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白球のシンデレラ  作者: 雅鳳飛恋
一年生編

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第25話 二回戦

 横須賀東高校対策を十全に行ってきた鎌倉学館野球部は二回戦の日を迎えていた。横須賀東高校にとっては初戦だ。

 この試合も鎌倉学館は三塁側のベンチになる。主将である涼がじゃんけんに勝ったので、今日は後攻だ。


 鎌倉学館 スターティングメンバー


 一番 遊撃手 進藤慧

 二番 二塁手 椎名飛鳥

 三番 中堅手 V・ヴァレンティナ

 四番 三塁手 岡田涼

 五番 一塁手 N・セラフィーナ

 六番 捕手  守宮千尋

 七番 左翼手 杉本恵李華

 八番 右翼手 佐伯静

 九番 投手  宮野春香


 一回戦とは投手が変わっただけで、それ以外に変更点はない。


 この試合は後攻なので守備から始まる。

 マウンドに向かおうとする春香に、千尋が声を掛ける。


「今日はシュートを封印します」

「? あぁ、なるほどね」


 千尋のシュート封印宣言を春香は一瞬疑問に思ったが、すぐにスタンドに視線を向けて納得した。


「私達の様な無名校でも、ちゃんと偵察してくれるのね」


 春香の視線の先には、藤院学園の偵察部隊と思われる者達の姿があった。人数が多いからこそ、当たる可能性のある対戦カードには、片っ端から偵察部隊を送り込む事が出来るのだろう。なので鎌倉学館対横須賀東の様な、特に強いところでも有名なところでもない高校同士の対戦にも人を送れるのだ。


「抜かりないわね」

「だからこそ強豪でいられるんですよ」

「そうね」


 藤院学園のような優勝候補にも名があがる強豪校でも、相手に関わらず確りと偵察をする。だからこそ強いのだ。強豪校でいられる所以でもある。


「出来ればチェンジアップも隠したいので、可能な限りチェンジアップのサインも出さない様にします」

「わかったわ。ここで負けたら隠す意味もないものね」


 隠せるものは何でも隠しておくに限る。それが強者と戦う時に行える有効な手だ。だが、先の事ばかり考えて足元を掬われていては本末転倒だ。なのでシュートは封印するが、チェンジアップは可能ならば封印するというスタンスなのである。


 納得した二人はグラブを突き合わせると、各々自分のポジションに向かって行った。


 横須賀東高校の一番打者が左打席に入る。


 千尋は初球、アウトローにフォーシームのサインを出す。サインに頷いた春香は確りと腕を振って投げ込んだ。

 投じたフォーシームは、アウトローいっぱいに決まってストライクとなる。打者バッターは初球を見送った。


 二球目は、一球目よりも外側にフォーシームのサインを出す。ストライクゾーンからギリギリ外れたコースだ。春香はサイン通りのコースにフォーシームを投じる。

 千尋のミット目掛けて吸い込まれていくフォーシームを、打者バッターは一瞬悩んだ様だがバットを振った。打球は三塁側のファールゾーンへと飛びファールとなる。


 打者が振りにきたのを確認した千尋は、三球で仕留める事に決め、サインを出した。


(インコースにカーブね。わかったわ)


 千尋のサインを確認した春香は、頷いて腕を振りかぶった。ストライクゾーンいっぱいに構えられた千尋のミットを目掛けてカーブを放った。

 打者は一球目と二球目のフォーシームの残像が残っており、その上緩急差にもやられてバットを振るタイミングが早くなってしまい、空振りしてしまう。

 これで、打者バッターは三球三振となった。


 一人目から三球三振を奪えた事に、春香は控えめに拳を握り喜んでいた。そんな春香に千尋はボールを返球する。 


 続く二番打者は右打席に入った。


 春香は千尋のサイン通り、初球はカーブをアウトローに投げ込んだ。そのカーブをバッターは見送りストライクとなった。

 打者バッターは数回素振りをして、カーブに対しての振りを確認している。


 二球目はインローにフォーシームだ。千尋のミットに吸い込まれたフォーシームを、打者バッターは空振りする。初球のカーブをイメージし過ぎていたのかもしれない。


 三球目に千尋は、インハイにフォーシームのサインを出す。


(ボール球を。打者を仰け反らせるつもりで)


 千尋は遊び球としてボール球を要求した。春香はサイン通り打者バッターを仰け反らせるつもりで、打者バッターの顔面目掛けてフォーシームを投げ込んだ。

 一応言っておくが、当てるつもりはないので本当に顔面目掛けて投げている訳ではない。確りと狙って投げているので当たる事はない。制球が乱れなければの但し書きがつくが。

 打者バッターは仰け反る事はなかったが、確りとボール球を投げて打者バッターの意識に植え込む事が出来た。

 これでワンボール、ツーストライクだ。


 そして四球目、千尋はアウトローにスライダーのサインを出した。


(これで終わってくれれば良いけど)


 サインに頷いた春香は、千尋のミット目掛けてスライダーを投げ込んだ。

 狙い通りに投じられたスライダーを、打者バッターは打ちにいく。バットを振ってボールを捉える。だが、打球は一塁手であるセラの前に転がってしまった。打球をセラが確りと捕球して、自分で一塁ベースを踏んだ。

 これで打者バッターはファーストゴロとなり、ツーアウトとなる。


 そして三番打者を迎える。三番打者は左打席に入った。


 千尋は初球、アウトローにフォーシームのサインを出し、春香はサイン通りに投げ込んだ。


(フォーシームなら初球からでも打ちにいくっ!)


 すると打者バッターの狙い通り投手ピッチャーが初球からフォーシームを投げたので、彼女はバットを振った。鋭いスイングでボールを捉えると、二遊間の二塁手寄りに低いライナー性の打球が飛んでいった。


(やられたっ!)


 初球打ちを狙っていた打者バッターに、千尋はしてやられたと表情には出さずに心の中で苦い顔を浮かべていると――


「アウトっ!」


 二塁の塁審がアウトを告げていた。


 なんと、誰もがセンター前ヒットだと思った打球を、飛鳥がダイビングキャッチで打球を捕球したのである。ファインプレーだ。抜群の打球反応と打球予測である。流石の守備範囲だ。


「ナイスプレイ!」

「助かったわ」


 ベンチに戻る飛鳥を、涼と春香がたたえた。


「くっー。私も負けないぞー」


 飛鳥のプレイに感化された慧も気合いを入れている。


「さすが椎名だっ!」

「やっぱり実力は本物ね!」

「ブランクがあっても衰えてはいないようだなっ!」

「当たり前よ。元U―一五日本代表のキャプテンよっ」


 飛鳥の好捕にスタンドは盛り上がっていた。


「さて、次はこちらの攻撃です。椎名さんのお陰で流れはこちらに傾きました。このまま観客を味方につけてしまいましょう。」


 早織の言葉に返事を返した面々は、気合いを入れて攻撃に移る。


「それじゃあ、行ってきますっ」


 鎌倉学館の切り込み隊長である慧がバットを持って打席に向かっていった。


『面白そう』『次も読みたい』

と少しでも思って頂けたら励みとなりますのでブックマーク登録や評価、感想を頂けると嬉しいです。

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