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女湯sideⅠ

「柵の向こうに野獣がいては、おちおち入浴もしていられないわね」


 一仕事を終え、髪を払って露天風呂に戻ってくるエステル。脱衣場の扉の前に立っていたソフィアの専属メイドが頭を下げ、エステルは軽く手を挙げて応えた。

 エステルが岩に腰掛けながら湯に足をつけたところで、ショコラと身体の洗いっこをしていたソフィアがパタパタと駆け寄ってくる。二人はそのまま湯に飛び込み、飛沫がフィオナの顔を濡らした。


「あははっ、ヴァーンさんは面白い人だよね。そんなにわたしたちの裸が見たいものなのかなぁ? わたしは別に見られてもそんなに困らないんだけど」

「せ、聖女さまっ。そんなことを言ったらダメですよっ」


 無邪気に笑うソフィアの大胆な言葉に、フィオナが顔を拭きながら慌てて口を挟む。またメイドが一度頭を下げていた。

 そもそも、フィオナたちがこうして聖女ソフィアと湯を共にすることなど、本来であればありえないことである。聖女の裸体を目にすること、そこに触れることは教会が固く禁じており、専属のメイドや世話役の一部のシスターのみに許される特権だ。今回は、ソフィアが「友達だから」と進言し、特別に許されているとはいえ、それは同姓のフィオナたちに限られ、もしもヴァーンがソフィアの裸を目撃していれば間違いなく極刑である。


 そこでフィオナがエステルの方を向く。


「エステルさん、ほ、本当にクレスさんが来てしまったらどうするんですかっ?」

「クーちゃんは来ないと思うけれど、そのときはそのときかしら。まぁ、私も困らないから問題はないわ。いざとなったら目隠しをさせましょう」

「そうだよねぇ。わたしもクレスくんにならぜんぜん見られてもいいよ! ねーショコラちゃん?」

「ウチは楽しければなんでもいいにゃー」


 エステルは涼しい顔を、ソフィアは余裕綽々で、ショコラは我関せずとばかりに露天の温泉を楽しんでいた。動揺しているのはフィオナのみである。

 そこでソフィアが脱衣場の入り口へ――メイドへ向かって言った。


「ねぇ! もう見張りとかいいからさ、こっち来て一緒にはいろーよ! きもちーよ!」

「いえ。私のような使用人が――」

「湯を共にするのは禁じられてーとか規則がーとか言うんでしょ? そういうの全部ナシ! ――『聖女ソフィア』が命じます。今すぐにメイド服を脱ぎ捨ててこちらで一緒に楽しみましょう。貴女にはいつもお世話になっていますから」


 器用にすぐ『聖女』に変わった彼女の姿に、メイドは目を丸くしてから観念したようにうなずき、脱衣場で服を脱ぎ、フィオナたちと共に湯に浸かった。


 こうして露天風呂に揃ったのは、フィオナ、エステル、ショコラ、ソフィアと彼女の専属メイドの五人。


 フィオナは少し、固くなっていた。


「……あれ? フィオナちゃん、ちょっと緊張してる?」

「ふぇっ? あ、え、えっと」


 そのことを瞬時に見抜いたのは『聖女』モードを解いたソフィア。

 アカデミー時代はあまり人と関わり合いを持とうとしなかったフィオナであるから、同世代とこうして入浴するようなことはなかった。セリーヌやリズリットとでさえ、お互いに肌を晒すようなことをした経験はほとんどない。


 さらに、フィオナの回りにいる女性陣はなんともレベルの高い美女ばかりである。

 エステルの身体は起伏こそ小さいが、女性らしい丸みを帯びた身体は肌つやが良く、冒険者でありながら傷一つない滑らかなもので、まるで水のヴェールを纏ったように透明感のある美しさだ。クールで大人びた表情と身体とのギャップも目を引く。


 幼い印象のショコラも、その黒々とした長い髪はまるで夜空の星が散りばめられているのではないかと思えるほど綺麗であり、宝石のような赤い瞳と共に見る者を虜にする。また、耳や尻尾も可愛らしいアクセントだ。


 聖都の至宝そのものである聖女ソフィアは、自慢のプリズムヘアーが夜の世界で見事に煌めき、磨き抜かれた身体の美しさ、バランス、造形美は同姓のフィオナでさえ息を呑むほどであり、どこにも非の打ち所がない。さらに全身から溢れる気品とカリスマ性が彼女の『特別感』を表現していた。


 そして、そんなソフィアに仕えるメイドの少女もまた、質素なメイド服の下に見事なプロポーションの身体を隠していた。適度に鍛えられた肉体と、大人しく凜とした雰囲気はフィオナにないものである。


 フィオナは美女たちの裸を見て、そわそわと口を開いた。


「わ、わたし、こうしてみんなとお風呂に入ることって初めてなので、その、ちょっぴりドキドキしています。それに、み、みんなとっても綺麗な方ばかりなので……」


 そうつぶやくと、ソフィアが「んふー」と笑ってフィオナのそばに近づき、湯の中でフィオナの腕を掴んだ。

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