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遠距離になって振られた俺ですが、年上美女に迫られて困っています。  作者: 雨音恵
一年生夏編:夏を制する者は恋を制する
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第26話:密着取材?【女子アナウンサー:葉月優佳】

ご興味を持っていただきありがとうございます。



楽しんでいただけたら幸いです。

 激闘から一晩明けて。この日は調整中心の軽めのメニュー。特に松葉先輩や俺のように登板した選手はケアを優先。ランニング中心で汗を流す。


「今宮君、少しいいかな?」


 キャッチャーとのキャッチボールを始める直前、工藤監督に声をかけられた。


「四日後の二回戦。その先発を今宮君、君に決めました。甲子園と言う大舞台での初先発、緊張すると思いますが、君なら大丈夫だと昨日の試合で確信しました。そのつもりで調整してください」


「晴斗、言っておくが俺に出番を回すなよ? 先発なら完投する気持ちで投げろよ? そのくらいの覚悟じゃないと、5回ももたないからな」


「松葉君は100球以上投げたので、先を見据えるなら休ませておきたいのが本音です。だから次の試合、今宮君には出来る限り投げてもらうつもりです」


 監督と松葉先輩の期待が重い。だがこの重さは実に心地がいい。信頼されている証だからだ。俺は力強くうなずいた。


「わかりました。チームが勝てるように自分のピッチングをします!」


「うん、その意気です。今宮君の能力なら十分通用します。自信をもって、しっかり調整してください」


 そういって監督は野手陣の指導に戻った。と言っても野手のメンバーも今日は軽めのシート打撃の練習のみだ。


「よし! じゃぁ四日後の先発に向けて軽く投げておくか!」


 日下部先輩が陽気な顔で話しかけてきた。本来なら彼が受けるのは松葉先輩で、俺の相手をするのは控え捕手。だが俺が先発と決まったなら話は別。正捕手である日下部先輩に受けてもらうのは自然な流れだ。


「昨日投げているから今日は精々50球くらいにしておくか?」


「そうですね。ただ昨日は感覚がよかったのでそれを忘れないようにしておきたいので、全球種を満遍なく、投げさせてください」


「―――ったく。貪欲な一年だが、まぁいいか。よし、ならさっさと肩作って始めるぞ―――って、あそこにいるのって、もしかして女子アナの葉月優佳じゃないか!? っえ、なんか手を振っているけどどういうことだ!?」


 フェンスの向こう側。俺が視線を向けるとそれに気付いた人気の女性アナウンサーはぴょこぴょこと跳ねながら手を振ってきた。同世代の女子がやるとあざといと言われかねない仕草なのだが、どういうことでしょう。年上の女性がやるととたんに可愛く見えてしまうのだから不思議だ。


「い――まみやく―――ん!! これから投球練習!? っあ、写真撮っていい? って許可もらう前に撮るんだけどね!」


 そういって葉月さんは肩から下げていた鞄からPから始まるメーカーの最高級ミラーレス一眼カメラを取り出してさっと構えてシャッターを切りまくった。


「今宮君……詳しく話を聞かせてもらえるかな? 返答次第で君は明日の朝日は拝めないと知れ」


 18m以上先にいて構えていたはずのキャッチャーの日下部先輩が瞬間移動したかの如く、気付けば俺の目の前に移動していた。しかも北條さん顔負けの鬼の形相を浮かべている。俺は思わず後ずさった。怖い。


「っえ? 日下部先輩、どうしたんですか? ちょ、ちょっと目が怖い……松葉先輩! 助けて下さい!」


「諦めろ、晴斗。拓也はあの葉月って女子アナの大ファンなんだよ。新入社員時代からの筋金入りのな。そんな憧れの人が、お前の名前を笑顔で呼びながら手を振ったら嫉妬するのは当然だろう?」


「そんなことを聞いているんじゃありませんよ! というか昨日の『熱戦甲子園』見ればわかりますよ! というか笑ってないで助けて下さいよ!」


「ん―――どうしようかな? たまにはお前の困っている顔を見るのも楽しいからな。つか、お前は例の女子大生といい年上にモテるのな。うん、考えてみれば助ける理由がないな。よし、やっぱり苦しめ後輩」


 松葉先輩はカッカッカと笑って控え捕手に声をかけて投球練習を始めてしまった。取り残された俺は未だ詰め寄って説明を求めてくる日下部先輩に、素直に取材の申し込みがあったことを伝えたが、口をへの字にして拗ねていたが渋々といった様子でマウンドから離れてミットを構えた。


「今宮く―――ん! いいとこたくさん撮らせてねっ! あと、練習終わったら少しお話聞かせてねぇ―!」


 俺はため息をついてから投球練習を始めた。こんなことなら取材の申し込みなんて受けるんじゃなかったと後悔した。


「日下部先輩、全球種投げますね。まずはストレートからいきます」


 ストレート。フォーシームを投手の基本、原点にして最高のコース、ここに決まれば打たれても長打はない、アウトコース低めに8割程度の力で投げ込む。指のかかり、スピン量、スピード、どれも申し分ない。


 ズバンッ、と乾いた音が連続して鳴った。調子は維持できている。むしろ良すぎて怖いくらいだ。


「次、ツーシーム行きます」


 続いてツーシーム。得意とするフロントドア、バックドアは甲子園を勝ち抜いていくための生命線だ。三振をばったばったと取っていくのは甲子園大好きおじさんからすれば観ていて爽快だろうがそれは必然的に球数を必要とする。


 炎天下で行われる二週間以上に渡って行われる長丁場のトーナメント戦。勝ち抜いていくには投手の体力温存は必須条件だ。そこでこのボールが活きてくる。


 内角のボールゾーンからストライクに、外角のボールゾーンからストライクに、自由自在に操れれば球数を抑えてアウトを積み重ねていくことが出来る。


「よし! 相変わらずびっくりするくらいナイスなコントロールだ! 次、変化球な!カーブからいってみよう!」


 日下部先輩の指示に従って変化球に移行する。


 緩急の柱となるボールは二種類。その一つは工藤監督直伝のこのカーブ。昔と比べてブレーキの効いた曲がりの鋭いこのボールは、カウント球にも決め球にもなる、実に使い勝手のいいボールだ。


「次! チェンジアップ!」


 比較的修得が簡単なこのボールで一番意識することは腕の振り。変化球全てに通じるところではあるが腕の振りを緩めよう物ならただのスローボールとなりスタンドまで一直線。しっかりブレーキをかけること、コースを低めに投げることを意識して、腕を振る。


「ナイスボール! なら次はカットボールと……練習中のスライダー、いってみるか!」


 曲げよう曲げようとすると腕が横から出てしまうのが横の変化球。カットボールは曲がりこそ小さいが速度はストレートに近い。対してスライダーは速度は多少落ちるが大きく横に曲がりながら落ちる。


 現在練習中の新球はこのスライダーだが、これがまた難しい。本当に難しい。美しい螺旋回転を描きながら曲がりながら縦に消える変化球。海の向こうでは主流となりつつある、スプリットと並ぶ魔球。


「あぁ―――カットボールはいいが、スライダーの方はまだまだだな。抜け球が多い。こっちはまだ要練習だな。最後、スプリット行ってみようか!」


 そして昨日の大阪桐陽戦、北條さんに一球だけ投げた、現在の持ち球では最も打たれる気がしない文字通りの決め球。5球続けて投げて真ん中、内角、外角にしっかりと落とす。よし、抜け球はなし。


「うし、スプリットも上々。これが試合でもできればそう簡単に打たれることはないな。それにしても、ただの投球練習でサービスしすぎじゃねぇか?」


「いいんですよ。遅かれ早かれカメラに撮られるなら、日下部先輩の大好きな女子アナにサービスしたら、話せる機会が出来ると思ったんですよ」


 俺が軽口を叩いていると、例の女子アナが満面の笑みで近づいてきた。


「いや―――すごくいいものが観れたし撮れたよ! ありがとう、今宮君! っあ、君がキャッチャーの日下部君ね? 君にも今度話を聞かせてほしいなぁ。いいかな?」


「も、もちろんです! 光栄です! お、俺の話でよければ何でも、幾らでもお話しいたします!」


「フフフッ。なら今度、今宮君の秘密とか色々聞かせてね! それと今宮君、君、本当に一年生? ストレートに多彩な変化球はすでに超高校級じゃない? 今はまだ大騒ぎになっていないけれど、次の試合結果では……大変なことになるんじゃないかな?」


 葉月さんは首をこてっと可愛らしく傾げながら物騒なことを口にした。だから俺はここで親友を巻き込むことにした。


「そうですね。まぁ俺以上に悠岐の方が注目を浴びそうですけどね。俺以上に鮮烈な甲子園デビューでしたから。だから、俺に取材するより、悠岐に取材をしたほうがいいんじゃないですか? 多分、甲子園の打者記録、全部塗り替えると思いますよ、あいつ」


「ん―――実はそれは上からも言われたんだけど、きっと私じゃなくても坂本君は注目されると思うんだよね。だからこそ、明秀高校には実はもう一人の天才がいた! って感じで私が最初に密着取材をしておけば独占できると思わない!? 思うでしょ!? だから、次の試合も頑張ってね!」


「は、はい……頑張ります」


 屈託のない笑顔で声援を送られたら、いくら早紀さんで慣れていると言っても照れてしまう。俺はそれを悟られるのが嫌で帽子を目深に被りながら応えた。


「フフフッ。マウンドで投げているときはすごくカッコいいのに、こうして見ると普通の可愛い高校生だね。おっと、私そろそろ行くね。今宮君、日下部君、練習、頑張ってね!」


 嵐のような人だなぁと思いながら俺は軽く、日下部君先輩は分裂するほどの勢いで手を振って葉月さんを見送った。


 それから全体の守備練習をこなしてからクールダウンして今日の練習は終了となり午後は自由。


 俺はシャワーを浴びてから、早紀さんに連絡を入れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。やっぱり女子アナヒロインは野球選手には欠かせないですね。メインヒロインになったら嬉しいです。
[一言] 主人公の経歴ならば、野球雑誌は間違いなく注目しているけれど、普通のテレビ局だとどうだろう?
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