序
はらはら、はらはらと零れる花びらの下で。
染まる、肩が・・・・・・髪が・・・・・・さしのべた掌が、花色に。
静寂に包まれ、夢現ともつかぬこの空間で。
夢心に、愛しい面影を手繰る。
ああ、このまますべてが終わってしまえたらなんて素敵。
続くと信じていた幸せ。
でも、それは求めていた幸せ?
本当に求めていたものは?
幼い頃の病気が元で、ヒビ硝子の細工物のように脆い身体。
でも、それは決して嘆く材料ではなかったはず。
自分の周りには、たくさんの優しい人たちがいた。愛しい人たちがいた。
庇護してくれる両親、過保護な兄。そして・・・・・・そして何より、この身体でも妻と望んでくれた、兄のように慕っていた許嫁。
――でも、最後に私が望んだのは・・・・・・
幸せだった。このままで幸せのはずだった。これ以上望むことは、我が儘で贅沢なことだと己れを戒めてみた。
でも、出逢ってしまったのだ。
たったひとつの、魂の奥に息づいていた『恋』が目覚めてしまった。
『今』が、そしてその先に続く『未来』が正しいと信じていたあのころ。
誰もが言う『当然』が幸せになれる路だと信じて疑っていなかったあのころ。
――でも、それは私の望む幸せではない!
知らなかった。
己れの裡に、こんなにも激しいものを潜ませていたなんて。静かで、だけど熱く激しい『炎』があった。