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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
外伝 最強のお嫁さんの義娘なので、世界最高の魔術学院で余裕でトップになります!

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学期末テスト

 ──学期末テスト。

 リィンベル魔術学院では、年間に前期・中期・後期と3回の実力測定テストがある。

『星天鏡』を用いた身体測定で心身の成長を目視し、座学による魔術への理解度及び実践での魔術力をチェックして生徒全員を総合的にランキング付け。テストを終えた学期末最終日に発表されることとなる。


 そして今日は、その前期における最終登校日──。


「はぁ~……わたし絶対成績落ちたよぉ。発表憂鬱だなぁ……」

「まぁまぁペーちゃん。まだ前期だよ。後期まで時間あるし、ビリでも一緒に頑張ろうよ」

「ビリとまでは言ってないんだけど!?」


 よく晴れた朝。リィンベル中等部学生寮を出た生徒たちがそのような話をしながら登校していた。既にテストを終えた生徒一同は、各々に期待や不安、緊張と、複雑な感情を抱えている。


 そんな生徒たちを横目に、レナもクロエと一緒に学院へと向かう。初めは違和感のあったこの制服も、今ではすっかり馴染んでいた。


「えっと、今日は先生たちのお話を聞いたあとに成績発表なんだっけ?」


 そう尋ねるレナに、クロエは「はい」と笑顔で答えた。


「発表はクラス毎に行うのですが、一人一人に担任の先生から成績表が渡されます。そこには成績だけでなく、長所や短所、今後の課題なんかも書かれていて、次期への糧にするんですよ」

「ふぅん。やっぱり聖都のアカデミーとは全然違うや。レナのにはなんて書いてあるか楽しみだな」

「ふふ。成績発表を楽しみって言えるレナさんはやっぱりすごいです」

「クロエも同じじゃない?」

「え?」


 クロエがパッチリと目を開けて、驚いたようにレナを見た。かつてその両目を完全に覆い隠していた前髪は、また少し短くなっている。


 レナは、クロエの顔を覗き込むようにその目を見つめながら言う。


「レナが来たばっかりの頃のクロエだったら、たぶんそんなにイイ顔してなかったと思う」

「え? え? い、いい顔っ?」

「クロエ、頑張ってたもんね。なんか、出会ったときよりキレイだよ」

「え、ええええっ!?」


 自分の頬に手を当てて、ぽぽぽっと赤くなるクロエ。そんな彼女を見てレナは笑った。


「行こ、クロエ。もう怖くなんてないでしょ?」

「レナさん……はい!」


 二人は笑顔で手を取り合い、目映い朝陽を浴びながら駆け出した。



 リィンベルの大講堂で開かれた『修了式』では、副学長が講師陣を代表して話を進める。シーナに代わる新たな学院長はまだ選定されておらず、おそらくはこのまま副学長が就任することになるだろうと言われていた。


 修了式でさらに気を引き締めることになった生徒たちは、その後各々のクラスへと戻り、いよいよ担任から成績発表される時間となる。


 静まりかえった教室で、教壇に立つエイミが口を開いた。


「皆さん、前期の学習お疲れさまでした。今期は我が学院にとって大きな事件もありましたが……皆さん、大変頑張られていたと思います」


 中等部女子クラスの生徒たちは、ただ静かに聞く。

 エイミは手元の成績表を見つめ、また生徒たちの顔を見渡しながら話した。


「この成績は、あくまでも相対評価に過ぎません。魔術とは各々に異なる適正があり、そこには上も下もありません。中期、後期と成長出来る機会はまだまだあります。私は、皆さん全員がリィンベルにおける絶対評価に適うことを確信しています」


 そんなエイミの言葉と微笑に、生徒たちの表情が少しだけ明るくなった。

 エイミは眼鏡を持ち上げ直し、凜とした声で言う。


「それでは今期の成績を発表します。──53位、ペルチェ・リードさん」


 呼ばれた生徒が前に出て成績表を受け取り、エイミから一言をもらう。


 淡々と続く時間。呼ばれた生徒はそれぞれ表情が異なりながらも、皆が今の自分と向き合っていく。


「──37位。レベッカ・フランベルグさん」


 赤髪の少女は静かに返事をして立ち上がり、エイミの元へ。少しだけ空気が変わった。

 レベッカがこのクラスに現れたのは、あの日以来である。


「フランベルグさん。街での奉仕活動はいかがですか?」

「ずいぶん慣れてきました」

「景色は少し、変わりましたか?」

「……はい」


 素直に、けれど少々恥ずかしげに答えるレベッカ。エイミは微笑してうなずく。


「実技は不可となりましたが、紙面テストと身体測定だけでこの順位は見事です。貴女にはまだ、長い時間が必要と思いますが……来期に期待していますね」

「はい。ありがとうございます」


 成績表を受け取り、席へと戻るレベッカ。クラスメイトたちは少しの間を置いて──控えめに手を叩く。レベッカは少し驚いたように目を開け、それから照れたように顔を伏せた。


 発表は、いよいよ上位へ。


「──3位。ミュウ・ベリーさん」

「…………」

「……ミュウ・ベリーさん?」

「ベ、ベリーさん。呼ばれてますよっ」


 隣席の少女から声を掛けられ、ようやく気付いた様子のミュウ。エイミが眼鏡を抑えながら苦笑し、周囲から小さな笑い声がこぼれた。


 エイミの前に立ったミュウは、いつも通りにぼーっとした顔をしている。


「私個人の見解としましては、ベリーさんは十分にクラス首席となれる才能を有していると思いますが……どうやら、そのおつもりはないようですね」

「…………」

「ああいえ、まったく責めているわけではありませんよ。ベリーさんはベリーさんらしく、己の魔術を磨いていってください。それに……」

「……?」


 首を傾げたミュウに、エイミは笑顔を向けて言う。


「貴女がこのクラスに残ってくださっているだけで、私は嬉しいのです。また来期のご活躍を、期待していますね」


 ミュウは、眠たそうな目をちょっぴり大きく開いて成績表を受け取る。自然と、周囲から優しい拍手が起きた。


「……先生」


 その美しい“声”に、拍手の音がぴたりと止む。


「ありがとう、ございました」


 ミュウは、柔らかな笑みを浮かべてそう言った。


 エイミも、クラスメイトたちも、全員が呆然と驚きに声を失う。


 やがて、一斉に声が揃った。



『ミュウさんが(ベリーさんが)喋ったーーーっ!?』



 既にその衝撃を経験していた者だけが、おかしそうに笑うことが出来たのだった。



 ──やがて、そんな生徒たちの関心はまた別の者たちへと移る。


 残るは、上位2名。


「──どっちかな? どっちだろう?」

「──やっぱりベアトリスさん? それとも──!」

「──自分のことじゃないのに、ドキドキします……」


 思わずひそひそと話し合い、予想する生徒たち。


 彼女らの視線の先は──レナとベアトリス。


 二人は、それぞれ真っ直ぐに前を見つめている。

 皆が見守る中で、エイミが口を開いた。


「──2位。ベアトリス・ブラン・ヴィオールさん」


 教室内が大きくざわめく。

 ベアトリスはまぶたを閉じて一呼吸した後、「はい」と答えて立ち上がり、前に出て行く。


「ヴィオールさん。前年度の成長を大きく上回る、素晴らしい成績でした。今後も講師陣一同期待しております」

「ありがとうございます。いっそう励んでまいります」


 恭しく成績表を受け取り、席へと戻るベアトリス。自然と発せられた大きな拍手が彼女を讃えた。


 そして生徒たちの視線は、ただ一人に絞られる。


「では──1位。レナ・スプレンディッドさん」

「はい」


 レナは、自身の席からエイミの元へ。

 エイミは、少々感慨深そうな瞳で話す。


「貴女が初めてこの学院にやってきてくださった日を、今でもよく覚えています。この学院の何かを大きく変えてくれそうな……そんな予感がしていました」

「レナ、変えられましたか?」

「それはもう、想像以上でしたよ。大変素晴らしい成績でした。まさか本当に前期だけで1位をとってしまうなんて……お見事です。今後の成長も大いに期待しております」

「ありがとうございます」


 レナはエイミから成績表を受け取り、頭を下げた。途端に、他の生徒たちからまた大きな拍手が鳴った。


 レナがつぶやく。


「でも、ちょっと悔しいです」

「なぜですか?」

「一番が、()()()()()()()()()()()()


 その言葉に、生徒たちが『えっ?』と揃って拍手を止めた。


 エイミは少し嬉しそうに微笑してから、最後の成績表に目を落とす。



「──同位の方がもう一人います。1位。クロエ・シェフィーリアさん」



 今日一番のどよめきが起こり、全員の視線が彼女へと向いた。


「は、はいっ!」


 緊張と共に立ち上がったクロエは、どこかぎこちない歩き方で教壇へ。


 クロエは、前を向いたままレナの隣に並んだ。

 エイミが口を開く。


「身体能力面ではまだ未熟なところが目立ちますが、実技、紙面においてはどちらもトップ。今期、最も成績を伸ばしたのはシェフィーリアさんでしたよ」


 そんなエイミの発言に、皆が驚きの声を上げる。だが──


「……そういえば、シェフィーリアさんも確かにすごかったよね?」

「ええ。ええ。あの件以降、とても積極的になられて」

「実技試験でも、群を抜いておられましたよね」

「毎日しっかり勉強されていましたもの。不思議ではありませんわ!」


 彼女たちの声は、次第に“納得”のものへと変わっていく。その反応に、クロエは少しわたわたとしていた。


 エイミが眼鏡をくいっと直して話す。


「シェフィーリアさん」

「あっ、は、はいっ!」

「大変、素晴らしい成績でした。今後も自信を持ち、我がリィンベルの生徒として励んでください」


 エイミからの成績表を受け取ったクロエの瞳に、じわりと涙が浮かぶ。


 クロエは、大事そうに成績表を抱えながら前を向く。涙はこぼさなかった。


「……はい! ありがとうございました!」


 そして頭を下げたクロエに対しても、大きな拍手の音が広がっていったのだった。

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