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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
外伝 最強のお嫁さんの義娘なので、世界最高の魔術学院で余裕でトップになります!

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四人目

 講師陣たちが忙しそうに動く中で駆け寄ってきた一人の講師──エイミは膝を突いてレナたちの顔を一人ずつ確認すると、深く息をついて安堵した表情を浮かべる。


「三人ともよくぞ戻って……まさに奇跡としか言いようがありません……」


 教え子たちの無事を確認してよほど安心したのだろう。普段はなかなか見られないエイミの表情や声の様子に、レナたちも思わず瞳が潤むほどだった。


 その一瞬に緩んだ空気は、しかし次の瞬間にはまた張り詰めたものへ変わる。


「ヴィオールさん。大変お疲れでしょうが、クラス長として端的な説明をお願いできますか?」

「は、はい! ……ですが、その」

「ご心配なく。我々講師陣は元より“リィンベル”のことを知っています。彼女たちも……問題はありません」


 周囲の講師や近くの女生徒たちに目を向けてそう告げるエイミ。


 うなずくベアトリスは、その場の者たちにも聞こえるようすべてを話した。


『星天鏡』によって禁忌の地、『古代都市リィンベル』へと転移してしまったこと。

 不死者たちで溢れる世界で鍵を探索し、ようやく戻ってこられたこと。

 その鍵を持っていたのが、英雄として伝わるヴィオールの始祖──『パトリック』であったこと。

 ──そして、パトリックこそがリィンベル崩壊の根源だったこと。


「信じがたいお話かもしれませんが……このベアトリス・ブラン・ヴィオールが、すべて真実であることを証言致します」


 その話を聞いたエイミや講師陣たちは、明らかに強く動揺していた。

 ノルメルトの街が、リィンベル魔術学院が秘匿してきた過去の過ちが、紛れもない事実であったことがヴィオールの愛娘によって証明されてしまったからだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、という理由についてベアトリスがあえて伏せていたことを悟ったレナとクロエは、お互い顔を見合わせてうなずく。


「これはこれは……とんでもないことになりましたね。古代都市のことはともかくとして、まさかパトリック様がご存命でいらしたとは……歴史を揺るがすお話です」


 そうつぶやきながらレナたちの近くにやってきたのは──頭巾を被ったエプロン姿の初老の女性であった。


「…………え? や、焼きバナナ屋さん!?」


 そう言いながら女性を指さし、目を丸くしたのはレナ。

 レナがノルメルトの街へ初めてやってきた日。露店で食べたあの焼きバナナ屋の店主こそがまさに目の前の人物であった。どこにでもいる優しそうな雰囲気の、穏やかな顔つきの女性である。


「うふふ、これでも見る目はあるほうでして。やはりお嬢さんはただ者ではありませんでしたね」


 そんな女性店主は、皺を寄せて小さく微笑むとレナにウィンクをしてみせた。

 その表情はすぐに凜々しいものへと変わると、手を掲げて周囲の講師陣を先導する。


「生徒3名は無事帰還しました。さぁ、ここからはリィンベルの名を継ぐ我々の役目です。各自結界の再構築を最優先! なんとしてでも『星天鏡』に再封印を施します! 全員、ここで全ての魔力を使いなさい!」


 よく通る女性の声に講師たちはそれぞれ返事をし、高めた魔力を解き放って両手で『星天鏡』へと差し向けた。混ざり合う膨大な魔力が渦となって強力な結界を作り、鏡を取り囲む。


 ぼうっと眺めていたレナに、エイミが自身の眼鏡を持ち上げ直して話す。


「彼女こそリィンベルの責任者であり現学院長、『シーナ・モンシェル』です。とは言っても、普段あまり学園にはいないのですが……どうやらお知り合いだったようですね」


 その言葉に、レナは呆然とうなずくしかなかった。

 エイミはレナたちに向けて言う。


「さて、あなた方はすぐにここを離れて身体を休めてください。詳しい話はまた後ほど。まずは再封印を行います」

「えっと、ふ、封印なんて出来るんですか?」

「もちろんです。我々リィンベルの講師陣は全員が卓越した魔術師。このノルメルトの街が出来たそのときから、“万が一”に備えての多重封印結界を施す術を心得ています」

「す、すごい……そうだったんですか……!」


 レナとクロエがそれぞれに驚きと困惑の声を上げる。ベアトリスだけが冷静にうなずきながら、パトリックより奪った古き鍵に目を落とす。


「一度封印を解いてしまったことで、今は禁忌の地との“道”が出来上がっている状態です。例えこちらから鍵を閉めたところで、向こう側の鍵を閉じて封じなければ“道”が消失することはありません。そのため不死者たちがこちらの世界へ来てしまう前に、『星天鏡』そのものを再封印──もしくは破壊する他ないのです」

「あ……そっか!」

「そ、そうですよねっ。だって、もしもあの人たちがこっちの世界に──ひゃあっ!?」


 悲鳴を上げたのはクロエ。同時にすべての者の視線が“そこ”へ集まる。


 鏡の向こうから──生気なき一本の腕が伸びてきたのだ。


 だがその腕は講師陣たちの結界による魔力でバチバチと火傷するように弾け、やがて向こうへと引っ込んでいく。


「い、い、今のって……っ!」


 声を震わせるクロエ。

 シーナやエイミ、大勢の講師たちが集まっていた意味。鬼気迫ったその表情。恐ろしげに震えている数名の生徒。

 

 レナもまた、息を呑んで緊張の面持ちをする。


「そうだ……今ここで鏡を封印しなきゃ……!」

「ええ。ノルメルトの街も、我々が見てきたリィンベルのように──」


 ベアトリスのその言葉の先は、おそらくこの場にいる誰もがわかっていることだった。


 そこでレナが「あれ?」と疑問を口にする。


「あの……エイミ先生! でも、どうして先生たちがここにいたの? だってレナたち、勝手にここに来て鏡を……」

「あ……た、確かにそうですよね? わ、私たちがリィンベルに行ってしまった事なんて、誰も知らないはずで……なのに皆さんっ」


 クロエも同じ疑問に困惑する。


 すると傍らのエイミが答えた。


「フランベルグさんが教えてくださったのです」


「「え?」」


「封印を解き、貴方たちを古代都市リィンベルに送ってしまったのだと」


 レナとクロエは呆然とした。


 しかし、納得する他なかった。

 なぜならレベッカ・フランベルグが他言する以外に、この状況が出来上がる可能性はない。そしてレベッカが動いていなければ、おそらくここは既に不死者たちが押し寄せる地獄と化していたはずだった。


「……レベッカさん……」


 ベアトリスが、泣きそうな顔でつぶやいた。


「……そっか。レベッカが、レナたちのこと……」

「レベッカさん…………やっぱり、レベッカさんは……」


 レナとクロエの中に、もはや彼女への怒りはなかった。


 話をしなくてはならない。

 レナも、クロエも、ベアトリスも、レベッカとの対話を求めていた。


 だが──周囲にはそのレベッカの姿はない。


「……スプレンディッドさん。シェフィーリアさん。ヴィオールさん」


 エイミが、またそっと眼鏡を持ち上げ直した。



「確認しますが……フランベルグさんは、ご一緒ではないのですね?」



 その言葉に、レナたちは「え」と固まるしかなかった。



 レナたちの背筋に、冷たいモノが流れる。



 さらにそこへ、事を眺めていた二人の女子生徒が駆け寄ってきた。


「あ……」とレナはすぐに気付く。


 彼女たちは中等部のクラスメイトであり、“エレメンタル・スフィア”の授業中にレナの妨害をしてきた少女たちであり、そしてレベッカとよく行動を共にしていた友人たちだ。


「ね、ねぇ? レベッカは? レベッカはどうしたのっ? 一緒にいたんだよね? なんで三人だけなの?」

「す、すぐ来るんだよねっ? だってレベッカさ! 私たちに説明した後、先生に報告しに行って、あんたたちのこと追いかけて一人で──っ!」

「「「……!!!」」」


 レナも、クロエも、ベアトリスも。

 その事実に、ただ愕然とした。


「ごめんなさい……謝るから! 今までのこと、レベッカと一緒に私たちもちゃんと謝るから! 罰だって受けるよ! ごめん! ごめんなさい!」

「そ、そうだよ! ごめんなさいスプレンディッドさん! だから隠さないで教えよ! レベッカも一緒だったんでしょ? す、すぐに戻って来るんでしょ!?」


 二人に手を掴まれながら、レナは何も答えられずにいた。



 今まさに封じられようとしている鏡の向こうに。



 まだ──四人目が(もうひとり)残っている。



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