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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十二章 花婿の決着編

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決着、そして――

 幾多の攻防の末、クレスとメルティルは距離をとる。

 開放していた闘気を剣と共に鞘の中へしまうクレス。落ち着いた表情で呼吸を整える。

 メルティルもまた、思うままに昂ぶっていた膨大な魔力をすべて霊杖へと集中。顔つきも静けさを取り戻す。


「――決まるぜ」


 愉しそうな顔でヴァーンが笑う。

 彼の言葉の意味を皆が理解していた。


 次が、本当の決着となる。


 かつて世界を形作り、そして世界に翻弄された勇者と魔王が、すべてのしがらみを振り払って純粋な決着をつける。


 クレスは腰を落とし、左手に鞘を、右手に聖剣の柄を握る。目を瞑り、深く長い呼吸をして、己のすべてを一点へと集中させる。鞘の中からかすかに漏れ出る輝きは太陽のような眩しさを放つ。


 対するメルティルの霊器が彼女の魔力によって再びカタチを変え、掌の上の宝玉を闇の結晶によって生まれたリングが三重に囲う。リングの中で緩やかな回転を始めた宝玉は、周辺の景色さえ歪ませるほどの深い魔力の渦を生む。


 フィオナが祈るように手を組む。


「……クレスさん……!」


 闘う二人の一挙一動を全員が見守る。


 そんな張り詰めた緊張感の中で、フィオナたちは見た。


 互いに笑う二人を。



「行くぞ、メルティル」


「わざわざ宣言するな間抜け」



 刹那。


「安曇流――《紫電一閃》!!」


 踏み込んだクレスの抜剣。

 一部の隙もなく完全なる挙動で抜かれた剣から溢れた光は、すべてを斬り裂く聖なる刃となって放たれる。


「――【混沌孕む深淵の黒姫(メル・デュプラレイド)】」


 霊器より放出された魔力はメルティルの影と同化。実体化した暗黒なる影の両手に握られた漆黒円刃デスサイズからすべてを呑み込む魔なる刃が放たれる。


 二人の最後の一撃に、皆が目を見張る。


 それは、一つの時代が終わる瞬間。

 歴史の転換点。

 まさに勝負は一瞬だった。



 クレスとメルティルのすべてを込めた技は――互いに混じり合い、そして消滅した。



 静まりかえる世界。


 クレスが額から汗を流し、つぶやく。


「やはり、お前は強いな」


 聖女の祈りが込められた勇者の剣『ファーレス』の刀身にヒビが入り、やがて二つに折れた。


 メルティルが手を下ろす。


「ふん。確かに、あの頃よりはずいぶんとマシだな」


 魔王の霊器『ゲヘナ・ズィール』の宝玉もまた砕け、散る。


 メルティルが指を弾くと、【シャットダウン】空間の魔力が帳を下ろしたように消え去る。同時にメルティルの身体が元の姿に戻っていった。


 元の世界で相対する二人。


 決着はついた。


 それは、二人の満足げな表情を見れば誰にでもわかることだった。


 だから、フィオナたちも笑う。

 長い時間をかけ、様々な運命をくぐり抜けた末に辿り着いたこの場所で。


 皆が見守る中で、剣を失ったクレスがその手を差し出す。


「感謝する。ありがとう、メルティル」


 メルティルが少し驚いたように彼の手を見つめていると、背後から「メル様! おてて! おててです!」「ほらメル、握手だよ~!」と騒がしい二人の声が聞こえてくる。フィオナやレナたちもなんだか嬉しそうにはしゃいでいたが、しかしメルティルは苦々しい顔で腕を組み、応えようとはしない。


「くだらん。馴れ合うな。気色が悪い」

「む……そ、そうか」


 ちょっぴり残念そうに手を下げるクレス。リィリィとエリシアが「「んも~~~!」」と不満タラタラな声を上げてメルティルの眉間に皺が寄る。


「ふん。それよりもこれからはその手を別のことに活かすんだな。貴様の作る生地はまだまだまだまだまだまだ甘い。せいぜい嫁にしごかれろ!」


 その言葉に、クレスがびっくりした様子で何度かまばたきをする。

 それからクレスは笑った。


「ああ。次はスイーツで君を負かそう」

「やれるものならやってみろ馬鹿め」


 どこか抜けた空気のやりとりに、フィオナやエリシアたちは揃って笑い合った。


 そのとき。


「――え?」


 フィオナが呆然と短い声を上げる。


 彼女の視線の先で――クレスが、崩れるようにその場に倒れた。


 倒れ伏したクレスは、ぴくりとも動かない。

 メルティルがしゃがみ込み、クレスの首元にそっと触れる。そしてフィオナの方に視線を送った。


「――アルトメリアの娘。来い」


 フィオナが、一歩を踏み出す。



「この男、このままではもう一度死ぬぞ」



 その言葉を聞く前に、フィオナはもう駆け出していた。

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