畢
弔いの鐘が鳴る。
早すぎる妻の死に、まだ年若い主人は慟哭する。
若すぎる妹の死を、兄は静かに悼んだ。
最後の別れは、悲しみ深い主人のため許されない。若くして亡くなった妻の死顔を誰にも見せたくないと、強く切望したのだ。
死化粧は、兄の妻が施したという。
幼すぎる甥は、父親に尋ねる。
「おばさま、どこに行かれたの?」
息子の問いかけに、父――君敦は微笑んだ。
「ずっと遠い処だよ」
「とおいところ? もう、お目にかかれないの」
少年は眉をひそめてぐずりだす。彼は、若く綺麗な叔母が大好きだった。
「やくそく、したのに……」
『大きくなったらおばさま、ボクのおよめさんになってね』は、幼いながら本気の誓いだった。そう告げるたびに叔母は微笑んでくれた。その、くすぐったそうに笑うお顔が好きだった。
「おひとりで行かれたの?」
その問いに、君敦は首をゆっくり横に振る。
「独りではないよ、大丈夫。そんなに悲しまないでおくれ。叔母さまは、もっと幸せになるために旅立ったのだから」
「本当に?」
「本当さ。父上は嘘は言わないよ」
「うん」
光流は、小さな拳で目許を拭った。その手をそっと包み、横から喜和が手巾を差し出し優しく目許に押しあてる。
優しい母の顔を見て、再び光流の頬を涙が伝った。
それは初恋との決別の涙。
仕方がないと思った。いつも、淋しく微笑む叔母が淋しくなくなるのなら、それでいいと思うことにした。
弔いの鐘が鳴る。
~畢~