しいっ!」

「助かった!」

「サヨナラならずっ!」


 スタンドも大盛り上がりとなっている。


 結果、レンはツーベースヒットとなった。

 ホームランにはならなかったが、ノーアウト、二塁となり、チャンスを作る事に成功した。


(ツーシームだったか。少し芯外れたな)


 二塁を踏んでいるレンは、自身の打撃バッティングを振り替えっている。

 バットでボールを捉える時に、木村が投じた球がツーシームだったので手元で変化していた。レンもツーシームに対応したが、僅かに芯を外していた様だ。


「惜しかったね」

「えぇ。ほんの僅かでした。さすがお姉様です」

「チャンス継続だよ。次四番と五番だし、決めたいところだね」


 皐月と暁羅が会話していると、四番である涼が数回素振りをしてから右打席に入った。


(長打はいらない。レンの足なら安打ヒットでも還って来れる)


 レンの足なら長打でなくともホームに還って来れると判断した涼は、いつもよりバットを少し短く持ち、確実に安打ヒットを狙いにいく。


 捕手の出すサインに頷いた木村が腕を振りかぶる。初球はアウトローにカーブを投じてきた。

 涼は初球を見送る。見送ったカーブはストライクとなった。


 二球目、木村はインローにフォーシームを投げ込むと、涼は再び見送る。捕手が捕球すると、球審はボールとカウントした。

 これでワンボール、ワンストライクとなる。


 そして三球目、木村がアウトローにスライダーを投げ込む。


(来たっ! スライダー、待っていたぞ!)


 スライダーを待っていた涼がバットを振る。流し打ちでボールを捉えると、打球はライト線へと飛んでいく。


(入ってる。落ちろっ!)


 ヒットゾーンに落ちそうな打球を、やや前進しながらライト線側へと懸命に走って追う右翼手が、打球の落下地点へ飛び込んだ。ダイビングキャッチを敢行した右翼手が、見事に打球を捕球している。


(くそっ。それを捕るか・・・・・・)


 右翼手のファインプレーにより、ライトフライとなった涼が上を向いて悔しさを顕にしようとしていると――


「「「サードっ!」」」


 突然、捕手、三塁手、遊撃手の三人から指示が飛んだ。

 何と、浅い当たりだったにも関わらず、右翼手が捕球したのを確認したレンが、二塁を蹴って三塁へとタッチアップしていたのだ。指示を耳にした右翼手は、慌ててサードへと送球する。疾走するレンは、三塁へと滑り込み、塁審の判定は――


「セーフっ!」


 塁審が両腕を広げて、セーフと宣告した。

 その瞬間、スタンドが盛り上がる。


「ナイスタッチアップ!」

「速いっ!」

右翼手ライトもナイスプレイ!」


 レンのタッチアップを見届けた涼は、安堵したのか、一息吐いてから気持ちを切り替えてベンチへと戻る。


「ナイスランっ!」

「良く走った!」


 鎌倉学館ベンチから、レンの好走塁に労いの言葉が飛んでいると――


「ナイス最低限」


 ベンチに戻った涼へ、春香が揶揄う様に声を掛けていた。


「結果的には進塁打か。レンに助けられたな。不甲斐ない」


 涼は春香の言葉に、悔しさや不甲斐なさを内包した複雑な表情で答えて肩を竦める。


「あれは仕方ないわ」


 右翼手のファインプレーがなければ、確実に《安打》ヒットだっただろう。春香の言う通り仕方ない。相手を褒めるしかない場面だ。


 そして、ワンナウト、三塁の状況で、五番のセラへと打順が回る。


 セラは一球目と二球目を、確りと見極めてボールを選ぶ。

 

 三球目は、アウトローに投げ込まれたシュートを見送り、ストライクとなる。


 木村は四球目にフォーシームをインハイに投げると、セラは見送りボールとなった。

 これで、スリーボール、ワンストライクとなる。


(ボール三つ。四球フォアボールでも狙おうかしら?)


 ボール先行となった事で、セラは無理に打ちに行かずに四球フォアボールを狙う事も視野に入れる。


 捕手のサインに頷いた木村は、五球目にスライダーをアウトローに投じた。


(カットさせてもらうわね)


 ストライクゾーンの際どいところに来たスライダーを、セラはカットしてファールにする。


 セラは続く六球目も際どいところに来た球を、カットしてファールにした。


 そして七球目、木村がインローに投げたカーブはストライクゾーンを外れ、ボールとなる。これで四球フォアボールとなり、セラは一塁に出塁した。


 ワンナウト、一塁、三塁となって、矢榮高校はタイムを取る。

 どうらや投手は交代しない様だ。三年生にとっては、負ければ引退となる。だからなのか、ベンチにはエースである二年生の高橋が控えているが、三年生エースである木村で最後まで行くつもりらしい。


 そして鎌倉学館ベンチが動く。

 恵李華がネクストバッターの場面で、代打を送る様だ。


 早織に名前を呼ばれてベンチから出てくる。


「決めてこいっ!」

「打てるよ!」


 チームメイトに声援を送られて現れたのは――


『鎌倉学館高校の選手の交代をお知らせします。六番、杉本さんに代わりまして、武内さん。打者バッターは武内さん。背番号一三』


 ウグイス嬢のアナウンスとともに、ベンチから姿を現したのは攸樹であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] カーブがスライダーになっていたり、 三塁にいったはずなのに二塁にいたりと あべこべになっていたりするので、 状況がこんがらがります。 [一言] 野球系の小説は凄い好きなので、ペースゆっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ