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異形の者

『それじゃあ行くわよ!スタート!』 


 アイシャの声に肩を寄せ合ってカウラと誠は歩いていた。秋の堤防沿いを歩く二人にやわらかい小春日和の風が吹く。


「久しぶりね、こうして二人で歩くの」 


 そう言いながらカウラは髪を掻き揚げる。誠は笑顔を浮かべながらカウラを見つめていた。


「そうだね、いつまでもこういう時間が続けばいいのにね」 


 そう言って歩く二人に高笑いが響いた。明らかに乗りに乗っている技術部部長許明華大佐の声である。


『あの人意外とこういうこと好きなんだな』 


 そう思いながら誠は身構える。目の前に黒い渦が浮かび上がり、そこにいかにも悪な格好の機械魔女メイリーン将軍こと許明華大佐と緑色の不気味な魔法怪人と言った姿の物体が現れた。


「逢瀬を楽しむとはずいぶん余裕があるじゃないか!マジックプリンス!そしてその思い人よ!」 


 そう言って杖を振るう明華の顔がやたらうれしそうなのを見て噴出しそうになる誠だが、必死にこらえてカウラをかばうようにして立つ。


「何を言っているんだ!」 


 ここではカウラは誠の正体を知らないと言う設定なので、誠はうろたえたような演技で明華を見つめる。


「なに?どう言う事なの!誠一さん」 


 カウラが誠にたずねてくる。しかし、そのカウラも明華の隣の魔法怪人が顔を上げたことでさらに驚いた表情を浮かべることになった。 


「お母さん……」 


 緑色の肌に棘を多く浮かべた肌、頭に薔薇の花のようなものを取り付け、その下に見えるのは青ざめた春子の顔だった。


「オカアサン……ウガー!」 


 そう言うと地面から薔薇の蔓を思わせるものが突き出てきて誠とカウラの体を縛り上げる。


「残念だな南條カウラ!貴様の母はもう死んだ!今ここにいるのは魔法怪人ローズクイーン!機械帝国の忠実な尖兵だ!」 


 いかにもうれしそうに叫ぶ明華に呆れつつ誠はカウラを助けようと蔓を引っ張って抵抗して見せた。


「どういうことなの?誠一さん……キャア!」 


 実生活でも聞いたことが無いカウラの悲鳴に一瞬意識を持っていかれそうになる誠だが、やっとのことで役に入り込んで巻きついた蔓の中でもがく。


「説明は後だ!」


「誠一さん」 


 カウラはじっと誠を掴んで離れない。怯えて見えるその表情。これも逆の立場は実戦で何度か経験したが、抱きしめたら折れそうな繊細な表情を浮かべるカウラにはいつもには無い魅力を感じでしまう。


「おのれ、メイリーン将軍!狙っていたな!」 


 誠は何とかカウラを見つめていたいと言う欲望に耐えて、視線を敵に向ける。上空に滞空して見下すような視線を落としながら明華は高笑いをする。そしてその隣で地面に両腕から伸びる蔓を操っている怪人役の春子が見える。


『ここらへんの状況の説明が良く分からなくて没になったんだよな……第一こんなところで暴れたら大変じゃないか。軍隊が動くぞ!実際なら』 


 誠はそう心の中で突っ込む。春子が全身の棘を立ててにらみつけたと思うと一陣の風が吹いた。両手を掲げて魔方陣を展開するがすぐに破られた。そして全身の衣服に蔓に生えた棘が刺さり、次第に赤い血が滲み出す。


「誠一さん……」 


 額から血を流しながらカウラは誠に手を伸ばす。誠は手にした小さなペンダントを握り締めながら悩む。


「くそ!このままでは!」 


 突然春子の右腕の蔓が伸ばされる。その一端が誠の左肩を捉え、棘が肉へと食い込む。そして誠の腕の皮膚を引き裂いた部分から吹き出た血でカウラは頬を濡らす。誠はぎりぎりと蔓は誠の左腕にめり込み上空であざ笑う怪人役の春子に吊るされようとする。


 その時突然、蔓の根元に光が走った。


「何!」 


 勝利を確信していた明華の表情が驚きに満たされる。その周辺を目にも留まらぬ速度で飛んでいる光る弾、マジックボールを操っているのは小夏だった。牽制で放った魔力弾で明華達を翻弄した彼女はそのまま鎌で魔力弾に対抗して伸ばされた太い蔓を次々と切り刻んでいく。


「大丈夫!お姉ちゃん!」 


 上空で暴れている小夏に変わりカウラの後ろには魔法少女の衣装のシャムが立っていた。魔力弾で誠に絡みついた蔓を撃ち抜きなんとか誠も地面に放り出された。


「シャム……でもあなた、その姿は」 


 魔法少女のコスチュームに身を包んだシャムに驚いたように抱きかかえられながらカウラは驚いた表情を浮かべていた。そして彼女の視線の前ではぴっちりタイツ姿のマジックプリンスに変身していた誠の姿があった。


 カウラは明らかに噴出しそううになるのをこらえている。とりあえず誠から目をそらすと彼女の前に立つ二人の妹役、シャムと上空での戦いをを切り上げて姉を守るべく降り立った小夏に目をやった。


「あなた達……」 


「そう!私とお姉ちゃんは選ばれたんだよ!あの、機械帝国の手先を倒すために!」 


 そう言ってシャムは杖で明華を指し示す。カウラは驚きながら後ずさる。


「嘘でしょ?なんであなた達なの……そして誠一さん……」 


 カウラは噴出す危険を避けるために伏せ目がちに誠の手の中に飛び込んだ。


「これも運命なんだ。すまない、相談もできなくて」 


 そんな二人の光景に微笑を浮かべたシャムと小夏はそのまま視線を明華と怪人姿の春子に向けた。


「ふっ!所詮はあの餓鬼では時間稼ぎもつとまらんか。良いだろう!行け!ローズクイーン!」 


 明華がシャム達を指差すと、地面から蔓を抜き取った春子はそのまま鞭のようにしなる蔓で二人を襲う。


「舐めてもらっては困るわね!私にそんな攻撃が効くものですか!」 


 そう言うと小夏は蔓に向かって鎌を振り下ろす。だが、それは完全に読まれていた。小夏はそのまま死角から延びてきた蔓の一撃で空中から投げ落とされる。


「お姉ちゃん!」 


 空中でもう一方の蔓と間合いの取り合いをしていたシャムの視線が小夏に向いた一瞬。今度はシャムに蔓が絡みつき、そのまま堤防に叩きつけられる。


「シャム!小夏!」 


 妹達の劣勢を見つめてカウラは叫ぶ。


「ふっ。たわいも無いな!この程度の敵にてこずるとは!あの亡国の姫君の程度が知れるわ!」 


 明華が高らかにそう叫んだとき、叩きつけたはずのシャムが明華の前に現れその頭に杖の一撃を加えた。


「なに!先ほどの一撃で斃れなかったというのか!」 


 勝利を確信していた明華は慌てて体勢を立て直す。その前に着地してひざから崩れ落ちたような格好で呆然とした表情で目の前の戦いを見つめていたカウラを守るようにシャムは立ちふさがる。


「許さない!あなたはあんなに一生懸命なランちゃんを笑った……」 


「許さない?それこそお笑い種だ!貴様等のような下等な有機生命体にそのようなことを言われる筋合いはない!あいつが一生懸命?当然だろう!私達と同じことをなそうとすれば必死になっても仕方の無いことだ。まあ無駄な足掻きだがな」 


 そう言って明華はあざ笑いながらシャムに叩かれた頭部を撫でる。


「オイル!……もしかして……」 


 明華は驚愕して顔を引きつらせる。その迫真の演技に誠は唖然とする。


『おい!オイルなのかよ!もしかして油圧シリンダーとかで動いてるの?いつの時代?』 


 油を払うようにして手を振った明華に狂気の表情が浮かんでいる様が見える。


「貴様!私の美しいボディーに傷をつけるとは……許さん!」 


 誠はそんな明華達に思い切り突っ込みたくなる。だがここで突っ込んでも始まらないと誠は台詞を繰り出そうとする。


「シャム、だめ!その人に逆らっては!」 


 再び杖を構えようとしたシャムに叫んでいたのは倒れたまま上空を見上げているカウラだった。その言葉にシャムがためらう。


「そうだ!この改造植物魔人ローズクイーンには貴様の姉のカウラの母、南條春子を素体として使っているからな。人の心とかを持つ貴様等には手も足も出まい!まあ、もはやその言葉すら届かぬまでに徹底して洗脳・改造してやったが」 


 そう言って舌なめずりをする明華に誠はどんびきする。普段の島田達技術部の部下達を竹刀を片手に追い立てる明華が天性のサディストであることを確認した瞬間だった。



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