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女同士の戦い


「うお……マジで、動け、ねぇぇぇぇ……! 声が…………でな…………っ……」

「ふにゃ…………あう………………」


 ヴァーンとショコラは石化したかのように完全に身動きがとれなくなっており、その身体から“養分”として生気が吸い取られ続けている。その証拠として二人の“色”が足元から徐々に抜けていき、白く――灰となり始めていた。


「いけない、このままではあのお兄さんと猫の命が危ない!」

「ヴァーンさん……ショコラちゃんっ! エ、エステルさん、どうしましょう!」


 焦るクレスとフィオナだが、エステルはとても冷静に思考して話す。


「思ったより厄介な相手だったようね。けれど、慌てることはないわ。大体の手口はわかったから。まずは落ち着いて」

「ほ、本当ですか!」


 頼もしい発言にフィオナが顔を明るくする。

 エステルはうなずいてヴァーンたちの方を見た。


「あの男はああ見えて魔力耐性は高いのよ。ショコラちゃんは言わずもがな。にもかかわらず微量な魔力を吸い込んだだけで身体の自由を奪われ、魔術の苗床にされた。そして私たちはまだそうなっていない。フィオナちゃん、この時点でもある程度の推測は出来るでしょう?」

「え? えっと……ヴァーンさんとショコラちゃんが、何か、特別な状態だった……?」

「その通りよ。つまり、二人だけが彼女の魔術にかけられる状態だったということ。おそらくは、何らかの条件を満たした者にのみ発動する魔術なのでしょう。『限定魔術(リミテッド)』は扱いが難しい分、発動したときの効力は凄まじいわ」

「ぐっ……!」


 図星だったのか、エステルの発言にローザの笑い顔が歪む。

 フィオナはここで改めてエステルの洞察能力の高さに敬服した。何より、このような状況でも落ち着いた姿には憧れすら抱いた。


 だがローザは髪を払い、すぐに気を取り直して強気の表情を作る。


「フン。子供のようなナリをして、ずいぶんと賢しい女ですこと。ああ、わかりましたわ。摂取した栄養がすべて頭に吸い取られてしまったのですわね?」


 ぴく、とエステルの眉間が動く。


「貴女こそ、愛らしい人形のような外見とは裏腹に、ずいぶんと陰険で執念深そうな性格のようね。どうも愛とやらにこだわっているようだけれど、そんな貴女を愛してくれる奇特な者が見つかるよう願うわ」


 ぴくぴく、とローザの眉間が動く。


「まぁ皮肉的! 貧相な身体の女は心まで貧相なのですわね。おかわいそうに」


「頭の中までお花畑になっている魔族様に愛をご教授いただきたいところだわ」


 お互いに余裕を含んだ笑顔でありながら、その視線はバチバチと火花を散らすかのように燃える。既に始まっていた女同士の静かな攻防に、クレスとフィオナはちょっぴり引いた。


 と、そこでクレスが言う。


「と、ともかく、なぜ二人が魔術にかけられたのか、その条件がわからなくては俺たちも手を出せないぞ。俺たちまでああなってしまっては全滅だ」

「そ、そうですよね。ヴァーンさんとショコラちゃんが満たしてしまった魔術の“条件”がわからないと……」


 疑問顔の二人に、エステルは魔族ローザに視線を向けたまま話す。


「それもおおよそ見当がついているわ」

「えっ? そ、そうなんですかエステルさんっ?」

「ええ。ここに来て、あの二人だけが共通して行った何かが原因ということ。そして、この場所にあるものは花だけ。――もうわかるでしょう?」

「……あっ!」


 エステルからのヒントで、フィオナも一つの結論に行き着いた。


 ここにあるものは、花。

 ローザは花を溺愛している。

 そして、「愛なき者は死ね」という言葉。


「そっか……ヴァーンさんとショコラちゃんは、ここのお花を……!」


 先ほどショコラが挿してくれた髪の花にそっと触れるフィオナ。


 ――ヴァーンは槍を投げて花々を爆散してしまった。

 ――ショコラも、フィオナのために花を摘んでしまった。


 それが、ローザの魔術を発動させる“条件”。


 ローザがくすくすと笑いながら口を開く。


「ウフフ、もうそこまでおわかりになったようですわね。なかなか優秀ではありませんか。――そう。その野蛮な男と生意気な黒猫は、ワタクシの美しい花たちを穢した。ゆえに、己自身が罪花となったのです!」


 自ら魔術の“条件”を明かすローザ。

 既にフィオナたちに気付かれていた以上隠す必要はなく、何より、それが知られても問題のない強みが彼女にはあった。


「そして、例えそのことがわかったところでどうにも出来ないのがワタクシの魔術の恐ろしさなのですわ。その二人を助ける方法はただ一つ、ワタクシに“愛”を示すこと! さぁ、愛の試練を受けるのです。それが出来なければ、アナタたちも花の養分になるのですわぁ!」


 勝ち誇った様子で自信満々に笑うローザ。

 一見冷静ながら明らかにイライラと憤怒しているエステルが一歩踏み出す。


「君、危ない!」

「エステルさん!」


 クレスとフィオナが声をかけるが、先ほどからの挑発で不満の溜まっていたらしいエステルは二人を手で制して言う。


「愛だなんだとくだらないわ。私、マウントを取られるのは嫌いなの」

「あらまぁ、ワタクシと戦うつもりかしら?」

「花に手を出さなければ問題はないのでしょう。ならば気を付けて戦うだけよ。貴女を凍らせてそれで終わり。術者が命を落とせば魔術は解除されるでしょうから」


 エステルの身体から凍てつくオーラが放出され始め、それは器用に花々を凍らせないよう宙に漂っていたが、ローザは余裕綽々の笑みで告げる。


「愚かな……お教えしたはずですわ。わかったところでどうにも出来ないのだと。だって、たとえワタクシが死んだところでこの魔術は永遠に解けないのですもの」


「「「!」」」


「ワタクシの魔術は高位の独立発展型(スタンドアローン)そういう風に(・・・・・・)生み出したのです(・・・・・・・・)。ウフフフ。なんなら試してみても良いのですわよ? ワタクシはそうそうやられませんし、その間に二人が灰と化してしまうかもしれませんけれど。それでもよろしければどうぞかかっておいでませ。身体も頭も貧相なお嬢さん。あっははははははは!」


 ぎゅ、と強く拳を握りしめるエステル。

 エステルもフィオナも、魔力の強さだけならばローザにひけは取らない。しかし、この花の楽園は彼女の領域である。自ら魔術を生み出せるほどの高位魔族を相手に、優位を取られたのは致命的だった。


 ローザの瞳が、妖しく光る。



愛か(love or)死か(die)、さぁ、どちらを選択なさいますこと?」



 フィオナたちは、完全にローザの術中にはまっていた。

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