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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十二章 花婿の決着編

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はじめての温もり

 フィオナが杖を前に掲げる。


「『――逃げるな、(プディ・)前を向け、魂を燃やせ(ルファラ・エクレーン)』。今こそお嫁さんパワー全開でいきますっ!」


 フィオナの頭部にクインフォの耳が顕現し、溢れ出る魔力が身体を包み込んで麗しく可憐にドレスアップする。《結魂式魔術メル・ブライド》によって爆発的に高まった魔力は星の魔力さえ操る。


「フィオナママ!」

「うん! レナちゃんの魔力も一緒に、ね!」


 フィオナにぎゅっと寄り添うレナ。

 わずかな間収まっていたニーナの攻撃がさらに苛烈さを増す。

 フィオナはすべての魔力をその杖の切っ先に込めた。


「【星誕スター・ノヴァ】!」


 強力な光の爆発。

 星の始まりを告げる浄化の力。

 それはクレスたちを優しく包み込み守りながらも、ニーナのダイスやカード、剣、コイン、そしてバニーガールたちだけを退け浄化する。かつて双子の妹ソフィアと共に放ったときほどの威力はなかったが、それでも現状を“リセット”するには十分すぎるほどの威力を発揮した。


「おほーフィオナちゃんなんだよそれスゲェな!! ヘヘヘ燃えてきたぜオレも負けてられねぇ! オラエステル足止めしとけ!」

「むかつく命令しないで。もうやっているわ」


 ニーナがすぐさまダイスで呼び寄せた新たなバニーガールたちは、しかしエステルの氷結の魔力によって凍てつき、その脚を大地に拘束される。「しゃあっ!」と気合いを入れたヴァーンの右手が黒き槍と同化し、肥大化して黒い炎に燃えさかる。魔竜の鼓動が猛るように力強い炎の圧を起こして空気を震わす。


「チッ踏ん張りが利かねぇ! 飛ばせアイン!!」

「!? ――承知した!」


 すぐにヴァーンの意図を察知したアインは、己の剣を両手で構え直す。


「エイル、自分たちはこのときのために来た! 守るべき未来のため――希望の勇者アイン、ここですべてを出し切る!」


 彼の声に応えるように、魔剣が強烈な風を巻き起こす。


「吹き荒べ! エイリング・ヴェルシオオオオオオオオン!」


 うねる竜巻は襲い来るダイスやカード、剣、バニーガールたちをすべて吹き飛ばし、そして渦の中心でヴァーンの背中を押す。


「行くぜデカ乳バニー! 今度は――全裸になっても文句ねぇよなァアアアアアアア!!」


 アインの風に寄って強力な推進力を得たヴァーンは、巨大な砲台から放たれた炎弾のようになって突撃。その凄まじい螺旋の突進力に道中のすべてが砕け、燃えつき、弾け飛び、大地さえもえぐり取る。


「うおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 ニーナが大きく目を見張る。


 すべてを貫く一点突破の力。

 ついにヴァーンの槍が彼女の眼前まで迫ったとき――


「――ぐおっ!!」


 吹き飛ばされたのは、血を吐くヴァーンの方だった。

 自身の衝撃をそのまま返されたようなダメージは今までの比ではなく、ヴァーンの槍は手を離れ、その腕は完全に折れていた。


 後方に弾き飛ばされたヴァーンは――血を流しながらニッと笑う。



「出番だぜぇ勇者サマ!!」



 ヴァーンの影で、金色の髪が揺れる。



 背後から飛び出してきたのは――クレスだった。



 突然現れた存在に、ニーナがハッと動きを止める。


「――ラビちゃん。悪いユメから醒めるときだよ」


 地上に足をついたエリシアがそうつぶやく。


 ほんの一瞬の隙。

 すべてを決めた刹那の時間。


 ニーナが、歯を食いしばって叫ぶ。


「もう――もういいんです! これ以上、期待(ユメ)を持たせないでっ!!」


「待っていていい! 俺が必ずそこにいくッ!」


 手を伸ばすクレス。

 風に巻かれるニーナの涙が見えた次の瞬間。


 クレスの手は――確かにニーナの胸元に触れていた。



「…………えっ?」



 彼女がそんな小さな声を漏らしたとき。


 ――パリィィィィィィィン!!


 と、ガラスが割れるような激しい音と共に空想の世界が砕け散った。


 ニブルヘイムの街も、バニーガールたちも、大量のコインやダイスも。すべての光景が、割れた鏡に映った幻のごときものとしてパラパラと剥がれ落ちていく。


 砕けた世界の向こうから、淡い月の光が差し込む。


 エリシアがホッとした顔で剣をしまい、軽く手を払う。


「……あれって、わたしたちの世界の……」

「……ほんものの、お月さま?」


 フィオナとレナがそうつぶやきながら顔を合わせ、それから手を取り合って喜び合った。


「だらっしゃああああああああ! 大勝利じゃオラァッ!」


 ヴァーンが大の字に寝っ転がり、フィオナとレナが驚きの声を上げる。それから血だらけの彼を見てフィオナが大慌てで介抱に向かい、エステルも少し長いため息をついてヴァーンの元へ駆けた。そんな光景を見守りながら、アインもまた剣をしまった。


 背後で仲間たちが安堵する中、クレスの手は、まだニーナの胸元に触れたままだった。


 それは――彼女がクレスの手に自身の手を重ねていたから。


「…………ニーナの結界が、壊れちゃった……」

「……ああ」

「こんなの……はじめて……」

「……そうか」

「…………」

「…………」


 二人の間に、何だか妙な空気が流れていた。


「…………す、すまないが、そろそろ、手を……」


 相手が魔族の敵だったとはいえ、いつまでも少女の身体に触れているわけにはいかない。

 クレスがそう言って手を離そうとしても、ニーナが強くその手を掴んで離さない。


 戸惑うクレスの手の上に、雫が落ちた。


「……本当に」

「……む」

「本当に、運が良すぎ。あたしに触った人なんてはじめて」


 ニーナが顔を上げる。


「知らなかったなぁ。こんなに、あったかいんですね」


 そう言って、彼女は大粒の涙をこぼしながら微笑んだ。


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