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第73話:心にアイビーの花束を

ご興味を持っていただきありがとうございます。


個人的砂糖大量投入回。


楽しんでいただけたら幸いです。

 秋晴れの柔らかい陽射しが窓からほんのり差し込む。その眩しさに俺の意識は海底からゆっくりと浮上した。


「あっ……起きちゃった……もう少し寝ててよかったのに……」


「……早紀、さん……? おはようございます……?」


「フフッ。はい、おはよう、晴斗。どうしたの、そんな惚けた顔して。もしかして寝ぼけてるの? 晴斗って、朝弱いタイプ?」


 そんなはずはない。親に起こされることなく自力で起床して、小、中、そして高校生になってからも遅刻は一度もしたことはない。


 なら何故俺が驚いたような間抜けな顔をしたかと言えば。


 早紀さんが俺の心臓に頭を乗せて上目遣いで覗き込んでおり、しかもその身体は一糸まとわぬ生まれたままの姿であり、豊満かつ豊潤なたわなな果実も生で俺の身体に押し付けられているからだ。


 その感触は一度味わったら忘れられ禁断の果実。それを朝から楽しむ俺の格好もまた彼女と同じ裸身。さながら初夜を終えたアダムとイブのような姿で俺達は抱き合っていた。


「あぁ……そっか。昨日、俺は……早紀さんと……」


 思い出すのは昨日のこと。


 追い詰められて疲弊して凍り付いた俺の心を、慈愛に満ちた優しい温度で溶かしてくれた早紀さんに俺は思いを伝えた(告白した)


 貰っているばかりいる俺でもいいと早紀さんは言ってくれた。そして、俺のことが好きだと言ってくれた。それがすごく嬉しかった。


 思いが結ばれたことに心が悦び、俺は離れたくないと無意識のうちに口にしていて、そして―――


「そうだよ。晴斗が、私の初めて(・・・)の人になったの。今まで生きてきた中で、一番……幸せな夜だったよ」


 まるで猫が甘えるように。己の匂いを沁みつかせるように。俺の身体に早紀さんはスリスリと身を擦り付けた。


「俺も早紀さんが初めてです。あなたと一緒になれたことを、俺は一生忘れません。すごく……幸せです」


 目が合う。静かな朝焼けが差し込む部屋。短いようで長い一夜を、身も心も愛する人にゆだね合ったから、早紀さんが何を望んでいるのか口にされなくてもわかる。


 ゆっくりと顔を近づけて。そっとキスをする。最初は優しく甘く。唇の感触を味わうように啄ばむような初々しい口づけ。


「はると……んゅ……っちゅ……はぁ………はると……好きよ……んんっ」


 早紀さんの吐息に甘美だけでなく艶美が混ざり始める。月夜の中で幾度となく聴き、俺の脳髄を蕩けさす魔性の音色。身体全体に血流が回り出す。


「フフッ。好きな人とする……んっ……チューって……はぁむ……きもちぃ……んんっ。いいね……っちゅ……」


「俺も……んっ……こんなに、キスが……気持ちいいなんて……知りません……でした……あぁっ……早紀さん……大好き、です」


 強く、離さないと意志を込めて俺達は抱きしめ合った。二人の間に阻むものは何もなく。ただ愛しい人を求めて、俺達は色欲的なキスをする。


「はぁ……はぁ……はると……はると……私……我慢できなくなりそう……ねぇ、まだ時間……ある、よね?」


「……はい。まだ……大丈夫です……んっ……早紀さん……俺も……」


「うん……わかってるよ。だってはるとの……フフッ……可愛い……たくさん、イチャイチャしよ?」


「はい……でも早紀だって……火傷しそうなくらい……熱くなってますよね?」


 こら、恥ずかしそうに頬を染めながらぽかんと頭を叩かれた。でも怒っていることは全くなく、無意識に俺達は再び唇を溶かし始めた。


 たった一晩で変わったものだと思う。それだけ昨日という日は俺にとっても、そして早紀さんにとっても特別な日だったという証拠だ。


 早紀さんの寝室で。心臓が飛び出るほど緊張しながらキスをして。お互い初めてでドギマギしながら、中々上手くいかなくてお互い笑い合いながら、愛する人と繋がることが出来たことが嬉しくて、幸せで、二人して涙を流した後はただひたすらに求め逢った。


 呼吸すら忘れてキスをしていた俺達は、酸素を求めて一度別れた。妖しく伸びる唾液の糸を早紀さんはじゅるりとわざと音を立てて吸い取り、得意げな表情で俺を見つめる。エロカッコいい。なんて馬鹿な感想を抱いていると、早紀さんは俺に枝垂れかかった。


「晴斗……私ね。今すごく幸せなの。」


「俺もです、早紀さん。あなたと一つになれて、幸せです。だから……ずっと……ずっと……そばにいてください」


「大丈夫。大丈夫だよ、晴斗。私はどこにも行かない。大好きなあなたのそばから居なくなったりしないから……安心して?」


「はい……はい……」


「もう。晴斗ってばこんな寂しがりだったけ?」


「自分でも驚いてますよ。でも……どうしよもないんです。早紀さんがいなくなったら、なんて考えたら……俺は……」


「バカ……私が晴斗のそばからいなくなるわけないでしょう? それに私はね。初めて心から好きになって、初夜を捧げるほど愛している男を、簡単に捨てられるほど器用じゃない」


 早紀さんは鋭い口調でそう言うと、俺の上に覆いかぶさる。俺を一心に見つめる早紀さんの瞳には力強さと慈しみが感じ取れた。早紀さんは前髪をふわりとかき上げてから俺に宣告した。


「だからね、晴斗。覚悟しなさい? あなたが私を嫌いになるまで、私はあなたを離さない(愛している)から。だから晴斗も私のことを…………離さないでね?」


「俺が……早紀さんを離すこと(嫌いになる)なんてありえません。ずっと、ずっと、あなたを愛しています(離しません)


 そしてまたキスをして。


 この幸せがずっと続くことを心から願い。


 キラキラと輝く朝日を浴びて、俺達は一つになる。



*****



 それから。時間を忘れて心と身体を求め逢った結果。かなり時間に余裕があったはずなのに、気付いた時には悠長にしていられる時間はなくなっていた。


「早紀さん……これどうしたらいいんですか? さすがに……目立ちますよね、これ」


 昨日着ていたYシャツや下着一式は、早紀さんの家のドラム式洗濯機でばっちり乾燥まで終わっているので安心して袖を通したまではよかったのだが。俺は鏡を見ながら首筋に手をあてる。そこに映っているのは綺麗な歯型。血こそ滲んでいないものの、くっきりとその痕が刻まれている。


「キスマークを通り越して歯型とは……」


「うぅ……だから何度もごめんて謝っているでしょう? そもそも晴斗があんまりにも気持ちよくするのが悪いんだもん! だから思わず……うぅ。昨日まで童貞だったとか絶対嘘だよぉ……」


 早紀さんは昨晩とつい今朝のことを思い出して涙交じりの声で抗議の声を上げる。ちなみに彼女は現在朝食を作っている真っ最中だ。


「だもんって……それを言うなら早紀さんこそ、処女だったわりにはかなり積極的でしたよね? まぁ俺からしたら最高だったんですけどね」


 普段の凛とした、頼りがいのある綺麗なお姉さんという印象だった早紀さんがベッドの上で啼き、狂い、乱れるその姿は男の欲情を駆り立て、さらに愛を与えたくなる可愛さがあった。


「もう! どうして晴斗はそうやって意地悪言うかなぁ!? うぅ……晴斗がベッドヤ●ザだとは思わなかったよ……」


「ハハハ。まぁそれはいいとして。ほんと、どうしましょう……。さすがにこのまま行くのは気が引けるというか……」


「なんか軽く流されたけど……そうだね。まぁ定番かもしれないけれど、絆創膏を貼っていくのが無難かな? ファンデとか塗りたくって隠すこともできないことはないけどその色だとさすがに誤魔化しにくいだろうし…………それにどうせ追及されるにしても、何があったか暗示できるでしょう?」


 もし仮に、悠岐が同じようにひどく落ち込んだ翌朝、首筋に絆創膏を貼って元気に登校して来たら何があったかと勘繰るし、何があったか追及する。それに、思春期まっさかりの男子にはここまで出来事を話すのは刺激が強すぎないだろうか。


「晴斗はひどく落ち込んでいて、それを隣に住む女子大生に慰めてもらってそのまま食べられちゃった、って言えばいいんじゃないか? みんな私のことだってわかるでしょう?」


 なんて、寂しく苦笑交じりの声で早紀さんは言う。どうして自分を悪者にして俺を庇おうとするのだろう。この人からすれば俺はまだまだ子供で、彼女の前で何度も弱音を吐いてきた。だから俺の弱い心を守るために言ったのがわかる。そうさせてしまった自分が情けない。守られていだけは嫌だ。俺は思わずムッとして言い返した。


「…………わかりました。好きな人と結ばれて、一晩中イチャついてマーキングされたんだって自慢します」


「ちょ、ちょっと晴斗? そんな、なにもはっきりと言わなくても……」


「すいません、早紀さん。俺が馬鹿でした。好きな人に付けられた(愛の証)なら堂々としていないと。だって俺は……早紀さんの男なんですから」


 そうだ。恥じることは何もない。この疵は早紀さんからあふれ出た愛の証。それなら彼女を愛する男として卑下することなどあってはならない。ましてや、それを彼女のせいとして言い訳するなど論外だ。


「はぁ……ホント、晴斗が高校一年生か時々わからなくなるなぁ。でも、ありがとう。そう言ってくれて。それなら私も……晴斗に(愛の証)、つけて欲しいなぁ。なんてね、フフッ」


 フライパンの上ではちょうどフレンチトーストが焼きあがろうとしている。昨晩寝る前に仕込んでおいたそれは卵、牛乳と蜂蜜で作られた卵液がたっぷりと染み込んでいるからふわふわと仕上がっている。俺はそれを早紀さんを後ろから抱きしめながら肩越しに眺めた。


「っえ……フフッ。晴斗、どうしたの? もしかして、構ってほしくなったのかな? もう少し待ってて―――ひゃぁぅ!? っえ? ちょ、もう、いきなり舐めないで……あっ……っくうぅっ…………はぁ、はぁ……は、はるとぉ……ど、どうした……の?」


「―――黙って」


 肩越しに火を止めて。俺は早紀さんの白くて綺麗な首筋に舌を這わせて湿らせてから、甘く噛みついた。快感と痛みの狭間を堪能してもらうため。彼女の口から漏れだす吐息を聞き逃さないように理性では気を付ける。だが本能が俺の想い(愛情)を彼女の身体に刻み込めと訴えを起こす。童話の中の吸血鬼の気持ちが今なるわかる気がする。


 時間にして五秒ほどだろうか。俺はゆっくりと早紀さんの首筋から口を離す。その際、これ以上唾液が彼女の身体を汚さぬように、噛み痕の周辺含めて二度、三度としっかり舐めてふき取る。


「はぁ……はぁ……は、はるとぉ……突然……びっくりしたよぉ……」


 わずかな間呼吸を止めていたためか。早紀さんは少しぐったりして俺に身体を預けてきた。しっかりと肩から腕を回して包むように抱きしめる。


「早紀さんが言ったんですよ? 俺に疵をつけてほしいって。だから、しっかりと。あなたの身体に俺を刻んだんです。痛くなかったですか?」


「……ううん。痛くなかったよ。むしろ……少し気持ちよかったくらい。晴斗の気持ちがすごく伝わってきて……嬉しかった。これでお揃いだね、晴斗」


 首だけを回した少し無理な大勢で互いに唇を啄ばんでから。せっかく作った朝食が冷めないうちに盛り付けてテーブルにつく。


「なんかバタバタしちゃったけど……朝はしっかり食べないとね」


「そうですね……ありがとうございます。早紀さん」


「いいの。気にしないで。早く食べないと時間無くなるよ?」


「はい。それじゃ……いただきます」


 何でもない朝。


 それを好きな人と一緒に居るだけでこんなにも輝くのか。


 孤独な夜は明け。


 雲一つない青空が、俺の心に広がった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] (っ'ヮ'c)<ウッヒョォォォォオって感じの回でした(語彙力) 糖度マシマシで嬉しいです!w [一言] お久しぶりです〜
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