後ろには
初めて見たのは、いつの日だったか。
とても暑い日、あなたがまだ、生まれた年の話よ。
あなた、六月生まれでしょう。
その年の八月は、とても暑くてね。
私は土間で、洗濯をしていたんだけれど、あなたを居間に置きっぱなしにしていたのよね。
まだ二ヶ月、寝返りもうてない時期だったから、寝ているうちに洗濯をしようと思ってね。
ベビー布団に寝かせて、洗濯を終えて、居間をのぞいたの。
あのね、おおばあちゃまがね、あなたを扇いでいたのよ。
おおばあちゃまはね、あなたが生まれる一か月前に亡くなったの。
とても、あなたが生まれるのを楽しみにしていてのだけれど、急にね。
暑い日だったし、お盆も近かったし。
あなたを扇ぎに来てたんでしょうね。
それが、一回目よ。
次に見たのはね、あなたが小学三年生の頃だったかしら。
あの日もね、とても暑かったのよ。
あの頃は家も建て替えていて、クーラーがついていたんだけどね。
お父さんが寒がりでしょう。
クーラー切って寝てたんだけど、熱くて目が覚めちゃって。
クーラー付けようと思って、リモコンのところに行ったらね、女の子がいたの。
サスペンダー付きの、古臭い赤いスカートをはいた女の子がね、私を止めるの。
結局、クーラーを入れずに寝たんだけど、なんだったのかしら。
それ以来、一度も見てないけれど、アレは、座敷童だったのかしらね。
母親が聞かせてくれた、昔話。
ああ、そういうことが、あったんだ。
私は振り返らず、おおばあちゃまの気配を感じて、フフッと笑う。
私は振り返らず、母親の子供だった時に手放した子供らしさを感じて、フフッと笑う。
私の後ろには、二人がいるもの。
ずっと、いるけれど、気付いたらいけないかなって思ってね。
おおばあちゃまは、いつも私を心配そうに、見守っている。
あと一ヶ月で会えたのに。
そういう気持ちが、ここに残って、今も私と、共にある。
母の子供だった時に手放した子供らしさは、いつもニコニコして私の周りをうろついている。
幼い日の母親は、その母親の理不尽な身勝手で、子供らしさを手放さなければならなかった。
その手放した子供らしさは、私が生まれた時に、成長する私と共にあることで喜びを得たいと願った。
私が大人になっても、私の後ろには。
二人がいるのを知っている。
私がこの身を、離れたときに。
私はあなたたちを知っていたよと言って、まっすぐ目を見つめて、お話しできたらいいなって、思っているの。
今はまだ、私、気付かないふり、しておくね。
もう少し、私と一緒に、私の人生、楽しもうね。