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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
外伝 最強のお嫁さんの義娘なので、世界最高の魔術学院で余裕でトップになります!

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ずっとライバル

 楽しい時間は過ぎていき、懇親会という名のパーティーもそろそろ終わりの時が近づいていた。


 お腹いっぱいになって満足したレナが、テラスで夜風に当たりながら休んでいたところへクロエがやってくる。


「レナさん、大丈夫ですか? お水持ってきましたけど、飲みますか?」

「あ、ありがとクロエ。ちょっと食べ過ぎちゃっただけ。はぁ~……食事もデザートも全部すごく美味しかったから」


 水を受け取りぐびっと飲み干すレナ。隣に立ったクロエがおかしそうに笑う。


「ふふっ、ミュウさんと張り合ったりするからですよ。途中からハラハラしちゃってました」

「だって、たくさん食べてレナももっと大きくなりたいし。知ってる? 魔術師っておっぱい大きい方が強いんだよ」

「あ、あはは。そういえばレナさん、転入してきたばかりの頃にも言ってましたよね? それってどういう理屈なんですか……?」

「クロエは1位。ミュウは3位。それにうちのママを見ればわかると思います」


 となぜか誇らしげに語るレナ。

 しかし謎の説得力があったのか、クロエは思わず納得させられかけてしまった。


 そんなクロエの胸元を、レナがじっと凝視する。


「クロエ、またおっきくなってない? いいなぁおっぱい分けてほしいくらい」

「ふぇっ!? そ、それはムリですよぅっ!」


 思わぬ接近にささっと胸元を隠して真っ赤に紅潮していくクロエ。レナは「冗談です」と言って笑った。クロエは「もう~っ」と少し頬を膨らませた後、同じように笑う。


「あの、実はレナさんにお礼を言いたいことがあって」

「え? なに?」

「入院しているときに、兄のことを話しましたよね?」

「あ、うん。クロエが小っちゃいときに、クロエを助けるために時の魔術で動けなくなっちゃったんだよね?」


 こくん、とうなずいてクロエは続けた。


「実は、その兄が先日目を覚ましたんです」

「えっそうなの!? よかったねクロエ! でも急にどうして?」

「それなんですが、あのとき……レナさんたちと古代都市に行ったとき、わたし、時の魔術を使う中で兄の幻覚を見たんです。そのおかげで時の魔術を少しだけ上手く使えるようになったんですけど、あのときの兄は……幻覚じゃなかったみたいなんです」

「え? 本物のお兄さんだったってこと?」

「はい。かつて兄が到達した領域にわたしも踏み込んだことで、兄の時間がわたしの時間と繋がって現世界まで引っ張ってこれた……って、ことみたいなんですけど。わ、わたしもよくわからなくって」


 話しながらもまだ自分で事態を飲み込めていないのか、多少困惑した様子のクロエ。しかしその表情は明るい。


「そうなんだ……でもホントによかったね。また大切な人と会えて」

「レナさん……はいっ、家族もみんな喜んでくれました。これもレナさんのおかげです。だから、ちゃんとお礼を言いたくって」

「でもレナ、別になにもしてないけど」


 レナがそう言うと、クロエは小さく首を横に振る。


「……レナさん。聖都に戻られるのは、明後日……ですよね?」

「え? あ、うんそうだよ。もう飛空艇のチケットは取ってあるから」

「ず、ずいぶん急でしたよねっ。お別れ会も、出来てないのに」

「お別れ会?」

「せめてお見送りくらいはさせてくださいね! な、何かわたしからも贈り物をプレゼントしたいなってっ。それで、それで……」


 クロエは、いつものような笑顔を上手く作れずにいた。


 やがて──胸元で自身の両手をきゅっと握る。


「──でも、やっぱりちょっと、難しい、かも……」

「……クロエ?」


 どこか様子のおかしいクロエに、レナは呆然とまばたきをして軽く首を傾げる。



「レナさんと会えた、から」



 クロエの潤んだ瞳は、真っ直ぐにレナを見つめていた。


「レナさんがこの街に、学院に来てくれたから、わたしは変われました。レナさんが、わたしに踏み出す勇気をくれました」


 そう語り出すクロエの声は、少しだけ震えていた。


「レナさんがいてくれたから、ベアトリスさんやレベッカさんと、対等な友達になれた。兄さまを取り戻せた。家族を取り戻せた。全部全部、レナさんのおかげです」


 震えながらも、笑って、懸命に想いを吐露しようとしていた。


「眠るのが、起きるのが怖くなくなって、もっと頑張ろうって、思えるようになった。顔を上げて、前を向けるようになった。前髪を、ちょっとだけ短く出来た。少しだけ、自分を好きになれました。えへへ。わたし的には、これでもすごく、イメチェンです」


 自身の前髪に触れながら微笑むクロエは、まだ上手く笑えていないその顔を次第にうつむけていった。


「……なのに、なのにごめんなさい。友達なら、ちゃんと送り出さなきゃいけないのに。笑顔で見送りたかったのに。わたし、きっと、上手く出来ない、から」


 クロエは、きゅっと拳を握って前を向いた。

 レナを見つめるその瞳から、堪えきれない涙が流れていた。


「わたしががんばれたのは、一位になれるくらいがんばれたのは、レナさんのおかげなんです。だってわたしが一位になればっ、レナさんはまだ帰れないですよねっ? あはは、わ、わたしバカですよね。だってレナさんは宣言通りに一位になって、ほ、本当にすごいです!」

「クロエ……それって……」

「……ごめんなさい。わたし、レナさんに帰らないでほしいと思ってます。もっと一緒にいたいから。もっと二人で成長していきたいから。いろんなこと、一緒にしてみたかったから。でも、そんなワガママなこと言うなんて友達じゃないですよね? なのに、言っちゃうんです……。友達失格、ですね」


 クロエはポロポロ涙をこぼしながら、下手な笑顔で笑いかける。


 レナは──そんなクロエを見て、ちょっと呆れたように笑った。


 そして、泣き出す友人を抱きしめる。クロエは驚いた顔をした。


「レナはなんにもしてないよ。クロエががんばったんだよ。どんなに辛くても、怖くても、クロエが諦めずにずっとがんばってきたから出来たんだよ」

「レナさん…………わた、わたし……っ」

「友達失格なんてわけないじゃん。言ったでしょ。クロエはレナの自慢の友達だよ。これからもずっとそうだよ」

「レナさん……レナさんっ…………あり、ありがとう、ございまひた……っ」

「もう、レナの方がお礼言いたいこといっぱいあるんだけど。ありがとね、クロエ。レナの最初の友達になってくれて」

「う、ううぅぅ~~~……っ!」

「ほら泣かない泣かない。クロエは良い子」


 レナは、泣き続ける友人の頭を優しくよしよしと撫でた。

 かつて自分が両親やフィオナにしてもらったように。生まれてきた弟妹にしてあげたように。

 自分も泣きそうになってしまったのをバレないよう、堪えながら。



 ──やがて涙の止まったクロエは、とてもスッキリとした表情をしていた。


「わたし、やっぱりちゃんとお見送りいきます。笑顔でレナさんを見送りたいです!」

「うん、ありがとうクロエ。レナも来てほしい」

「はい! ……あの、レナさん」

「うん?」


 クロエは少し恥ずかしそうに、けれど今度は本当の笑みを浮かべてつぶやく。


「……また、会えますよね?」


 その言葉に、レナはすぐにうなずいて答えた。


「うん、もちろん。フィオナママのお誕生日パーティーが終わったらすぐ戻ってくるから」

「え? すぐもどっ……えっ? ぱーてぃー?」


 クロエが、まだ泣きはらして赤い瞳のままキョトン顔をする。


「うん。そのために一度帰るんだよ。それですぐまたこっち戻ってくるよ」

「え? え………………えええええ~~~~っ!?」


 驚くクロエのよく通る声が、テラスいっぱいに広がっていく。


「そ、そそそうなんですか!? わ、わたしてっきりっ、もう留学を終えて聖都に戻ってしまうのかと思ってっ!」

「あ、そういうことだったの? 違うよいったん帰るだけ。お祝いの約束してたからさ。えーっと……やっぱり勘違いさせちゃってたみたい? だから別にお別れ会とかしなくてもいいかなって。ごめんクロエ」


 淡々とそう告げるレナに、クロエはポカーンとしばらく呆けたあと……じわじわと顔を赤らめていった。


「あ、ああああ~~~……っ!! あのわたしあのっ、す、すごく恥ずかしいことしてっ!」

「そんなことないよ。クロエの素直な気持ち聞けて嬉しかったし。レナ、いい友達を持ったなぁ」

「あわわっ、あのっ、ベアトリスさんたちには絶対言わないでくださいねっ! は、恥ずかしすぎて、顔から火が出る魔術でも使えちゃいそうですぅぅ~~~……!」

「あははは! そんなのあったら面白いね!」


 楽しそうに笑うレナを見て、やがてクロエも赤い顔でおかしそうに笑い出す。

 レナは言った。


「ていうかさ、ちゃんと帰るわけないよ。レナ、まだ一位になれてないから」

「え? でも今期は……」

「クロエと一緒の一位だったでしょ? それじゃダメなの。ちゃんとレナがトップになる。じゃないと、胸を張って帰れないから」

「レナさん……ふふふっ! やっぱりレナさんはすごいです! でも……それじゃあこれからもわたしが一位を保持出来たら、レナさんはずっとこっちに残ることになっちゃいますね?」


 微笑むクロエの強気な視線と言葉を受けて、レナは少しばかりびっくりした顔を見せた後で嬉しそうに返した。


「やっぱりクロエ、キレイになったよね」

「ふぇっ!?」

「次も勝負だね、クロエ。レナ負けないよ」

「レナさん……はいっ、わたしも負けません!」


 正面から堂々とライバル宣言し合った後、両手を繋ぎ合って笑う二人。


「──まぁ、心外ですわね。私たちのことは度外視ですか?」


 そんなセリフと共にテラスへやってきたのは、給仕役となったメイド姿のベアトリス。その背後には同じ格好のレベッカと、絶対にカレー皿から手を離さないミュウの姿もあった。


 ベアトリスは自身の髪を優雅に払って胸を張る。


「来期こそはレナさんもクロエさんもまとめて叩き落として差し上げます。ヴィオールの血を引く者の真髄、とくとご覧に入れましょう」

「うん。またベアと勝負するのも楽しみ! レベッカも早く戻ってきてね。今度は正々堂々魔術勝負しよ。ボコボコにしてあげるね」

「冗談みてぇなこと嬉しそうに言うなよ本気だろコイツ……あ、な、なんでもございませんわレナお姉様ぁ~♥」

「わたしが……ベアトリスさんや、レベッカさんたちとも……? あ、あわわわ……! わ、わたしやっぱり怖くなってきたかもですっ! ミュ、ミュウさんどうしましょうっ」


『がんばれ』、とでも言いたげに無言でクロエの肩をポンと叩いてまだアイミーカレーを食べ続けているミュウ。その光景にレナもベアトリスも、そしてレベッカも笑い出す。


 リィンベル魔術学院中等部女子クラス前期授業は、こうして終わりを迎えた。


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