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6話 破滅のダンジョン


「ようこそ、スフィアへ」



クォートさんは微笑みながらそう告げる。



「あちらの世界は同じ球状でも球の外側に世界が広がっているそうですね。世界が逆転しているというのはどう思いますか?」



「えっと、とにかく不思議、です。正面を見て霞んだ陸地とか海とかが見えるのは」


「あちらではダイソン球といわれている世界ですね。ここは恒久的に運用ができる、効率のいい世界なんです。それから、あの太陽には私の創造主方が住んでいます。夜になるとあの太陽は光を大幅に落としますが、内部では光が溢れます。こちらの夜は太陽内部の昼になるわけですね」



「創造主ですか?クォートさんは人じゃないんですか?」


あ、羽があるから人じゃないのかな。


「私も人ですよ。自然にできたか、作られたかの違いです。それで創造主方はルクスの民とお呼びします。その昔この世界ができた頃、主上に、航のいう神様ですね。主上よりこの世界の管理を任されたそうです。ですが、光の密度の低い場所では、ルクスの民では活動することが著しく困難なんです。そのため、私は地上に降り管理を行う使命を帯び、生まれました。そこから、私がこの世界の地上管理担当になったわけです。もっとも、大部分の管理は太陽の中で行われているので私の仕事はそんなにありません。地上の生き物の管理が主なものですね」


「……一人でですか?」


「えぇ、この浮遊島は各大陸をぐるーっと回っているので、通った場所へ少し手を加えるくらいで一人でも暇なくらいです」


ものすごい守備範囲の警備員だ。



「航には、この生き物の管理を少しお願いしたいと思っています。主上から言われていると思いますが断っていただいても構わない内容なので気楽に聞いてください」


「あ、はい。それってなんなんですか?」


なんだか卵をどうとかと神様に言われたけど、いろんな大陸の卵を管理するとかだと絶対に重いヤツだ。



「お願いしたいことはこの卵を地上のいろいろな場所において欲しいってことだけです」



クォートさんはそう言いながら卵を見せてきた。

それはニワトリの卵より一回り大きい楕円形をしたモノだった。


おかしい、特にポケットとかに手は入れてなかったと思うけど。



「これはドラゴンの卵で、とても頑丈なものです。多少ぶつけたところで割れることはありません。どうぞ触ってみてください」


そういいクォートさんは卵を差し出してくる。


「ドラゴンは環境に適合する生き物で、孵化した環境を中心に縄張りを形成します。環境が過酷であれば、より強く大きく、知能が高くなる、そして長寿である傾向があります。現在、高い知能を持つドラゴンは2種だけで、大幅に数を減らしているため、知能の高いドラゴンを保護するために、航にこのドラゴンの孵化を手伝って貰いたいというわけです」



「責任重大、じゃないですか……もし、僕がしない場合はどうなるんですか?」



「私が行いますが、卵のうちに人の匂いを覚えさせたほうが、人との付き合い方が上手いドラゴンになるので、航に手伝ってもらったほうがいい結果になるんです。私がするとなると、人のことを侮る存在になるかもしれません」



「僕がすることによってデメリットとかないんですか?」


「ありませんが、しいて言えば、私が行うより時間がかかってしまう点ですけど、気にする必要がないことですね」



クォートさんはこっちの生活をサポートしてくれるってことだからここは聞いていたほうがいいのかな。

過酷な環境っていうのが引っ掛かるけど……



「僕にできることなら、やってみます。でも、無理そうなら、そういってもいいですか?」



「ありがとう。航。無理でも構いませんから。気軽に伝えてください。でも、これであなたとは同僚ですね」



「よろしくです。それで、なんで2種類までドラゴン減っちゃったんですか?強くて大きい奴だったんですよね?」



「ちょっと話が長くなりますけど、300年前に大きな災害があった。ドラゴンに特化した生き物がダンジョンから沢山溢れ出てきて、世界中に飛び散って、24種いた知性を有するドラゴンは大きく数を減らした経緯があって……」



それは、遥か昔、まだルクスの民が世界を管理していた頃、ダンジョンの入り口付近に巣くったドラゴンは、ダンジョンを鬱陶しく思い、ダンジョンの入り口を塞いでしまった。


ダンジョンとは、サンゴのように、動物ながら群生体の生き物で、ダンジョンを大きくしながら、共生体を招き、その糞尿や血肉、魔力などを糧として成長する。



そして口にあたる入り口を塞がれてしまったダンジョンは、ドラゴンを恐れて、地下へ地下へと成長しながら、巨大なコロニーを作り出した。



本来のダンジョンの生体の場合、入り口を塞がれてしまった場合は、死に絶えるが、海水が僅かずつ流れ込んでくるダンジョンだったため、生き物や有機物の流入はギリギリの状態でそのダンジョンを支え、独特の生態系を持つようになる。


地上のダンジョンは好気性の為、あまりにも深くまでダンジョンを構成することはない。


地下へと成長していったダンジョンは、奇跡的な偶然によって、嫌気性のダンジョンと遭遇し、スフィアの外側へと延びていた嫌気性のダンジョンの入り口は、外部、つまり真空の宇宙と繋がってまった。

この二つのダンジョンは出会うことのない出会いを果たしてしまう。



このことによって、嫌気性のダンジョンはほぼ死滅し、好気性のダンジョンも空気が真空中に吸い出され、あっという間に死を迎えるはずだった。


しかし、以前ドラゴンとの争いがあった経験から、ダンジョンは壁面を大小に壊して、空気の流出を抑え、即座に宇宙側のダンジョンの入り口を塞ぐことに成功する。




薄くなった空気の中で、本来出会うはずのなかった邂逅(かいこう)の中で、新たな能力を得てしまう。



それは、思うように生き物を進化させる能力で、まず作った生き物は煮え湯を飲まされたドラゴンに対して天敵となりえる甲虫だった。



その甲虫は、小さい口ながら、何でも食べることができた。

何よりその親がダンジョンということもあり、ドラゴンを好んで襲う特性を持っていた。


準備の整ったダンジョンは、入り口を塞がれた復讐として、地上世界へ飛び込んでいった。



「それが、ドラゴンが滅びかけた事件。その甲虫の完全駆除は最近ようやく確認できたところなんです。増える虫じゃないですけど、乾眠ができる虫だったので……それでドラゴン以外にも大きな被害が出て、地上世界は大変でした。そのおかげで、様々な種族が手を取り合うようになっているのが皮肉ですけどね。」



そうクォートさんは告げるのだった。

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