第47話:幼馴染の言い訳
ご興味を持っていただきありがとうございます。
幼馴染との対決回。少し長くなったので分割しました。
楽しんでいただけたら幸いです。
しばらくして、玄関の扉が開いた。明らかに年上の女性。私よりも背が高い、色香のある美女。モデルや芸能人だと言われても信じて疑ない程の美貌の持ち主が、仁王立ちしていた。
「―――いらっしゃい、元カノさん。ふ―――ん。あなたが晴斗の幼馴染で、元カノね。それで、どの面下げて私の晴斗に会いに来たのかしら?」
「あ、あんたこそ、晴斗のなんなの!? そもそも私が用があるのはあなたじゃなくて晴斗なの! いるんでしょ! 少し話がしたいの!」
「本当に、うるさい子……元カノさん、あなた……どれだけ晴斗を傷つけたかわかってないでしょう?」
私が晴斗を傷つけた? むしろ私に寂しい思いをさせて傷つけたのは晴斗の方ではないのか。
「晴斗はね。あなたに別れを告げられた日……一人で泣いていたのよ? あの時の晴斗は、見ていて、とても辛かった……」
その時のことを思い出したかのように、この女は悲痛な表情を浮かべながら、女は自分の肩を両手で抱いた。
「わ、私だって……! 今までずっと一緒だったのに急に会えなくなって寂しくて……それで……」
「寂しい、ね。それはあなただけ? 晴斗も同じ気持ちだったはずよ? それにね。寂しいっていうのなら、あなたがここまで来ればよかっただけなんじゃない? 晴斗の地元からだとここまで二時間とかからないでしょう? 練習は? 試合は? 会おうと思えばいくらでも会えたはずなのに……あなた、その努力はした?」
「そ、それは…………私にだって友達と約束とか、その……色々あるし……」
「あなたにどんな事情があろうとも、たとえ晴斗から連絡がなくて寂しい思いをしていようとも、あなたが晴斗を捨てたっていう事実に変わりはない。そんなあなたが怪我をした晴斗のお見舞い? もう一度話がしたい? それがどれだけ身勝手なことか……あなた、わかってないでしょう?」
何故私は初対面の女からここまで言われなければならないのか。これは私と晴斗の問題であってこの女は一切関係ない。
「う、うるさい! あんたには関係ないでしょう!? そ、そもそもあんたは晴斗の何なの!? どうして里美叔母さんの家にいるの!?」
不法侵入で警察を今すぐ呼びたいくらいだ。
「私? 私はこの家の隣に住んでいる飯島早紀。里美さんから『くれぐれも晴斗をよろしく』と頼まれているからここにいるの。晴斗との関係は……そうね、私の家で一緒に夕飯を食べた仲かしら? でも……フフッ。食べたのは夕飯だけじゃないかもね?」
まるでごちそうさま、とでもいうようにペロリと唇を舐める飯島早紀と名乗る女。つまり、晴斗とこの女はそういうことをしたのだ。不潔だ。信じられない。部屋に連れ込んで襲うなど。
「あなたが何を想像しているか、その顔を見ればだいたい予想はつくけれど……言っておくけど晴斗はあなたが思っているほど軽い男じゃないわ」
「――――――ッツ!?」
「晴斗はとても優しい子。私をちゃんと見て、大切にしようとしてくれる。彼の優しさに触れたのが私だけじゃないのが悔しいけどね」
どうして、どうしてそんな愛しさを表情に浮かべて優しい声で語るのだ。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「あなたのことも、大切に思っていたはずよ。幼馴染なんですもんね。でもずっと一緒にいたのに、あなたはそれに気付けなかった。その時点で……あなたは晴斗の隣に並ぶ資格はない」
ぴしゃりと言い放たれて、私は何か言い返さなければと考えるが、それより早くこの女は侮蔑するような視線を私に向けて言葉を続ける。
「あぁ……私が晴斗と交わったって想像したということは、あなたはそういう経験をしたのね? なるほど……晴斗を捨ててすでに別の男とデキていると。なら尚のこと、今すぐ帰りなさい。はっきり言って、気持ち悪いわ。」
「そ……それを決めるのはあなたじゃない! 晴斗よ! 晴斗、いるんでしょう!? お願い出てきて! 私の話を聞いて!」
私は悲痛な思いを言葉に乗せて叫ぶ。目の前の女はやれやれと頭を振ってため息をついているが関係ない。私はただ晴斗と話がしたいだけなのだ。そうすればきっと―――
「…………久しぶり、だな」
松葉杖をつきながら、ようやく晴斗がリビングから顔を出した。あぁこれでやっと話が出来る。仲直りできる。
私は安堵のため息をついた。しかし、晴斗の目は心なしか色を失い、表情も苦虫を噛みつぶしたような苦悶に歪んでいるように見えた。