未来
「うう、うううぅ~~~……」
堪えきれずにとうとう泣き声を漏らしてしまったのは、レナと同じように花束を持ったクロエ。
レナは、しょうがないなぁという表情でささやくように言う。
「クロエ。最後は笑顔でお別れって言ってたのに」
「でも、でもぉ……ぐすっ、ううう~~~」
そんなクロエの様子に、ベアトリスやレベッカ、他のクラスメイトたちもくすくすと笑い出す。
「しっかし、あのクロエちゃんがねぇ。ホント、人ってのは変わるもんだな」
「そう言う貴女も、ずいぶん変わったと思いますよ」
「ベアはいちいちそういうのいいんだよ……。ほら、さっさと泣き止めよクロエ。アンタの家族も来てんだろ」
「レ、レベッカさん……」
皆には見えない面倒臭そうな顔をしながら、しかし優しい手つきでクロエへハンカチを手渡すレベッカ。
ベアトリスも一歩踏み出し、クロエと目を合わせる。
「しっかりなさってください、クロエさん。そのように泣き虫なままでは、我がリィンベル代表として恥ずかしいですわよ」
「うう、ベアトリス、さん」
「さぁ。背筋を伸ばし、胸を張ってくださいませ。貴女は見送る側ではなく──見送られる側の人間なのですから」
ベアトリスに励まされ、前を向くクロエ。
そこには多くの人々がいる。
エイミやクラスメイトたち、ここに集まってくれたすべての者がこうして門出を祝ってくれているのは、レナのためだけではない。
皆の後ろには──クロエの家族たちの姿もあった。
レナがクロエの手を握る。
「レナが一緒だから平気。行こう、クロエ」
「レナさん……」
「最後は笑顔で、でしょ?」
そう言って笑うレナに、クロエはハンカチで涙を拭うと、
「──はい!」
強く応えて、レナの手を握り返した。
二人は今一度、皆にその顔を向ける。
そして声を揃えた。
「「行ってきます!」」
こうして二人は、空飛ぶ船へと乗り込んでいった。
──レナにとっては二度目の飛行艇。多少は慣れたものであったが、初めて乗るらしいクロエは初め豪華な内装や広い空間に驚くばかりだった。
出発と同時に、二人は窓の外からノルメルトの街を見下ろす。ずっと手を振ってくれていた見送りの者たちは、徐々に小さく見えなくなっていった。
「す、すごいですね。もうあんなに遠く……!」
「うん。クロエ、街を出るのも初めてなんだっけ?」
「は、はい。ノルメルトは郊外に観光場所もあるので、街からちゃんと出たことは初めてで……き、緊張しますっ」
「そっか。でも怖くはないでしょ?」
そう言って微笑するレナに、クロエは少しキョトンとしてから笑った。
「はい! レナさんが一緒ですから」
「うん。けどあのときはびっくりしたなぁ。クロエが急に聖都のアカデミーに留学したいって言い出したとき」
と、以前のことを思い出して語るレナ。クロエは照れたようにはにかんで、頬に手を当てる。
「わたし、まだまだ知らないことが多いなって思ったんです。だから、外でもっといろんなことを学びたくなって。レナさんを育てた聖都のアカデミーだったら、きっとわたしでももっと成長出来ると思ったんです」
「きっと出来ると思うよ。だってクロエ、ホントに変わったもん。誰よりも前向きでがんばり屋で、レナもライバルとして負けないようにって思うから」
「えへへ。ただそのぅ……じ、実はですね、他にも理由があって……」
「え? 他の理由?」
クロエはうつむき加減に、ぼそぼそと恥ずかしそうな面持ちでつぶやく。
「こ、今度はわたしが聖都に留学すれば……その、も、もう少し……レナさんと、一緒にいられると思って……」
「……え?」
思わぬ返事だったのか、レナは目をぱちくりとさせる。
それからレナは、からかうような笑みを浮かべてクロエの顔を覗き込んだ。
「ね。クロエって、もしかしてレナのこと好き?」
「ふぇっ!?」
レナの問いかけに、クロエがわかりやすくあたふたとうろたえる。
「え、あっ、そ、それはそのっ! だ、だだだってレナさんは友達で親友でっ、た、大切な……!」
「うん。それで?」
「だ、だだだからっ、えっと、す、す、好き……! なのは、そのっ、ああ当たり前、でっ、あ、ああああのそのヘンな意味ではなくってぇ!」
どんどん顔が真っ赤になっていき、声を詰まらせながらもちゃんと応えようとするクロエ。
しばらくそんなクロエを眺め、レナはおかしそうに笑って目元を拭った。
「あはは! ありがとクロエ。レナもクロエのこと好きだよ。大切な親友で、ライバルだから」
「レ、レナさん……!」
自然と手を繋ぎ合って、笑い合う二人。自然と足が動いていた。
「あっちに着いたら、みんなにクロエのこと紹介するね。すぐ仲良くなれると思うよ」
「はいっ、ありがとうございます! ──ふふっ」
「ん? どうかした?」
「いえ、レナさん今日はすごく楽しそうだなって。ずっと素敵な表情だから」
「そう? うーん、でもそうかも。帰ったらみんなに話したこと、いっぱい溜まってるんだ」
「そうですよね。この1年、いろんなことがありましたから」
「うん。それにこれからもっといろんなことがあると思う。未来のこと想像したら、楽しくなってこない? 弟と妹も、そろそろお姉ちゃんって呼んでくれるかも」
「ふふふっ! そうですね。魔術師にとって大切なのは想像力ですもんね。未来のことを想うのは、すごく大事だって思います」
「だよね。クロエは将来どうなってるかなぁ? 成長期だし、やっぱり今よりもっとおっぱい大きくなってるのかな? この前オフロで触ったときはこれくらいだったから、1年後はこれくらいかなぁ……」
「ふえぇっ!? そ、そそそういう想像はしないでくださいよ~~~!」
「レナも負けないよ。もっとおっぱい大きくしてもっと魔術の勉強もがんばって、すごい魔術師とすごい先生とすごいお嫁さんになるの。よーし、がんばるぞ!」
そう真剣に意気込むレナに、クロエはしばしポカーンとした後で噴き出すように笑い出した。
「──ぷっ。あはっ、あははは! やっぱりレナさんはすごいですっ」
「クロエだってすごいよ。2年後はどれくらい……」
「もうっ! だ、だから胸の話はもういいですよぉ~~~!」
二人は未来のことを想像しながら、いつまでもそうして楽しく話を続けた。
魔術師に大切なものを、それぞれの胸に抱えて!
※以下、ちょっとしたあとがきになります。
最終話の余韻を楽しみたい方は、後ほど等にご覧ください。
まずは、ここまでお読みくださった全ての読者さんに感謝を。
本当にありがとうございました!
少しでも物語をお楽しみいただけたようでしたら幸いです。
今回のエピソードをもって、レナを主人公とした外伝の物語『最強のお嫁さんの義娘なので、世界最高の魔術学院で余裕でトップになります! 』は終わりとなります。
そして次なる物語は──!
元勇者パーティのリーダーとして、クレスやエステルと共に旅をしたあの男。
彼を主役とした最強無敵なお話となる予定(希望)でおります。
まだ予定は未定という状況ですが、応援していただけますと大変嬉しいです!
よろしくお願いします。




