第14話:副会長は情報通【副会長:清澄哀】
ご興味を持っていただきありがとうございます。
楽しんでいただけたら幸いです。
私の名前は清澄哀。明秀高校の二年生で生徒会副会長を務めている。本当なら生徒会ではなく野球部のマネージャーになりたかったのだけれど、現生徒会長に半ば強引に生徒会に引き込まれて今に至っている。まぁ生徒会の仕事は仕事で面白いからいいのだけれど。
「いや―悪かったね、清澄。夏休みなのに手伝いに来てもらっちゃってさ。でもこれが明けたらあっという間に文化祭だからさ。出来る準備はしておきたいんだよね」
生徒会長は陽気な人だ。一見適当に仕事をしているように見えて実はしっかりとやることをやっている。その全ては彼女の段取り力にある。
彼女は常に先を見据えて準備を行い、あとはその計画通りに事を進めれば万事上手くいくように企てている。私もその一助を担っているとはいえ、会長程上手くはできない。だからこうして手伝いと称してその術を盗もうとしている。これが理由の一つ。
「構いませんよ、会長。私もちょうど暇でしたから。それに……ここからの方が彼のことがよく見えますから」
それ以外の理由。私は三階にある生徒会室の窓から一望できるグラウンドに目を向けた。
まもなく始まる夏の甲子園大会に向けて最後の調整をしている野球部の選手たちがいた。野手陣がシートノックを受けている奥にある設けられている投球練習場に私のお気に入りの彼がいる。
「あぁ―例のスーパールーキーの今宮君ね。清澄のお気に入りで一押しって言ってた。彼、そんなにいいの?」
「えぇ、それはもう。一年生にして超高校級。ストレートの最速は先日の決勝戦で記録した148キロ、変化球も多彩で完成度も高い。制球力も抜群。唯一の弱点はスタミナくらい。体力がつけば誰にも手を負えなくなる」
「い、いや。清澄、私が聞きたいのは野球選手としての今宮君じゃなくて、一人の男子としての彼のことを聞きたかったんだけど……」
「あぁ、そっちでしたか。もちろん、一人の異性としても素晴らしいですよ。男に対する目が変わりますね。彼ほど純粋で、優しくて、懐の広い人を私は知りませんよ」
あの時。春の名残と梅雨の足音が徐々に聞こえてくる、5月のある日の事。屋上で初めて会ったはずなのに、気付けば私は彼に抱えていたモノを話していた。それを彼は、ただ黙って聴いて受け入れて、共感してくれた。私を、ちゃんと【清澄哀】として見てくれた。
清澄家の令嬢ではなく、清澄哀として。それがとても嬉しかった。我ながら惚れる理由にしては単純だと思うけれど、惚れてしまったものは仕方ない。
「でも清澄、あんた確か今宮君に一度告白して撃沈したんじゃなかったけ? まだ諦めてなかったの?」
そう、私が彼に告白したことは周知の事実。我ながら古典的だが体育館裏に彼を呼び出して面と向かって思いを伝えたのだ。結果もまた有名な話だが。
「私が一度で諦めると? それに……野球部のマネージャーをしている幼馴染からの情報では晴斗、地元の幼馴染の子と別れたんですって。フフフ、会長、これってチャンスだと思いませんか?」
昨日の夜。この朗報が突然私の元に届けられた。それと同時に強力なライバルの存在が二人もいるという悪報も知った。
一人目は不本意ながら明秀高校の二大美女と私と一緒に呼ばれている同級生にして野球部マネージャー、相馬美咲。私とは全く対照的で愛くるしい笑顔と高校生離れした童顔で妹みたいな存在だ。明秀高校の太陽と言われている。ちなみに私は月だとか。
そして二人目。こちらが問題だ。名前は飯島早紀さん。なんでも晴斗が居候している部屋の隣に住んでいる女子大生。晴斗のことをすでに『晴斗君』と呼び、決勝戦の観戦にも足を運ぶ熱心さ。
さらに登板した晴斗に声援を送り、彼の好投を演出した勝利の女神、などと野球部では呼ばれ始めているらしい。
正直同学年の相馬さんだけでも強敵に違いないのにその上隣に住む女子大生と来れば、私とてうかうかしてはいられない。私も本気で行くしかない。
「清澄……あなたのそういうところ、私は好きだよ。これまで本気を出してこなかったあなたがついに本気になるかぁ―。これは楽しみだなぁ。うちの二大美女が一年生ルーキーを賭けて戦争かぁ。私は上司として清澄を応援するわ」
「フフフ。ありがとうございます、会長」
一度告白しているから私が一見不利かもしれないが、そこを逆手にとって積極的にいく。これ以上学校内でライバルを生まないためにも、そしてライバルの相馬さんに対して『私だけの男』だとアピールして外堀から埋めていく。女子大生への対処も同時に考えなければならないが、こちらは今すぐには思いつかない。
「さて、女子大生の飯島さん。あなたは一体何者なんですか?」
戦いを制するのに最も重要なものは何か。私は有能な執事宛てにメッセージを送る。題名はこんなところでいいだろう。
―――調査依頼 女子大学生 飯島早紀について―――
「彼は、誰にも渡さないわ」
私は大きな声で言いたくはないが令嬢というやつだ。家は代々政治家で、父もその例にもれず。普段はそれを笠に着るようなことはしないが、これは例外。使えるものはなんでも使う。
「これは戦争よ。悪く思わないでちょうだいね」