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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十二章 花婿の決着編

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今日もイライラメル様

 クレス、フィオナ、レナ、ヴァーン、エステル、エリシア、ニーナ。その場で動ける者全員の視線が集まる。


「メルティルさん……!」

「あ。あのときのエラそうなお客さん」

「オイオイオイ。こいつはあの海の時の……マジでか!? マジモンの魔王!?」

「深淵の主姫……メルティル…………本当に……」

「ひ、ひええええ~!」


 フィオナは驚き、レナは平然と指を差し、ヴァーンとエステルは武器を手に取って、ニーナがうさ耳をへにゃりとして震え出す。


 闇から姿を現した、強大な魔力を秘めた魔なる者たちの王。その小柄な身からは恐怖そのものをまき散らす。


「やーんメルぅ~! ボクを迎えにきてくれたの? 嬉しいなぁ大好きっ! 優しいメルにはご褒美にチューしてあげるねぇ♪」


 キラキラ笑顔のエリシアがそんな魔王に駆け寄ってむちゅーと唇を近づけるが、眉間に皺を寄せるメルティルはエリシアの頭を雑に叩いて地面に倒した。エリシアはすぐに起き上がり「んもー素直じゃないなぁ」と汚れた顔を払う。 


 そんな魔王の斜め後ろに付きそう純朴そうな顔のメイドがペコリと頭を下げた。


「皆さま、ご無沙汰しております」

「リィリィさん! え、えっと、ど、どうしてここにメルティルさんが……!?」


 驚きのままに問うフィオナ。

 リィリィがにこやかに答える。


「はい! ようやくニーナ様の結界が壊れたことで居場所がわかりましたので、こうしてすっ飛んできたというわけです! ですが、そのぉ……」


 リィリィは、なんだかとてもバツの悪そうな顔でこそこそと後ろに下がっていく。


「メ、メル様は現在とぉ~~~っても虫の居所が悪く、イライラメル様になっておられるので、お気を付けいただいたほうが……」

「あらら。ひょっとしてケーキの件バレちゃった?」

「ふひぃ……まさにお叱りを受けていたところでしたぁ……」


 涙目のリィリィを見てエリシアがクスクスと笑う。クレスたちには意味のわからないことだが、なにやらメイドは先ほどまでキツめの折檻を受けていたらしい。その表情には憔悴ぶりが感じられる。

 そして魔王メルティルは、今にも噴火しそうな怒りをその瞳に覗かせながらつぶやく。


「どいつもこいつも……ふざけるな……ああふざけるな……これほど腹が立つのはしばらくぶりだ……」


 彼女が一歩踏み出すだけで地面は砕けてえぐれる。

 その目はクレスを睨み付けた。


「おい……あんぽんたん勇者もどき……。妾は言ったな、絶対に誘いに乗るなと……」

「えっ――」


 思わず身を引くクレス。

 ゆっくりと近づいてくるメルティルの怒気は、クレスにもよく見えるほどの漆黒のオーラとなって表れる。


「話を聞いていなかったのか? 何故貴様は自ら面倒ごとに首を突っ込む? 何故考えが及ばない? どんな知能をしているんだ? 阿呆は死んでも阿呆なのか?」

「ま、待て! 誘い? 一体何の話を――」

「……あっ!」


 そこでフィオナが声を上げ、クレスの耳元でひそひそとささやく。


「ク、クレスさんっ。きっとメルティルさんは、ニーナさんのあの手紙のことを……!」

「……っ!」


 それでようやくメルティルの言いたいことを理解したクレス。


「つまり……お前は、俺たちがニーナから招待を受けることをわかっていて……?」

「認めよう」


 即答された魔王のその言葉は、しかしクレスの言葉に対するものではなかった。


「どうやら貴様との因縁は未だに途切れていないらしい。これで何度目だ。二度と顔を見たくもないヤツとなぜこうも顔を合わせる? これが運命というふざけたものか? 今にも貴様の顔面を吹き飛ばしてやりたくなるが――今回はお前が先だ」

「ぴゃっ!?」


 ドラゴンに睨まれたスライム。魔王メルティルのそれだけで人を殺せそうな視線がウサ耳をピーンと立てたままのニーナにぐさぐさと刺さる。ニーナは全身にダラダラと大量の汗をかきながら、その顔はしかし青ざめていた。


「お前は昔から言うことを聞かないヤツだったが、今回もずいぶん派手にやったものだな。妾の目を欺いてのパーティーは楽しかったか? 妾も賭け事は嫌いではない。是非参加したかったものだ」

「ふにゃ、にゃ、にゃ……!」

「ほう。力が尽きていようとさすがの“強運”だ。この手で直接触れてやれれば、存分に頭を撫でてやるところだったがな」

「ふにゃあぁぁあぁぁあぁ~……!」


 押し迫る顔面の圧力だけでうろたえ、震えながらその場にへたり込んでしまうニーナ。ウサ耳を押さえながら出た「ごめんにゃさいぃぃぃ!」の言葉で、メルティルは「ふん」と彼女から視線を外した。


 そして次に向いたのは、クレス。


「相も変わらず腹立たしい顔をしている。腸が煮えくりかえり、今にも全員消し去ってやりたくなる」

「――っ!?」


 メルティルが左手を振る。

 すると【シャットダウン】された停止空間の中で動けなくなっていたモノクロの招待客たちが闇の切れ目に飲まれていき、この場から全員が消え去った。


 クレスが目を見張る。


「魔王メルティル! 彼らに何をっ!」

「邪魔なゴミを始末しただけだ」

「ゴミ、だと? 貴様、やはり……!」

「やはり、なんだ? 貴様と仲間も同様に捨ててやろうか。少しは静かになる」

「そうはさせない……! たとえ敵わずとも、仲間を守るためなら俺は――!」


 剣を手にするクレスの瞳に光が宿る。

 その輝きを見た魔王は、少しばかり驚いたように目を大きくした。

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