一人目 重度身体障碍者の森さんという人
普段ヘルパーという言葉を耳にしたことはあるでしょうか?誰でも年を取り、体が思うように動かなくなることがあります。そこでヘルパーの種類に訪問ヘルパーと言うものがあり、そのヘルパーさんの力を借りて日常を過ごされる方たちがいます。そんな日常を実際に僕の体験したことを交え、アレンジを加えた作品です。一人でも多くの方に障碍を持つ人たちの事をわかってもらいたくて書きました。ビックリするぐらいの出来事がしょっちゅうあります。是非見てみてください。
この物語は、少々不思議な霧が見える駆け出しホームヘルパーと、その利用者さんの周りで起きた作者の実体険を基に作られた悪戦苦闘の物語である。
「ジャラジャラ……」
小銭を手に数える音がする。
「はあ朝の仕事終わったなぁ…腹が減った…今日もまたカップ麺かぁ( ̄▽ ̄;)」
「まあしゃあないかぁ…まだ新人やし、入ってるとこも少ないからなあ。」
財布の中身を見て愕然とする(・・;)
朝の介護の仕事を終え、ただいま自宅で昼休憩を取っている。
この物語の主人公、飯田義人…友人からはいいちゃんやヨッシー、利用者さんや職場の人からは、飯田くんや飯田さんと呼ばれている。
皆さんホームヘルパーと言う仕事を御存じだろうか?
自分自身で買い物したくても出来なかったり、身体を洗えない…一人で飲み食いできない…たまに外出のお手伝いなんかもする。そんな人をその家の中でヘルプする…それがホームヘルパーである。
ケアマネージャーと呼ばれる人に各利用者ごとの一週間のシフトを作成してもらい、予定にそって介護の仕事をするのが、飯田こと主人公の仕事だ。それ以外は自宅待機で良い。これがいわゆる登録ヘルパーと呼ばれるものである。
彼は最近、【介護職員初任者研修】(旧ヘルパー1級に該当)の資格を取得し、やっとの思いでヘルパーになった…。
紆余曲折あり関西在住25歳現在独身独り暮らし、趣味料理の研究である。
特ににやりたいこともなく無欲な彼は、最近まで死んだように生きていた…次代を担うはずの若者…なのである。が、彼にも良いところはあったりするのだ。悪気があったわけではないが、ようやく一念発起し念願の独り暮らし。
彼の生い立ちは、…( ̄▽ ̄;)まあ…長くなるし恥ずかしくもあるので、違うエピソードで話すとしよう。
とにかく、引きこもりがさあ働くぞとなったときにたどり着きやすいのが、【ホームヘルパー】という仕事なのである。あくまでも個人的に筆者が思うだけで、皆そう思ってないとつけ加えておく。
入るための敷居は低め。人見知りしてしまう彼にとっては、その他大勢の人間に会わず一対一で済むこの仕事形態は、もってこいの職業。一人だけなら慣れてしまえばなにも問題なくなる。体を使う仕事なので、当然疲れる…が彼の場合大勢の職場で働くのが無理なのでなかなか快適なようだ。体を動かすのは、以外にも得意で格闘技経験者。とまあ、彼に関してはこんな感じだ。物語はここからである。
【重度身体障碍者の森さんという人】
飯田「……給料日まであと一週間…まあなんとかなるかな」
残り3000円で一週間。1日400円弱か…ため息ばかり出るのである。おいおい(゜ロ゜;独り暮らし大丈夫ですか?
飯田「いただきます」
出来上がったカップ麺をすすり食べ始める。
「ブゥゥゥン♪ブゥゥゥン♪ブゥゥゥン♪」
スマホのバイブレーションが鳴る。
飯田「今から食べようとしてたのに誰かな?あ!ケアマネさん」
スマホを着信オンにする。
飯田「はい、何でしょうか」
上司ケアマネージャー「飯田くん今良いですか?新しい案件入ったんやけどどうかと思って。」
上司の砂押さんだ。この人は女性ながら、女性ばかりのこの職場で右も左もわからないときに男の僕を親切丁寧に教えてくれたケアマネージャーの砂押さん。最近ケアマネの資格を取った、ヘルパー上がりの叩き上げで頼りになる。僕とは大違いだ。どうやら新しく介護の依頼が来たようだ。
飯田「どんな人ですか?」
砂押「寝たきりの人で【森さん】ていう重度障碍者の方やねんけどどうかな?」
飯田「はい、一度会ってみたいです。」
この砂押さんには、ほんと感謝してる。駆け出しの頃から良くしてくれていて、男はちょっと…と言う利用者さんにも丁寧にほんと料理が上手だから…とか、凄く丁寧やから試してみてくださいと利用者さんに説明してくれて恐れ入る。だからどんな利用者でも出来るだけ断らずに入ろうとそのときに思った。それだけ信頼してるってことだ。
砂押「じゃあ直行でいくのと、一緒にいくならどっちがいいですか?」
少し考えて…
飯田「うーん…直行でお願いします。利用者さんの住所聞いて良いですか?ショートメールで送ってくれれば」
砂押「解りました、このあと送りますね。じゃあ明日の昼過ぎ14:00ごろ待ち合わせで」
飯田「はい、よろしくです」
砂押「はいよろしく。じゃあまた明日ね」
飯田「また明日。」
あ、麺が伸びてもうたわ。スマホの通話を切って食べかけの伸びたカップ麺をたべていると、2~3分して早速ショートメールが届いた。重度障害の利用者さんの住所だ。
飯田「家からけっこう近いな!一階に住んでんねんや。」
いつもは片道30分のとことか多かったから有り難い。
早速地図検索アプリで住所入力して検索してみた。
飯田「おっ?!10分(。・_・。)めちゃくちゃ近いやんけ(゜o゜)買い物がてら近くまで寄ってみるかな?」
カップ麺の買い貯めの為買い出しに行く足で、自転車で利用者さんの自宅近くまで寄ってみた。
すると窓際からうめき声と共に異様な黒がかったモヤが見える。そのなかにうっすら赤い濃い霧が見えた。不満や不安、恐怖や失望感といった負の感情が強いほど強い黒色になる。そんなに強い色じゃないけど気を付けた方がいいな。
僕には人の感情が色付きの霧状で見えることがあるのだ。
それと命の危機にさらされる前に少し先の未來が見える事が有る。なぜそんな能力があるのかわからないが、それはまた別の話である。
飯田「ここが森さんの家か。なんやろな?あれ…嫌な予感がするなあ( ̄▽ ̄;)1つ言えるのは、すごい厄介な人ってことか…」
昔幼い頃は、何も考えずに人の気持ちを言い当てたりすることで、仲間はずれにされたり不気味がられたことが何度もあり、これが凄く怖くて以降わかっていても黙るようになってしまった。が…今はこの能力が介護に凄く役立ってるように思う。
飯田「さあカップ麺買いだめ行こうかのう。ついでに飴も(^3^)」
そういうとスーパーに買い物に行きすぐ自宅に戻る。
その日はあまり考えないようにして1日過ごし、翌日昼14:00の5分前に待ち合わせ場所の利用者自宅前に到着。砂押さんは2~3分したら到着。
砂押「結構待った?」
飯田「僕もさっき来たばっかりです。ここのマンション一階ですね」
で早速自宅前扉前まで行きインターホンを鳴らす。
飯田「…………………誰も出ませんね?!」
すると砂押さんは思い出したように鍵を取り出した。
砂押「忘れてた、開けてくれるとこばっかり行ってたからつい…( ̄▽ ̄;)」
おいおい忘れたらあかんやろ?と僕は思った。色々回りすぎて疲れてるな。砂押さんから疲れの色紫のもやがみえる。
飯田「そうなんですね(´・д・`)大変ですねいろんなとこ行って契約してて」
砂押「そうなんですよほんとに。」
予め利用者さんから預かっていた鍵でガチャンと開けると中にはベットに横たわる利用者さんの姿があった。
砂押「こんにちは。寝てましたか?」
森さん「おぉー!うぅ…」
眠そうに笑った表情で返事。軽く唸る声はでるみたいだ。
飯田「どうもこんにちはです。新入りの飯田と言います。」
森さん「あぁーい」
僕に気付いて笑ってたけど、うっすら黒いモヤが出ている。何処か不安そうな表情をしていた。
砂押「そうそう、森さん言語ボードどこかな?」
そう言うと森さんは動きにくい腕でゆっくりと言語ボードを指差した。
砂押「そうこれ!!森さんは喋れない代わりにこの言語ボードで会話します。やってみるから見ててね。」
言語ボードとは、簡単には言うとあいうえお順にならべられた平仮名の羅列ボードの事で、喋れない人専用のボードである。
先ずは椅子に座り手首を持ち、言語ボードを見える位置に置いて人差し指の形の指で一文字ずつ補助しながら、いいたいことを聞くようだ。
砂押「き…て…く…れ…て、来てくれて?!あ…り…が…と…う…来てくれてありがとう?」
森さんは、エアギターならぬエアくちパクで
森さん「おう(゜ロ゜」
といったように見えた。そうやでって意味らしい。
慣れた手つきで言語ボードでやりとりすると、砂押さんがそう伝えれたのが嬉しかったのか、森さんは凄く笑顔になった。なるほど…こうやって、会話するのか。
砂押「ほら飯田くんもこんな感じでやってみて。」
飯田「難しそうやなあ、でも…やってみます。」
あれ?めっちゃ力入ってるやん。思ったより力いるなこれ( ̄▽ ̄;)と思いつつ一文字ずつやっていく。
飯田「ど…こ…か…ら…き…た…の?何処からきたの?かな?」
飯田「この近くです。○○公園あるでしょ?あの近くです。」
なんとかできた、腕が重い( ̄▽ ̄;)一文字5秒くらいかかった。砂押さんあんなスムーズに良くできたな?と感心した。
言語ボードをして分かったことが色々ある。
実は前日の買い物してたあの日、ちょうど漏らしていたようで気持ち悪かったようだ。それであの日は黒いもやが( ̄▽ ̄;)そういえば洗濯物にシーツあったな…
でも森さん凄く喜んでるように見えた。良かった( ̄▽ ̄)
言語ボードしてる最中、森さんの視線が砂押さんに良く向いてるのに気づく。砂押さんが好きなんやなあ(´Д`)まあ入る前から、実は気づいてたんだけど、それは内緒だ。
こんな感じで30分くらいしたらようやく解放された。思ったより大変。実際の介助はこれだけじゃなくて他に部屋の掃除や買い物、料理や食事の介助、入浴介助もするらしい。普段普通の人が当たり前にしていることがこの利用者さんにとっては、当たり前ではないのである。
僕は、いつもは買い物や部屋掃除…いわゆる家事援助ばかりしてたので、身体介助メインの重度障碍者の利用者相手は初めてで緊張した。
その日はなぜか凄く疲れて、お風呂に入ったあとベットに横たわるとあっという間に寝落ちした。
そして翌日、重度障碍者の森さん初介助である
初対面の時に、部屋の合鍵を受け取ったのでこれで鍵を開ける。入る前にインターホンを一度押してから、合鍵で入るよう言われていたのでそうして自宅へ入ると、エアくちパクで
「おうっ」
ていってるように見えたので
飯田「どうも。今晩は(・。・」
と言うと、笑いながら
森さん「おう~w」
と言い返していた。あれ?口パクじゃないな。
二文字までなら何とか声を出せる言葉もあるみたいだ。
まるで声を出せないわけじゃ無いんだな。
飯田「今おうって言いましたか?」
と聞いたあとに、言語ボードで聞くと言語ボードにあるyesマークを指で指してくれた。でない声を振り絞った声やったんや、あーやっぱあってんねんなって思い、嬉しくなった。
それとどうしても聞きたかった、あの日外に漏れていた黒い霧の原因。森さん自身砂押さんから聞かされていたため、気にしていたのだ。対応しなくなるかもしれないと言った悩みを少し聞いてみた。
飯田「今日は僕が対応になるので砂押さんは来ないんですよ。」
と話した瞬間、顔は強張り森さんの周りがあっという間に黒い霧のようなものに包まれた。この黒い霧は、強いストレスを感じると出るらしくて問題が解決すると消える。あぁヤバいヤバい( ̄▽ ̄;だからすぐに話す。
飯田「全く来ない訳じゃないですよ?砂押さんも休まないといけないので、分担して入ることになったんです。」
この森さんは表情豊かで霧を見なくても十分分かりやすいくらいに笑ってくれていた。やっぱりなーと少し嫉妬してしまう(´Д`)
飯田「砂押さんは本当に好い人ですよね?僕なんか入りはじめの頃には、凄く親切にしてもらいました。」
そう言うと森さんの周りの霧が凄く透明になりました。
すると人差し指二本をピンと上に立たせてきました。これは、言語ボードでしゃべりたいと言う合図。早速言語ボードで話すと、
森さん「き…み…は…いい…や…つや」
飯田「いやあ(。・_・。)ありがとうございます。」
まさかのおほめの言葉をいただきました。
そう思うと同時に、砂押さんここ慣れるまでにすごい苦労したんやろうなぁと思いつつ、話をすすめる。
飯田「今日のこの時間は夕方から5時間入りますが、よろしくお願いします。」
森さん「おうっ」
と口パクエアで言ってた。
飯田「僕大抵の家庭料理作れますけど、砂押さんから聞いてます?なにか食べたいものありますか?」
森さん「カ…レ…ー」
飯田「カレー良いですね。寒くなってきたし美味しいですよね。買い物行ってすぐ作りますねwww」
森「おうっ」
めっちゃ嬉しそうに早口エアでいってる気がする、と思ったら霧の色が凄い黄色www間違いなく大好物やね。ヨダレ垂らしてたw
けどなんだろうね。常に消えない赤色の霧がうっすらと気になる。
森さんの自宅から自転車で5分位のところにスーパーがあるのでそこで毎回買い出しに行くことを、ケアマネの砂押さんから聞いていた。場所も頭に叩き込んである。
飯田「じゃあ行ってきます。」
スーパーに着いて材料探し回る。初めて行くとこなんでどこの棚に何があるかわからずとまどったが、すぐに馴れてカレーの材料を買いそろえた。さすがに人がたくさんいるな。知り合いにあったりしてとか考えたが会わなかった。ほっ(;´д`)
森さん自宅につくと30分ほど経過していた。
飯田「ただいま戻りました。すみません初めて行くとこなんで少し遅れて。」
帰ってから見てみると森さんのようすがおかしい。
森さん「うぅー…あーーーーっ!( ̄□ ̄#;)ふぇーーー!!!!」
ヤバい、何か怒鳴ってる、声にならない声ってやつか。どうしよっかな?そうやボード。恐る恐る言語ボードで言いたいことを聞いてみる。少しパニックになりそう。
飯田「何か…あったんですか?(・・;)」
と聞くとボードで
森さん「ト…イ…レ」
あ、、30分トイレ我慢してたんや、恥ずかしくて言いづらかったんやな。悪いことしたなと思いながら、僕は急いで備え付けのポータブルトイレに森さんの移乗を始めポータブルトイレに移した。うっ重い…80キロ位あるな。
その後でベッドのシーツを見たときに、微かな尿の臭いと黄色い色が白いシーツに滲んでいた。シーツは洗濯機に入れて洗い、防水シートは手洗いした。水を通さないので洗濯機に入れるとシートに穴が空くからだ。洗濯機を回してる間、もう一度言語ボードで言いたいことを聞いてみるとやはり怒ってるようだった。
森さん「買い…物…遅すぎる!!何してたんや?」
と言語ボードで言ってきた。
飯田「初めて行くとこで正直迷いながら買い物してました。棚の並びも慣れてるとこなら自宅から往復20分くらいで行けるんですが(;´д`)ほんっとごめんなさい…ほんっとすみません…」
て言うと、実際の声で
森さん「ええよぉ…(^o^)」
飯田「許してくれるんですかあ( ̄□ ̄;)!!てか、え!!今声出てたような‼」
森さん「あーい(^○^)」
飯田「あっそうや、お詫びに飴を一つあげます。食べませんか?」
森さん「おぅっ(^o^)」
前日に買っておいた飴を一つ森さんの口の中へ放り込んだ。これはイチゴミルク味だ。何となく買った飴ナイス!!
その瞬間赤い霧がパァッと晴れるように消えた。清々しい空気が流れ込むような感じに吹き飛んでいった。霧についてはいまだにわからないことがあり、今回みたいな感じに読み間違えることもある。万能ではないのだ。てかこんなに頻繁に霧を見たの、子供の時以来、この仕事するようになってからだよ。そして霧の意味も解るようになってきた。赤い霧はその人が一番気にしてる問題があるときに発生する。
まさに神が試した試練て感じ。何か色々ビックリしたけど、この仕事してこれだけ怒る人に会ったのは、実は3度目になる。ええよぉ、おう、はい、は喋りやすいみたいだ。
森さんの場合、嫌なことの予感つまり赤色の霧とは、言いたくても恥ずかしくて言えないこと、どうやらお漏らしのことのようだった。いやあ、やらかした。意味わかんなかったから。でもポータブルトイレに座らせたまま買い物行けないし、終わらせてから行くにしても身体に反応がなかったので違うことかと思い込んでいた。介護の現場は常に予定調和では終わらないので難しい。今度から買い物行く前にこっちからトイレ行きたいか聞いてから行くことにしよう。
さっとベッドの上に防水シートと、大判タオルを敷いてベッドメイクを済ませる。おしっこし終わったら前をティッシュで拭いて、再びベッドへ移乗した。うっ!やっぱり重い。その後ポータブルトイレを掃除。ふー(;´д`)
森さんは、かなり汗をかいていたので介護ベッドを少し上げて、水分を摂ってもらったあとようやくカレーの準備である。森さんにはその間テレビを見てもらっている。┐(-。ー;)┌
カレーは待たせた分早く作れる方法を使う。玉ねぎは薄くスライス、人参とじゃがいもを一口大に切ったら、具材を鍋に入れてそれに対して2/3の水を鍋にいれる。その上から豚バラ肉を入れて同時に煮込む。後は蓋をして煮えたらあくをすくい取り、カレールーを3個入れて溶けきったら隠し味に豚カツソース2回しとケチャップ1回し入れて良く混ぜたら完成。これで大体2~3二人前かな?ご飯は冷凍していたものをレンジで3分加熱したら器に盛り付けていく。ご飯の上に出来立てカレーをかけるとトータル時間20分くらいかな?カレーライスの完成だ。
うん。われながらよくできたな。さっきからキラキラと光るダイヤモンドダストの霧が見えるなw森さんてほんと分かりやすい( ̄▽ ̄)
飯田「出来ました。カレーライスですよ」
森さん「…………(。-ω-)zzz」
薄目開けて寝たふりしてる?それにヨダレwそれで寝てるつもりかな?wwまあ気付いてないふりをしてあげよう。食いしん坊な奴と思われたくないんだろうな?さっき怒ってたから余計かも。
飯田「森さん、起きてください。カレーライスの出来上がりです。起きてください。」
そう言いながら体を軽く触れてみたら、起きる演技……起きてきたな( ̄▽ ̄)
森さん「ン……うーんんん」
目を開けてカレーと僕の方を向いた。
森さん「お~~~(´Д`)」
飯田「さあ食べましょう。ベッド少し上げますね?」
森さんの使われているベッドは、いわゆる介護ベッドと呼ばれるもので、リモコンで上体を上げ下げできるものを使っている。
リモコンを使い上げてみた。ぶーーん。
森さん「?!ふわぁー~(´・д・`)」
飯田「え?上げたら駄目なんですか?そういえばさっきお茶飲むときも嫌そうな顔してましたか?」
ベッドを一旦水平に戻した。介護の資格取るときの講習では、角度45度以上あげないとむせると聞いていたんだがこの人は違った。ベッドの上で飲み食いするときは、あげる必要はないし水平で俺は行けるんや!!と思ってるようだ。時間かかるとご飯冷めるので、砂押さんにこの事を連絡して聞く事にした。
「トゥルルル…トゥルルル…トゥルルル…トゥルルル、ピッ♪」
砂押「はい、砂押です。」
飯田「もしもし、飯田です。お疲れ様です。ちょっと今良いですか?森さんのことで聞きたいことがあるんですが……」
砂押「何か合ったの?」
飯田「あの、森さんて食事と水分とるときベッド水平のままなんですか?」
砂押「そうやねん、そうそう。言ってなかった?」
おい( ̄▽ ̄;)
飯田「聞いてませんよぉ(´Д`)ちょっと……それ大丈夫なんですか?」
砂押「今のところ月一回の通院先のかかりつけのお医者様には、全く問題ないと言われてます。蒸せたりはありますが肺に入ったりはしてないと言われてますよ。そのまま水平のままお願いします。」
飯田「わかりました。お医者様がそういってるなら大丈夫ですね。なんとかやってみます。」
砂押「また何か解らないことあったら連絡してね。じゃあこっちも介助してるんで。」
飯田「すみません。ありがとうございました。切りますね」
砂押「はーい……」
「プツっ」
まあ介護の講習でも本人の希望に沿った介助をしなければとかあったし、これでやってみるか。
飯田「大丈夫なんですね、気を付けてくださいね。」
森「……おぅ(^q^)」
食事介助を再開。カレーライスをスプーンですくい、一口目を口へ運ぶ。
森さん「おーーー(゜ロ゜)」
森さんは笑顔になった。黒い霧も完全に消えた(笑)
飯田「お口に合いましたか?良かったです。」
森さん「おーーー、…おーーー…(。-ω-)」
どうやらカレーが大好物なようで、大成功だったようだ。ずっと唸ってこっち見てくるな。いやぁどうなるかと思たけど、喜んでもらえて良かった。料理の研究していて良かったと思う瞬間だった。
実は母親の料理を小さい頃から学生くらいまでよく見ていて、手順をよく覚えていたのでそれが役に立っていた。こればかりは親に感謝。カレーをゆっくりと一口ずつ食べてもらい終わるのに30分くらいかかった。蒸せは無かった。
飯田「終わりましたのでこれから皿洗いと、食後のコーヒー飲みますか?」
森「おぅ」
そうして冷蔵庫にあるコーヒーをコップに入れて、ストローで少しずつ飲んでもらった。少し蒸せはあるけど、さっきよりは落ち着いてるので吸いすぎとかもなく安定して飲めてるように感じる。
飯田「じゃあトイレとか行きますか?」
森「おう」
そう言うと人差し指をピンと立てて見せたので、言語ボードか?と思い、言語ボードで聞いてみた。
森さん「浣腸」
言語ボードもよく見たら工夫されていて、指で指すだけでわかるものが何個かある。浣腸、コーヒー、スポーツドリンク、お腹マッサージ等色々ある。早速浣腸を用意して横這いになってもらい、浣腸をする。ピューッと短い管をお尻の穴に入れて浣腸を、ギュット握り中の液体を押し入れる。
森さん「はうんっ‼」
飯田「ぷっ( ´,_ゝ`)」
その反応の仕方を見て、何か見たことあるなと思っていたら、レンタルDVDの【テルマエロマエ】の主人公役を演じていた阿部寛さんがウォシュレットでビックリしていたシーンを思い出してしまい、あんな感じかな?とほくそ笑んでしまった。
足を床に下ろし、上体の両腕を首後ろに交差するようにもってもらう。こちらも両腕を森さんの背中に当ててテコの原理で上げる。
飯田「ぐえぅぇー!!うぅぅ!!!( ̄▽ ̄;)」
森さんの両腕が、必要以上に僕の首頸動脈を締め付けてきた。
ヤバい、めまいがしてきた。慌てて森さんの背中を何度もタップした。
飯田「ギブ…ギブギブ、ギブアップ。」
そう言うと力を緩めてきて
森「ふぇーーいぃ(・∀・)ニヤニヤ」
さっきプッと笑ったのを根に持ってたようだ。
これくらいで許しといてやるて感じの声を出してきてこちらの顔を見てニヤニヤしていた。内心この野郎‼プルプル‼(-_-#)と思ったが、森さんなりの親愛の証なんだとキラキラ光る霧を見て思ったので、許すことにした。にしても力あるな。なにかスポーツしてたのかな?
飯田「もう勘弁してくださいよ、便が漏れたらどうするんですか?」
そういうと大人しくなり、ベッド横にあるポータブルトイレに移乗した。その間に僕は後片付けで、食器洗い、食器拭き、床掃除、ゴミ出し、お茶沸かし、乾いた洗濯物のたたみや収納、トイレ掃除等々色々やった。
やってる最中に
森さん「おぅ………おぅ………おぅ…ファーーーーぇ!!!!!」
と、僕を呼んだ。聞こえてないから大きい声を出したようだ。トイレ終わったのかな?
飯田「トイレ終わりましたか?」
と、聞くと首を横にプルプル振ってきたので違うんだとわかる。言語ボードで聞いた方がいいなと思い、言語ボードで聞いてみる。
森さん「お腹マッサージ」
これなにかと思ったら、トイレしてるときの腹部マッサージのことかとそのときわかった。聞いた話では、おへそと陰部の間の辺りをグーの拳で便や尿が出るまで押すらしい。じゃあやるしかないか。
飯田「いきますね。いいですか?」
森さん「おぅ」
飯田「いち、にぃ、迄はゆるく、さんで強く押しますね?」
飯田「はいいきます。いちっにっさ~んっ」
三拍子のリズムに会わせてタイミングよく押していった。
森さん「んっ、うん、うー!!!」
森さん「ふー。うっ、うーん!!」
というと言語ボードを指差したのでボードを使うことにした。
森さん「そんなもんか?力そんなんしかでぇへんのんか?それでも男か?○んぽついとんか?」
と、焚き付けてくる。何て事言うんだこの野郎と(-_-#)と思ったが、今だしていた1.5倍位のちからで再び押し始めた。
飯田「じゃあいきますよ、いっち…、にいっ…さぁーん!!!」
という掛け声を出しながら一生懸命押し始めた。すると森さんの表情が、これこれ(・。・;て感じになっていた。声を合わせながら、いきんで20分ぐらいしたら
「ピューッ、ぶりぶりぶりぶりリィぃー~ン」
でたでた、出ました。森さんの全身の力が抜けた感じになり、スッキリした顔になっていた。
飯田「終わりましたね。仕上げに拭いていきますね。」
森さん「おーぅ( ̄▽ ̄;)」
そういうと陰部清拭を始めた。2~3分で終えて再びベッドへ移乗した。すると森さんまた指をピンと立てた。言語ボードだ。
森さん「ありがとう。君のお陰でいっぱいでた。」
と、ボードで話す。
飯田「それはなによりです。」
森さん「コーヒー」
飯田「わかりました。汗凄い出たから喉乾きましたよね。すぐ用意します。」
そういって、コーヒーを用意したが、それをすぐに飲み干した。
飯田「のど乾いてたんですね(*´・ω・`)」
森さん「おぅ」
トイレが終わり水分を補給して落ち着いた顔になった森さんに、ようやく平穏な時間が訪れた。心なしか顔に余裕が見られる。
このあとは、時間一杯までTVを見たり伝の心というシステムプログラムの入ったパソコンでは、メールをされていました。
これには付属の口マウスとも言うべき、タッチセンサーマウスが対になっており、マウスのように使うようになっているのだが、これは僕が帰った後もやっていた。メールの送り先は古くからの友人だそうだ。
20:55眠剤入りの服薬
21:00消灯
飯田「それではこれで失礼します。また来週来ます。」
森さん「おーぅ(^o^)」
如何だったでしょうか?初対面からのこの時間の森さんとの介助のやり取り。だがまだまだ、森さんとの話は沢山有るので今回はここまでにする。詳しくはまた改めて話すとしよう。
前書きにも書きましたがこの作品は、僕の実際の体験談を交えて書いた3割くらいがフィクションです。本人の了解のもと、作りました。妙にリアリティーがあるのはそのせいです。少しでも多くの方に介護の実情や障碍を持った方たちの気持ちを伝えたくて書きましたが。クスッと笑える部分は?結構事実です(笑)この訪問ヘルパーという仕事してる限り、まだまだ書きたいと思いますので、暖かい目で見守ってください(_ _)