表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/104

第66話:天才打者の恋心?

ご興味を持っていただきありがとうございます。



楽しんでいただけたら幸いです。

 俺は今、コーヒーの準備をしつつ並行してスロージューサーにオレンジを投入してしながら、顔を真っ赤にしてキャンキャンと喚く悠岐の相手をしている。


「おい、晴斗! どういうことだ! なんでナオちゃんだけじゃなくて飯島さんが一緒に来ているんだよ!? お前はそんなに僕のことを辱めたいのか!? そうなのか!?」


「あぁ……そのなんだ。悪かったよ、悠岐。今度好きな物奢ってやるから、今は落ち着いてくれ。な?」


「な? じゃない! 言おう言おうと思っていたけど、お前はこの人に甘すぎだ! もう少しビシッと言わないとダメだと僕は思うぞ!」


「はいはい。わかったから今は大人しく仕事しような? そろそろ出来上がるからお前も行くぞ」


 早紀さんの迷子を阻止することに成功した俺達は、彼女がどこかに行かないようにナオちゃんに手綱を握ってもらってなんとか我が1年2組が開いている喫茶店にたどり着くことが出来た。


 喫茶店もまだ12時前ということもあり、混んでいなかったので早紀さんとナオちゃんを二人掛けの席に座らせて俺は執事宜しく、二人の注文を伺ってパーティションで区切られた裏の作業場に入った。そうしたらこのように悠岐に絡まられというわけだ。


「久々だし、ナオちゃんもお前に会いたがっていたから、お前もこれが出来上がったら一緒に行くんだぞ?」


「い、嫌だぁ。奈緒美ちゃんだけならともかく、あの人がいるところにこの格好では行きたくない。晴斗お前が飯島さんの相手をしろ。その間に奈緒美ちゃんと話をしてくるから。そうだ、それがいい!」


「馬鹿言うな。ほら、出来上がったから行くぞ! お前がナオちゃんのオレンジジュースを持っていけ。俺が早紀さんのコーヒー持っていくから」


 いやいやと首を振るう悠岐を無視して、俺はさっさと二人が待つテーブルへと向かった。


 少し遠目から見てもあの二人は、窓から差し込む日差しを浴びて絵になっていた。まるで絵画から飛び出してきた天使の姉妹が優雅に談笑しているかのよう。ウェイトレスをしている生徒も、数名いる客たちも、みな二人に釘付けになっていた。


「―――早紀お嬢様。お待たせ致しました。ご注文のブレンドコーヒーです。こちらにミルクもご用意致しましたので、お好みでお使いください」


 俺はトレイに乗せて持ってきたコーヒーを早紀さんの前にゆっくり丁寧に置いた。アルバイトなんてしたことないから見様見真似だが、少しは様になっていたと思う。早紀さんはこちらを見ながら惚けた顔をしていたが、


「―――はっ!? あ……ありがとう……いただきます」


 フッフッフ。照れている、照れている。この衣装を着ることがわかってからモチーフになっているアニメを鑑賞して密かに勉強した甲斐がある。同じく心なしか顔を赤く染めているナオちゃんに向き直り、


「フフ。どうぞ、ごゆっくり。あぁ、奈緒美お嬢様のオレンジジュースは我が主が持ってまいりますのでもうしばらく―――噂をすれば、ですね」


「お……お待たせしました。どうぞ、こちらを。な……奈緒美お嬢様」


 フルフルと身体を震わせながら、悠岐がお盆に乗せたオレンジジュースが淹れられたグラスをナオちゃんの前にそっと置いた。


「あっ、坂本さん! お久しぶりです! その服、とても似合ってますね! あっ、もしかして晴斗さんとセットな感じですか!? うわぁー完成度すごく高いですね!」


「着たくて着ているわけじゃないからね! 委員長に半ば無理やり着せられて……この服も委員長のお姉さんの手作りみたいで……その……おかしくないかな?」


 自信なさげにナオちゃんに尋ねる悠岐。俺は早紀さんのすぐ隣に移動して二人のやりとりを見守る。ははぁんと事情を察して悪魔的な笑みを浮かべる早紀さんに俺はしーと鼻に人差し指を当てる。勘が鋭すぎるのも考え物だ。


「はい! とてもよくお似合いですよ! すごく可愛いです(・・・・・)!」


「か、可愛い……そうだよね……ヒラヒラだし……ハハハ。ありがとう、奈緒美ちゃん」


 生気を失った乾いた笑顔を浮かべながら悠岐はがっくしと肩を落とした。なんで、とばかりに首を傾げるナオちゃん。その様子を見て俺と早紀さんは苦笑い。


「それにしても、本当によくできているね。これが手作りだなんて信じられない」


「服飾関係の大学に通っているそうで、この衣装づくりも趣味と実益を兼ねているんですって」


「へぇ……それならこの完成度も納得できるかも。それで、晴斗。もしかして坂本君って―――」


「……早紀お嬢様。それ以上は口にしてはなりませんよ? 時として、静かに見守ることも大切なことですから」


 俺はそっと彼女に唇に指を当ててそこから先は言わせない。一瞬しか触れていなかったが、早紀さんは顔を赤くする。


「うわぁ……あのお姉さん、羨ましい……」


「私もあんな風にイケメン執事から『ダメですよ、お嬢様』ってしてもらいたい……」


 女性客がコソコソと頬を赤らめながら話しているのが耳に入って来て、さすがの俺もやりすぎたと思った。


「すいません。調子に乗りました……私たちは一度下がりますので、ごゆっくりおくつろぎください。悠岐坊ちゃま。行きますよ?」


 最初の落ち込みから立ち直り、悠岐はたどたどしくはあるがナオちゃんと楽しそうに会話をしていたが、さすがに友人ということでそこに付きっきりは見栄えが宜しくないので申し訳ないと思いつつ首根っこを掴んで半ば引きずる体で悠岐を回収する。


「何をするんだ、晴斗! 僕はまだ……!」


「はいはい。この後どうぜ時間は作れるだろうから今は引くぞ。これ以上は他のお客様に迷惑だ」


「晴斗の薄情者! お前に人の心ってやつはないのか! あぁ……またね、奈緒美ちゃん!」


「はい! お仕事頑張ってくださいね、坂本さん!」


 ヒラヒラと笑顔で手を振って見送られたことで悠岐は元気をわずかに取り戻したようだ。これでようやく一息できる。そう思ってバックヤードに戻ると、そこにいた女性陣からは羨望の、男性陣からは怨念の、それぞれこもった視線が送られた。


「あぁ……私も今宮君にしーってされたい……」


「あのお姉さんが心底羨ましい……あの中学生の女の子も羨ましい……」


「これが甲子園で活躍した男と何もしていない男の差か……格が違いすぎる……!」


「あんな美人な年上に、あんな可愛い女の子を連れているなんて……あれがまさに両手に花ってやつか!? 羨ま死ね」


 ここはここで針の筵だが、如何せん逃げ場がない。悠岐も俺から離れて非難の眼差しを向けてくる。お前もどちらかと言えば非難される側だぞ。


「い―――ま―――み―――や。ありゃどういうことか説明してもらおうか?」


 首根っこを掴んできた諸岡とそのおまけに梅村と君塚が背後に控えている。三人の目に光はなく、身体全体に負のオーラを纏っている。


「ちゃんと……説明してくれるよな? 今宮君?」


 俺は、大人しくため息とともにうなずいた。


 結局二人が喫茶店に滞在できたのは三十分程度だった。というのも急に混雑し始めたのだ。委員長曰く、俺の格好に興味を持ったのと、中にいた悠岐の完成度が密かな評判になっているのが原因らしい。


 それぞれの飲み物もすでに空になっていてただ談笑していただけということもあり、早紀さんとナオちゃんが気を遣って退店してくれた。


 本当なら俺もその後を追いたかったのだが、店が混雑繁盛していることもあって叶わなかった。


「大丈夫だよ。ナオちゃんとぶらぶらしながら色々話聞いているから。女同士の方が話しやすいこともあるからね」


「そうですよ、晴斗さん。早紀さんからこの夏の晴斗さんの活躍ぶり、色々聞かせてもらうんですから。どうせ晴斗さんは謙遜して話してくれないでしょうし」


「そうそう。その代わり私はナオちゃんから晴斗の子供の頃の話をたくさん聞かせてもらうから。安心してお客さんを捌いてきなさいな」


 そう言い残して二人は人混みの中に消えていった。俺は嘆息しながら、とりあえずこの昼のピークを乗り切るため、一心不乱に働いた。


 早紀さんたちと合流できたのは13時過ぎ。早紀さんからメッセージを受け取って合流場所に向かった。


 その場所は2年3組の教室前。そこで行われているのはお化け屋敷。そして、美咲さんの所属しているクラスでもあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 妹ちゃんが帰った後に家で、馬鹿が問い詰めて来そうな気がしてならない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ