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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十二章 花婿の決着編

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本妻と今カノ(?)

 クレスの表情は自然と穏やかになる。

 もう、彼女と戦う必要はないだろう。


「安心していいよ。ニーナはもう、ただの可愛いバニーガールですから」

「そ、そうか。ところでその、手を……」

「ヤです」

「え?」

「え? じゃないですよ。なんですか? 嫌がる女の胸をムリヤリに触っておいて、用が済んだらポイですか? それは冷たすぎじゃない? 男としてどうなの?」

「え、い、言い方が、あの、し、しかし」

「しかしもナニもありませーん。勇者として、男として責任とってくださーい」

「責任……!? そ、そう言われても、何を……」


 うろたえるクレスを、ジト~っと下からねめつけるように見つめてくるニーナ。


 やがて、彼女はにぱっと笑顔を浮かべて。


「ニーナの恋人(カレシ)になってください!」


 と、大きな声でそう言った。


「……は?」


『えっ!?』


 クレスと同時に、話を聞いていたフィオナたちも揃ってそんな声を上げる。

 ニーナはようやくクレスの手を離したと思ったら、今度はクレスの腕にぎゅっと抱きついてきた。


「あたし決めてたのっ! もしもいつかニーナに触れる人が現れたら、その運命の人をゼッタイ離さないって。まさに今がそのときじゃん? 勇者さん、ニーナが今日からカノジョだよ♥ こ~んなカワイすぎる女の子がカノジョだなんて、やっぱり世界一運がイイねっ!」

「い、いや、待ってくれ! な、なぜ俺が君の恋人に?」

「ニーナに触れるのはアナタだけだもん。当然じゃん。まさかあたしにカレシが出来るなんてユメにも思わなかったな~。ねぇねぇデートはどこいこっか? 最後はいっぱいイチャラブしよーね♪」


 そう断言してクレスにすりすりと身を寄せるニーナ。クレスは言葉もなく呆然と固まり、レナやエステルも唖然。エリシアは口元を抑えて笑っていた。


 すっくと起き上がり、そこへ突っ込む男が一人。


「へっへっへ……バニーちゃんよぉ、そんなに人肌恋しけりゃオレ様が遊んでやるよ! 片手しか使えそうにねぇがそれで十分だ! この怪我の分も、その生意気な乳を思いっきり揉ませてもらうぜぇえええええええ!」


 ダッシュしてニーナに飛びつこうとするヴァーン。

 だが、


「ぶえぇっ!?」


 再び雷撃のような見えざる壁に阻まれ、そのまま地面にべしゃりとつぶれる。


「あはーっ! エッチなおにーさんはやっぱり運が良くないかなぁ? 残念ですけど、アナタはニーナの運命の人じゃないですね。てゆーかそのケガヤバイし休んでたほがいいですよ? ね~クレス?」

「えっ」


 いきなり呼び捨てにされてうろたえるクレス。

 それから彼はゾクッとしたモノを感じて背後を――フィオナの方を見やった。


「……ふふ。ふふふ」


 フィオナは、まったく笑っていない顔で笑っていた。

 その表情を見上げたレナがびくっとして離れ、つぶやく。


「クレス。はやくあやまって。浮気はダメだよ。サイテーだよ。刺されてもしかたないってアイネたちがいってた」

「浮気!? い、いやそんな気は微塵もない! フィオナ違うんだ! き、君! 離れてくれ!」

「君なんて冷たい~。恋人同士なんだから、ニーナってちゃんと呼んでよー」

「恋人同士になった覚えはないが!?」

「運命ってさ、誰が決めることでもないでしょ? これもそういうこと! さっさと認めちゃった方がいいよ~? ほらほらぁ、恋人なんだから、もっといっぱい触っていいんだよっ? うぅん、もう触っていいのはアナタだけ……。いつでもどこでも、ニーナを好きにしていいんだよ……?」


 密着し、体を押しつけながら、蠱惑的な眼差しで見つめてくるニーナ。

 しかしクレスはそんな誘いに応じる気はなく、そもそもそんな状況ではなく、背後から差し迫る恐ろしい気配にむしろ怯えてすらいた。


「ち、ち、違うんだフィオナ! 俺にそんな気はまったく!」

「ふふ、大丈夫ですよクレスさん。お嫁さんですから、ちゃあんとわかってます。さぁ、早くわたしたちのお家に帰りましょう♪」


 優しい笑みのフィオナが、手を伸ばしながらゆっくりとこちらに近づいてくる。クレスはそんな言葉にホッと胸を撫でおろし、フィオナへと手を伸ばす。

 二人の手が繋がれようとしたところで――密着したままのいニーナがクレスの腕を強引に引く。


「うわぁ元カノが来ちゃった。ハイハイ残念でしたクレスはあたしのカレシなんでーす。あっちいってくださーい」


 またクレスを呼び捨てにしながら片手でサッサッとフィオナを追い返そうとするニーナに、フィオナが笑顔を固めたまま答える。


「あのう、さ、さっきから何を言っているんですか? クレスさんは、わたしと結婚しているんです。わたしの、わ、わたしだけの旦那様なんですよ?」

「なにそれ独占欲アピールヤバくない? でもニーナの“運”命はゼッタイだから。あなたはもうお役御免ってカンジじゃん?」

「い、意味がわかりません。とにかくクレスさんを離してください! クレスさんはわたしとレナちゃんとお家に戻って一緒に暮らすんです!」

「うわーさらに束縛系ってカンジ? ねーねークレスやっぱりこの子やめておいたほうがいいよ。あたしと一緒にいたほうが毎日楽しいと思うなぁ。それにこの子、大人しそうな顔して中身ヤバめじゃん? ほら、あたしも見てたけどさぁ、一晩中あれだけ楽しんだ後なのにこの子朝からクレスの――」

「きゃあああああ~~~~~~~!?」


 思わず飛び出したフィオナの大悲鳴がニーナの声を遮り、ヴァーンたちが耳を塞ぐ。


「な、ななな! 急に! な、な、なにバラそうとしてるんですかぁっ!」

「クレスってこの子を甘やかしちゃってるんでしょ? ダメだよそれじゃ。あたしの方がずっと上手くしてあげられると思うし、きっとすぅっごく満足出来るよ♪ なんならここで試しちゃおっか?」

「わあああああんダメに決まってます決まってます! いきなり何しようとしてるんですか! いいからさっさと離れてください! ていうかわたしの方が上手いですっ!」

「へぇ~自信あるんだ? でもその胸垂れそうじゃん」

「垂れません! クレスさんも一番好きって言ってくれます!!」

「でもあたしの方がハリとかツヤありそうだし気持ちいいと思うケド」

「わたしの方がハリツヤあります!!」

「ふ~んじゃあ比べてみる? 魔族の体なめてもらっちゃ困るんだよね!」

「望むところです絶対負けません人間の体をなめてもらっちゃ困ります!」

「ちょ、や、やめてくれ二人とも。なんでこんなことになるんだ!? まずは冷静になっ……だから落ち着いてくれ! 脱がないでくれ頼む!!」

「やっちゃえフィオナママ」

「レナも止めてくれないか!?」


 目の前で今にも始まりそうな大惨事を予感して必死に二人をなだめるクレス。服に手を掛けた二人を凝視するヴァーンが「うほー!」と鼻の下を伸ばし、エステルが彼の折れた手をぶっ叩いてヴァーンの悲鳴が響き渡った。

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