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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
外伝 最強のお嫁さんの義娘なので、世界最高の魔術学院で余裕でトップになります!

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『ミュウ』

 そのときである。


『──ようこそ諸君。我がシュタットハイヴ研究所へ』


 部屋の奥から姿を見せたのは──白衣姿のパトリックであった。


『元所長であり責任者として、勇気あるお嬢様たちを丁重に歓迎しよう。よろしければ紅茶と菓子などいかがかな?』


 そう言って、まるで執事のように頭を下げるパトリック。彼の運んできたカートには言葉通りのモノが載せられていた。

 レナが「げっ」と声を上げる。


「ほんとに用意してるじゃん。ていうかお菓子なんてどうやって手に入れたの」

『手作りさ。趣味でね』

「こういう場面じゃなきゃ感心できたのにな」


 とツッコミながら魔力を放出していくレナ。ベアトリスとクロエも同様に最警戒態勢へ移る。だがミュウだけは無言でじっとぬいぐるみを見つめたままだった。

 ベアトリスが立ちのぼる魔力のオーラを竜の形へ変化させ、いつでも攻撃出来る状態で言う。


「せっかくのお誘いですが、遠慮致します。ご存じでしょうが、私たちには時間がありませんので」

『それは残念だ。君たちもすぐに永遠の命を手にすることとなるのだから、最後くらいは人らしい時間を過ごしてほしかったのだがね』

「無用な気遣いです。私たちはこの身体のまま帰るのですから」

『くっくっく。やはり希望の光を持つ若者は尊いものだ。しかし、少しばかり時間をもらいたい。何せ奇跡と呼べる感動の再会を果たしているのだから』

「……どういう意味です?」


 訝しげに目を細めるベアトリス。レナとクロエも視線を合わせてその顔に疑問を浮かべた。


『希望はわずかでも残しておくものだ。適応していたとは驚いたよ、ミュウ』


 そう告げるパトリックの視線の先は──部屋の隅にいたミュウ。


『……!!!』


 その名が出たことで、レナ、クロエ、ベアトリスの三人は同時に驚愕した。彼がミュウの存在を知っているはずがないからだ。


「なんでミュウのこと……どういうこと!?」


 レナが声を掛け、そちらを一瞥する。

 ミュウは静かにベッドの上にぬいぐるみを戻すと、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

 パトリックは両手を広げて言う。


『さぁおいで。ずっと帰る場所を探していたのだろう? ここだ。本当の身体はここにある』

「ミュウ!? ダメっ!」

「ミュ、ミュウさんっ!」「ミュウさん!」


 レナたちが制止の声を上げても、ミュウはただ静かにパトリックの元へ近づく。そしてお互いにいつでも手が触れられるほどの距離で足を止めた。


『見たまえ。傷一つない美しい身体だろう? 脳も肉体も全臓器も、髪先や爪の先に至るまですべて完全に修復、再生した。もう病に苦しむことはない。あとは魂を移し替えるだけだ』


 パトリックが手を差し向けたのは、近くにある巨大なポッド──その中の少女。

 ミュウはポッド内の少女を一瞥し、無表情のままパトリックに視線を戻した。


『くっくっく。ようやく子孫の肉体を手に入れられると喜んでいれば、よもやその先にと望んでいたものまで手に入るとは。やはり私は特別に運が良い』

「さっきから何を仰っているのです!? ミュウさんから離れてくださいませ!」

『やれやれ、感動の再会を邪魔しようとは無粋なものだ。そう思うだろう? 我が娘──ミュウよ』

『……!?』


 パトリックの言葉に、レナたちは激しく動揺した。それは魔力の流れを著しく乱す。


「ミュウが……この人の……!?」

「ミュウさんがっ……え、えっ!?」

「ほ、本当なの、ですか!?」


 後ろから声を掛けるレナたちに応えることはなく、ミュウは何も言わずに黙ってパトリックを見つめ続け、


『さぁミュウ。そのような紛い物の穢れた肉体は捨て、本物の身体に──』


 ようやく──その口を開いた。



「やめて。パパ」



 それは、パトリックの言葉を肯定するものだった。


『……!!』


 衝撃の事実にレナたちが愕然としたとき。

 ガシャアアアン!と激しい音が研究所に響いた。それはカートが倒れ、紅茶の入ったカップや菓子皿が割れ落ちた音であった。


 レナたちは気付く。



 パトリックの表情が──一瞬にして闇深いモノへと変貌したことに。



()()()()()



 パトリックの腕が伸び、ミュウの首を力強く掴む。それでもミュウは平然としていた。レナたちは何が起きたのかと動くことが出来ない。


『娘の魂をどこへやった』

「わたし。ミュウ。パパ。とめる」

『人形ごときが騙るか──!』


 パトリックの瞳に強い敵意が宿る。刹那、背後から出現した竜のオーラが腕を振り下ろし、鋭い爪でミュウを襲った。


「ミュウ!!」「ミュウさんっ!」「ミュウさん!」


 衝撃で後ろに倒れたミュウの元へ駆けつけるレナたち。制服を切り裂かれたミュウの胸部に痛々しい血の線が刻まれていたが、それほど深い傷ではないようだった。


「ミュウ平気!? 早く血を止め──」


 レナが手当を始めようとしたとき──三人は気付いた。


 ミュウの素肌。

 制服が斬られてことで見えるようになった腹部──魔力が巡るとされる臍下で、魔術刻印が淡い光を放っている。


 それは、レナたちにも見覚えのあるものだった。


「……ミュウ? それって」

「え、え? ミュウさんのお腹に……紋様が……で、でもこれって……!」


 そして、ベアトリスが確信の一声を放つ。


「この紋様は……ヴィオールの!!」


 それは、ここ古代都市リィンベルでヴィオールの屋敷に潜入した際、地下へ続く扉やその鍵に印されていた紋様。そして先ほど研究所に続く扉に刻まれていたもの。それとまったく同じものが、ミュウの身体に刻まれていた。


「ミュウさん……貴女は、本当に彼の──初代当主パトリックの……!?」


 ベアトリスが、ミュウとパトリックへ交互に視線を向ける。

 パトリックは、忌々しげに自らの頭に手を当てた。


『違う、違う、違う。“それ”はやはりただの人形、器に過ぎない。適応は不完全だった。私の“娘”はここにいる』


 パトリックがバンッ、と手で叩いたのは──少女が収められた一台のポッド。


 呆然となるレナたちの前で、ミュウはガラスのような瞳でパトリックを見つめながら自身の胸元に手を当てた。傷口は、いつの間にか塞がっている。



「『ミュウ・フェミア・ヴィオール』」



 そして、自らの真名を告げた。

 

 それこそが答えであった。


「……じゃあ、ミュウはあの人の子供なのっ!?」

「え、えええ……っ!? ミュウさんが、初代ヴィオール当主の……!? そ、それじゃあミュウさんはベアトリスさんのっ!?」


 レナ、クロエも大きく動揺し、事態を飲み込みきれなくなる。

 だが、ベアトリスだけは理解していた。


「……そう。そういうことなの、ですか。古代リィンベルの住人が生きているはずはありません。つまりミュウさん……貴女も彼と同じ──」

「「!!」」


 その真実は、さらなる衝撃をレナたちに与えた。

 パトリックが手で顔を押さえたまま笑い出す。


『その通り。それは我が娘の魂を入れた仮初めの肉体。いや、保管のためのただの器。にもかかわらず、ミュウの魂を奪い変容させた無垢なる人形』

「ちがう。わたし。ミュウ」

『黙れ。娘の名を騙るな。その魂──今この時に返してもらう』


 刹那、パトリックの竜が大きく膨らみ爆発的に魔力を高める。さらに部屋の奥から大量の不死者たちが押し寄せてきた。


「クロエ! ベア! ミュウ!」


 レナが叫ぶ。


 それは開戦の合図。



「──《ミュウズ・プラントθ》」



 ミュウの背後から出現した大量の植物たちが、まるでラタンのバスケットのように複雑に組み合わさって巨大な“カゴ”を作り出す。

 逆さまにしたような形のカゴはレナたちとパトリックをまとめて閉じ込め、不死者たちを外へと追いやった。パトリックがすぐに竜の腕で衝撃を加え破壊を試みたが、カゴはびくともしない。


「これって、ミュ、ミュウさんの結界魔術!?」

「素晴らしい性能ですわミュウさん! さぁ皆さん、後は手はず通りに!」

「了解! またワケわかんないことになってきたけど、本当に娘に手を出すような親なら容赦なくぶん殴っていいよね!」


 キィィィィィィィンと急速に魔力を凝縮する高い音が発せられ、レナの腕に二輪、三人と黒きリングが重なっていく。同時にパトリックの竜が咆哮し、結界内の空気がビリビリと震える。


 最後の戦いが始まった。

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