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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
外伝 最強のお嫁さんの義娘なので、世界最高の魔術学院で余裕でトップになります!

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バカじゃん

 ──魔術国家ノルメルト。そのリィンベル魔術学院に併設されているリィンベルパレスの中。


 再び“施錠”を済ませた古鏡の前で、1人の少女が笑っていた。


「──アハハハハ! あースッキリしたぁ! 邪魔者がみーんないなくなった! これでもう家の、ヴィオールのいいなりになんてならなくていい! アタシは──自由になったんだ!」


 それは、レナ、クロエ、ベアトリスの3人が古代都市へと送られた直後のこと。


 ひとしきり笑った後、その少女──レベッカはくるっときびすを返して歩き出す。


 扉を出たレベッカは、持っている鍵に目を落とす。

 そして、入り口の扉をも施錠した。


「……アンタたちがバカだったのが悪いんだよ」


 扉に向かってそうつぶやくと、足を止めることなくレベッカはリィンベルパレスを後にした。



 放課後のリィンベル魔術学院は、平穏であった。

 実技や試験に向けて居残り授業を続ける生徒たちは多く、講師たちも日々の講義や試験のために日夜忙しく動いている。


 いつもと何も変わらない学院内を、レベッカは歩いていた。


「──おや、フランベルグさん。その格好……実技の訓練ですか?」

「エイミ先生。はい、そんなところです。それでは」

「ええ、さようなら。根を詰めすぎないようになさってください」


 すれ違った講師エイミと自然な会話を終え、また歩き出す。

 リィンベルパレス内部には、最上位クラスの高等な魔術結界が張られている。それは塔を保護するためでもあり、何よりも“万が一”に備えてのものだ。だからこそレナがレベッカやベアトリスと戦っても塔内部が傷つくことはほとんどなく、その爆音や振動なども開いていた扉のすぐ近くまでしか届かなかった。


 ゆえに、誰も知らない。

 気付いていない。

 すべてを知っているのは、彼女一人。


「──あ、レベッカやっと戻ってきた」

「おかえりレベッカ。一体どこ行って──って、ちょ、ええっ!?」


 教室で自習をしながらレベッカを待っていたのは、クラスメイトの2人。レベッカとは幼い頃からよくつるんでいる仲で、レベッカほどではないが2人ともそこそこの家の出身である。


 2人ともレベッカの姿を見て驚愕した。


「うわ、制服ボロボロっ。どしたのレベッカ?」

「ちょ、ちょっと驚かさないでよ! あ、ひょっとして実技訓練でもしてたとか? レベッカってこうみえて真面目だからなー」


 詰め寄ってきた2人に、レベッカは普段通りの軽い笑みを浮かべて応える。


「アハハ、バレた? ま、そんなとこかな。それよりさっさと帰ろ。スイーツでも食べに行く?」

「うーん……行きたいのはやまやまだけどさ。成績厳しいし今日は自習してくよ」

「私も~。レベッカみたいに才能もコネもないからさ、せめて実技以外のとこで点稼がないとだし」

「ちょっと、真面目なのはアンタたちの方じゃん。てゆーかそれイヤミ? コネはともかく、アタシに才能なんてあったらベアにも留学生にも負けてないだろって?」


 鞄を手にとってから、からかうようにニヤつきながら凄むレベッカ。2人は慌てて返した。


「ち、違うってば! 普通に、純粋に褒めてるだけだって! ね!?」

「そうそう。レベッカってちょっと自己肯定感低めだよね。ベアトリスさんだって、昔からずっとレベッカのこと買ってるのに」


 その発言に、レベッカの表情がぴくっと動いた。

 しかしすぐに明るい表情に戻って軽口をたたく。


「ハァ? んなわけないでしょ。ベアにとってみればアタシなんて目下の召使いだっての。子供の頃なんて身体まで洗わされたんだから」

「えーそうだったの? まぁお家柄大変そうだよね……。でも、召使いって事はないと思うけどな」

「うん。少なくとも私たちよりずっとよくしてもらってるじゃん! ベアトリスさんだって言ってたよ? レベッカさんがいれば2人でリィンベルや街をもっとよくできるーって!」

「……!」


 レベッカは大きく目を見開いて驚いた。

 そんなことは初耳だった。



 ──いや、違う。



 ふと、レベッカの脳裏に幼い頃の記憶が巡った。



 ──ヴィオールの娘は、支配者の娘は絶対だ。


 ──逆らうことは許さない。そのときは縁を切る。


 ──取り入ってNo.2になれ。お前はそのために生まれたのだ。



 幼い頃から、レベッカは厳しい体罰と共にずっとそう教育されてきた。何度も鞭で叩かれながらすり込まれてきた。刻まれた痛みと恐怖を忘れた日はなく、彼女の心を縛り付ける。

 だから貴族たちの懇親会の場で初めてヴィオールの娘と──麗しいドレスを着飾ったベアトリスと出会ったとき、レベッカはまだ幼い身でありながら完全に従者として膝をつきながら挨拶をした。


『お初におめにかかりまして光栄でございます。レベッカ・フランベルグと申します。今後はどのようなことでもおもうしつけください、ベアトリスさま』


 まだ舌っ足らずな声で、散々仕込まれた言葉をただ吐き出した。

 その時のレベッカに、己の感情は宿っていなかった。

 ただ挨拶をしてこいと言われたからしただけだ。失礼をすれば叩かれるからそうしただけだ。


 だから、ほとんど覚えていなかった。

 どうでもいいことであったし、相手もどうでもいいことだと思っていただろうから。



「…………あ」



 と、忘却に沈んだ記憶を拾い上げたレベッカは、クラスメイトの前で声をもらした。


 あのとき。


 そうだ。


 あのとき幼いベアトリスは──



『顔を上げてください』

『……はい』

『わたくしはベアトリス・ブラン・ヴィオールです。今後、あなたとは長いお付き合いになるでしょう』

『……はい』

『様はいりません』

『……はい。………………え?』

『堅苦しい言葉づかいも必要ありません。年齢も、性別も、故郷も、歴史さえも同じものを共有してきました。わたくしたちは対等です。だから──』



 そうだった。

 あのときベアトリスはそう言った。


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 しかし、ヴィオールの娘に馴れ馴れしい話し方をしていることが両親に知られ、一度ひどい折檻を受けたことがある。それは死を覚悟するほどのものだった。

 ただそれもレベッカにとっては当然のことだった。だから両親を、ましてやベアトリスを憎むこともなかった。

 ベアトリスは自らの責だとレベッカに謝罪をしたが、それもレベッカにとっては恐れ多く、むしろ迷惑な対応だった。

 それ以降は、なぜか両親はレベッカに手を出さなくなった。

 すべてどうでもいいことだった。

 だからレベッカは考えなかったし、考えようともしなかった。


 やがて、ベアトリスと共にリィンベル魔術学院の門を叩くこととなった。

 このときだけは、レベッカは少しの喜びを感じていた。

 実家を離れて、好きな魔術に集中出来る。お嬢様の世話をするのもすっかり慣れた。何よりヴィオールの盾があるため、好き勝手に振る舞えるのは気持ちがよかった。今まで散々尽くしてきたのだから、これくらい利用させてもらっても罰は当たらないだろう。

 ベアトリスと共にめきめきと力を付けていったレベッカは、奪われた自尊心を取り戻していくことに必死になった。


 その頃にはもう、すっかり忘れていた。


 幼かったあの頃。

 跪く自分の手を、ベアトリスが掴んでくれたこと。

 そのときの言葉。



『みながゆたかに生きていけるよう、2人でこのノルメルトのまちを、リィンベルをより立派な場所にしてまいりましょう。よろしくおねがいしますわね、レベッカさん』



 ベアトリスが笑いかけてくれたことも、すべて忘れていた。


 自分のことでいっぱいだったから。


 自分を認めてあげるために必死だったから。



「…………バカじゃん」



 レベッカは己の魂に問いただす。


「アタシが唯一持ってたものなのに…………アイツの言うとおりかよッ!」


 レベッカは、鞄を放り投げて駆け出す。


「え、ちょっ?」

「レ、レベッカ?」


 そして教室を出る間際、レベッカはクラスメイトの2人の方に振り返って言った。


「アンタらはすぐここから逃げな! そんで他の生徒たちにもすぐ避難しろって呼びかけろ! アタシが鍵を開けて持って行っちまったら閉めるヤツがいなくなる! 先生たちだけじゃ抑えられないかもしれない!」

「え? な、何?」

「はぁ? レ、レベッカ何言ってんのっ!?」


 レベッカは特別な“鍵”を取り出して言う。


「リィンベルパレスの封印を解く! そしたらおとぎ話の“不死者”どもが出てくるかもしれないんだよ!」


 クラスメイト2人は呆然とし──レベッカの表情を見てすぐに動き出した。


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