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第57話:私はまだ諦めていないよ?【副会長:清澄哀】

ご興味を持っていただきありがとうございます。



楽しんでいただけたら幸いです。

 清澄先輩に手を引かれて連れて来られたのは、校舎の三階にある生徒会室。普段なら誰かしらがここで食事をとっているそうだが今日は遠慮してもらったのだという。


「君との食事を邪魔されたくはないからね。みんなに頼んで我慢してもらったんだ」


 そう言ってはにかむ清澄先輩に、俺はドキリとしたがそれ以上に心の中にあるのは先輩への気まずさだった。


「晴斗。君は6月のことを気にしているのかな? 私の告白を断ったことを」


 俺の抱いている感情は、どうやらこの人には全てお見通しだったようで。清澄先輩はやれやれと頭を掻いた。


「私はね……晴斗。君を好きだという気持ちを簡単に諦める気はない。聞いたよ、幼馴染の彼女と別れたんだって? なら……あの時君が望んだように。私が君のことをたくさん、たくさん甘やかそう。そして癒そう。ただ―――」


 ここで一度言葉を切って、一度深呼吸を挟む。まるで逸る気持ちを落ち着かせるように。見えない敵と対峙しているかのように。


「―――すでに君の傷ついた心を癒してくれた存在がいるようだね。それが私でない事がとても……とても悔しいよ」


 一転して心寂しそうな表情を見せる清澄先輩。だがそれもほんのわずかなことで、きりっとした顔つきで俺のことを指差して宣告した。


「だが、まだ勝負はついたわけではない! 相手が誰であろうと関係ない。晴斗。私は君の心を本気で奪いに行くから覚悟するといい! それがたとえ相馬美咲でも……君の隣に住む女子大生さんでもだ。私は君を夢中にしてみせるから、そのつもりでな」


 普段はとても楚々とした美しさを持つ清澄先輩だが、この時の笑顔ははつらつとした可愛らしいものだった。


 こんなに綺麗な人にここまで思われているのは男冥利に尽きるというものだ。特に最近は早紀さんといい相馬先輩といい、俺の周りには俺にはもったいない女性がたくさん集まっている気がする。そんなことをぽろっと言おうものなら諸岡辺りが血の涙を流して襲い掛かってきそうだ。


 そんなどうでもいいことを考えていると、俺は今の発言の中でおかしなことに気が付いた。知るはずのない、この場では出てくるはずのない名前が出てきていた。それは―――


「な、なんで……なんで清澄先輩が早紀さんのこと知っているんですか!? どこから仕入れたんですかこの情報!?」


 その笑顔に騙されるところだった。案の定先輩はチッと舌打ちをして顔を明後日の方向に向けた。口笛まで吹き出して誤魔化す気満々のご様子だ。


「はぁ……どうせ幼馴染の尾崎先輩あたりですよね? となると大本は日下部先輩ですか‥‥全く。あの人たちは……」


「フフフ。さすがに気付くか。まぁそう言うことだ。もし君が別れるようなことがあればすぐに教えてもらうように涼子にお願いしていたんだ。それでもその早紀さん、とやらに出し抜かれてしまったがね。やれやれ……お隣さんとは予想外だったよ」


 そう言って肩をすくめる清澄先輩。この先日下部先輩に簡単に話をするのはやめようと心に誓った。


「まぁいいさ。勝負はこれから。さぁ晴斗。そろそろ席について食事にしよう。私が君のために精魂込めて作った弁当を食べてほしい」


 促されて俺は適当な椅子に腰かけると、そうすることが当然だと言わんばかりに清澄先輩は俺の隣に座った。こういう時は正面に座るのが自然ではないのだろうか。


「正面では君との間に距離が出来てしまうだろう? 私は君の近くにいたいんだ。ダメだろうか? もし晴斗がダメというのなら仕方ない。私は泣く泣く涙をのんであちら側に座るとするよ……」


「わかりました。わかりましたからこのままでいいです。このまま……隣にいてください」


「さすが、晴斗だ! そう言ってくれると思っていたよ! さぁ、早く蓋を開けてくれ。ただその……初めて誰かに料理をしたから……だから味の方は、その……お、大目に見てくれると嬉しい」


「わ、わかりました……それじゃ、失礼しますね」


 自信満々な声から急転直下にしおれた声を出す清澄先輩。そのふり幅の大きさに俺は緊張しながら弁当箱の蓋を取る。


 果たして蛇が出るか鬼が出るか。




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