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白球のシンデレラ  作者: 雅鳳飛恋
一年生編

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第28話 ファンクラブ

 矢榮高校のエースである高橋の決め球、縦スライダー対策には、真希に縦スライダーを投げてもらい行っていた。高橋はオーバースローで、真希はスリークォーターなので変化に若干の違いがあり、急速も違うが、やるに越した事はない。ただし、真希の縦スライダーに慣れすぎるのも良くないので程々に行う。


 もちろん、高橋が先発で来る保証はないのだが、可能性が有る限り対策を講じる必要がある。むしろ、鎌倉学館に勝てば次の対戦相手が藤院学園なので、三回戦ではエースである高橋を温存する可能性は高い。


 高橋ではないのならば、二番手の先発である背番号一一番の三年生、木村で来る確率が高い。なので当然、木村対策も行う。

 右投げで、最速一二九キロのフォーシームに、ツーシーム、スライダー、カーブ、シュートを持ち合わせている。


 レンはセラと純の三人で打撃バッティング練習をしていた。


「変化球ってどうやったら打てる?」


 変化球を打つ事が苦手な純が、レンとセラに質問をする。


「んー。純は眼が良いから狙い球を絞ってみたら?」

「狙い球を絞る?」

「そう。例えば変化球を捨てて、フォーシームに狙いを絞るとかね」

「相手が変化球しか投げて来なかったら?」

「その時は純の眼の良さを生かすのさ」

「眼を?」


 アドバイスを求める純に、レンは狙い球を絞ってみる様に助言をした。

 

 純は変化球には弱いが、直球には滅法強い。それは、ボクシングをしていた事もあって、動体視力が良いからだ。変化球に弱いのは、まだ野球を始めたばかりなので仕方ない。経験を踏み、練習を重ねれば自ずと変化球も打てる様になるだろう。


 眼が良いので、投手が投げてからでも球種を判断できる。なので変化球なら捨てる、直球なら打つという判断も可能という訳だ。

 だが、純の言う通り変化球しか投げてこない場合も当然ある。その時は四球狙いしかないだろう。


「相手がストライクしか投げなければアウトになるよね」

「それはもちろん。だから変化球は打てなくても、カットを出来る様になろう。カット出来る様になれば、自ずと変化球も打てる様になると思うよ」

「私に出来る?」

「出来るさ。何度も言うけど、純は眼が良いからね」


 ストライクゾーンに入るか入らないか微妙な、際どい変化球だけでもカット出来る様になれれば良い。カットしていれば、ボール球を稼げるし、フォーシームを投げてくる様にもなるだろう。

 一朝一夕にはいかないが、眼の良い純には最適だろう。打撃バッティング技術を磨く事にも繋がるので、長い目で見てもプラスになる。


「私達が付き合うから挑戦してみないかい?」

「えぇ。純なら案外すぐ出来る様になるかもしれないわね」

「・・・・・・わかった。やってみるよ」


 練習に付き合うので挑戦してみないかと尋ねるレンとセラに、純は数瞬考える素振り見せたが、挑戦してみると決意を固めた。


「それじゃ、早速やってみようか」


 純の了承を得たレンは、早速とばかりに純が身に付け様としているカット打法の練習を始めるのであった。


◇ ◇ ◇


 三回戦前日、授業を終えたレン達一年生組は、休み時間にベンチなどが置いてあるホールに集まっていた。


「明日はいよいよ三回戦だね」

「厳しい試合になるね」

「矢榮高校が相手だもんねぇ」


 いよいよ三回戦だと意気込んでいる亜梨紗に、千尋が厳しい試合になると冷静に分析する。


「実力も実績も相手の方が上なのは変わらない事実だけど、世の中に絶対は存在しないからね」

「そうよ。強い方が勝つんじゃなくて、勝った方が強いのよ」


 やってみないとわからないと言うレンとセラの元に近寄り、声を掛ける者達がいた。


「レン様、明日も頑張って下さい」

「応援に行きますね!」


 レンの事をレン様と呼ぶ一団と――


「お姉様、私達も応援に行きますねっ!」

「お姉様の勇姿、しかと拝見致しますわ!」


 セラの事をお姉様と呼ぶ一団だった。


「あぁ。ありがとう」

「ありがとうね」


 レンとセラは、二組の一団に対し、若干苦笑を浮かべながら礼を述べると、一通り言いたい事を述べた一団は離れて行く。


 レンとセラにはそれぞれファンクラブが存在している。

 レンのファンクラブには、レンに対し憧憬を浮かべている者や、恋愛対象として見ている者など、様々な者達がおり、セラのファンクラブは、セラの事を純粋に慕っている者達で構成されている。なのでレンはファンクラブの者達にはレン様と呼ばれ、セラはお姉様と呼ばれているのだ。

 

「相変わらず人気者だね」


 二人の人気ぶりに、揶揄う様な表情を浮かべた千尋が呟く。


「ほんと、二人ともあっという間に学園のアイドルになったよね」

「私、お姉様呼びは都市伝説だと思ってたよ」


 二人があっという間に人気者になって驚いたと亜梨紗が言い、慧も都市伝説だと思っていたもの間近で目撃して苦笑を浮かべている。


「せめて様を付けるのは止めて欲しいんだけどね」

「私も上級生にまでお姉様と呼ばれるのは勘弁して欲しいのだけれど」


 様呼びを止めて欲しいと言うレンに、複雑な表情を浮かべているセラが追従した。

 レンは学年関係なく、ファンクラブの全員からレン様と呼ばれており、セラも学年関係なく、ファンクラブの全員からお姉様と呼ばれている。


「お姉様呼び自体は良いんだ」


 千尋は上級生にまでお姉様と呼ばれる事に複雑な表情を浮かべているセラに、お姉様と呼ばれる事は良いのかと尋ねた。


「まぁ、それは慣れているから許容範囲ね。出来れば止めて欲しいけれど」

「慣れてるんだ」


 セラの慣れている発言に、千尋はほんの少しだけ驚いた表情を浮かべ、レンと澪以外の面々ははっきりと驚きを顕にしている。


「えぇ。レンの従妹にお姉様って呼ばれているのよ」

「それは私もだな」

「レンちゃんの従妹?」


 セラがレンの従妹にお姉様と呼ばれていると告げると、レンも呼ばれていると言う。亜梨紗は、二人の事をお姉様と呼んでいるレンの従妹の事が気になったので尋ねた。


「如月皐月って言うんだけど、来年鎌倉学館うちにスポーツ推薦で入学する事が決まっているよ」

「如月皐月・・・・・・あぁ、あのか」

「ちーちゃん知ってるの?」


 レンが従妹の事を説明すると、千尋が思い出したように呟く。呟きを聞いた亜梨紗が、千尋に視線を向けて問いかけた。


「うん。去年代表合宿で一緒だった。もっとも彼女はメンバーに選ばれて、私は落ちたけど」


 自虐を含んだ千尋の説明に気まずくなった亜梨紗は、話を逸らす様に疑問思った事を尋ねる。


「如月って事は理事長の娘?」

「いや、綾ちゃんは未婚だから違うよ。綾ちゃんは長女で、皐月は三女の娘」

「なるほど」


 レンの説明に納得した亜梨紗の横から、純が質問をする。


「来年入学すって事は、今は中三でしょ? って事は中二の頃にU―一五日本代表に選ばれていたって事?」

「そうだよ」

「そんな来年鎌倉学館うちに来るって凄くない?」


 自分の質問にレンが肯定したのを確認した純は、皐月が来年入学してくる事実に驚いた。


「実力は確かだよ」

「そうだね。多分、今の中三の代で一番有名だと思う」


 実力は確かだと言うレンの言葉に、千尋も太鼓判を捺す。


「私より市ノ瀬の方が詳しいと思うけど」

「そっか。澪ちゃんは代表で一緒だったんだもんね」


 千尋が皐月の事は自分よりも澪の方が詳しいと言うと、亜梨紗は澪に視線を向けた。


「さっちゃん良い子」


 視線を向けられた澪は、聞いた事のある様な返答をした。

 秋本翔子の時と同じ回答である。


「話が逸れたけど、皐月にお姉様って呼ばれているから慣れているんだよ」


 いつも通りな澪の答えに、あまり期待していなかった面々は、話を元に戻す。

 セラが皐月にお姉様と呼ばれているから慣れているのだと、レンが説明した。


「なるほどねぇ」


 レンの説明に納得した面々の横で、亜梨紗がうんうんと頷いている。


「そう言えば、澪にもファンクラブあるよね」


 一通り納得したところで、慧が澪のファンクラブについて言及する。


「あれは、ファンクラブと言うか、保護者会」

「そうだね。見守り隊とも言うね」


 澪のファンクラブは、保護者会だと言う千尋と、見守り隊だと言う亜梨紗。


 千尋と亜梨紗が言う事は的を射ているだろう。澪の事を見守り、手助けしたり、餌付けしたり、可愛がっているという方が正しい。澪が一番愛されキャラかもしれない。


「確かに」


 千尋と亜梨紗の言葉に大いに納得した慧は、ファンクラブ?のメンバーにお菓子を貰っている澪の姿を視界に収めた。

 その様子を見て談笑していた面々は、次の授業が始まるまで会話に華を咲かせていた。


『面白そう』『次も読みたい』

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