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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十二章 花婿の決着編

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アヤシイ研究所

 外に出たアリスは、ある場所を皆に指で示した。

 突き出た煙突からもくもくと煙が立ち上っている建築物。そして近くには妙に細長い謎のオブジェらしきものが立っている。あまりにもわかりやすい目印だから迷う心配もないだろう。

 あれが『研究所』であり、そこにラビ族に詳しい人物がいるらしい。これくらいのお手伝いに依頼料は必要ないからと、また何かあれば相談に来てほしいと言ったアリスにお礼を告げ、クレスたちはその研究所へと向かった。



 ――そうして辿り着いた、妖しげな研究所。

 白い建物の周囲には、何やら見慣れない円柱型の小型機械らが何台もうろうろと自走しており、クレスたちに気付くとその一体が静かにこちらへ近づいてきた。


『……ピピピ。ガイトウシャナシ。キンキュウアラートハッシン。ピピピ……』


 いきなり喋り出したばかりか、目元らしき部分がピカピカと光ったことで一同は驚愕。レナが特にびくっと怖がってクレスの後ろに隠れながら様子を伺う。魔力で稼働しているゴーレムのような存在なのかと、フィオナやエステルが興味を示した。


 少しすると、研究所の正面入り口の扉が開き――中から一人の人物が現れた。


 自走する機械の足場に乗っているその人物は、研究者らしく白衣を纏っているが、その下がぐるぐる巻きの包帯姿だったことにクレスたちは驚く。アリスと同じくらいの背丈で、胸元の包帯がほんのり膨らんでいたことから女性であると思われた。


 クレスたちの前で機械から降りた包帯姿の少女が、ぼーっとした顔で口を開く。


「あなたたち、この世界の人間じゃないのね?」


 その第一声に全員が驚く。

 少女は可愛らしい声色でささやく。


「美味しそうな迷い羊さんたちをみーんな調べ尽くしたいけれど、まだ近くにコワーイ魔女がいるから我慢しておくの。それで何の用なの? 早く研究に戻りたいから手短にお願いしたいの」


 クレスたちがこの世界の人間ではないと理解しながらも、特に驚くこともなく淡々と話を進める包帯少女。


 エリシアが一歩踏み出す。


「話が早くて助かるよ。ボクたち、ニーナっていうラビ族の女の子を捜してるんだけど、居場所を知らないかな?」


 頭に手を当てて、ウサ耳っぽくぴょこぴょこ揺らして見せるエリシア。

 白衣の少女は少しぼーっとした顔で思案する。


「……ああ、チュリムの孫娘。ちょっと待ってるの」


 それだけ言うと、少女はまた機械に乗って研究所の中へ戻っていってしまった。

 どうやらニーナのことは知っているらしいが、何のために戻ったのか。クレスたちが顔を見合わせて外で待っていると、少しして包帯少女が戻ってくる。

 彼女は機械に乗ったままクレスたちの前までやってくると、エリシアに一本の薬らしき瓶を手渡した。


 エリシアがキョトンとしながら尋ねる。


「これは?」

「あらゆる事柄の因果関係を意識的に集約して結果的に確率を操作しうる……なんて言っても凡人には理解不能なの。簡単に言えば『運を上げる薬』なの」

『!?』


 あっさりと告げられた言葉に、クレスたちは言葉もなく仰天する。エリシアだけが「おー」と感心していた。


 さらに包帯少女は遠く――切り立つ崖の方を指さす。


「チュリムの孫娘ならいつもあそこにいることが多かったの。さっさと行くといいの。じゃあねなの」


 それだけ言ってさっさと戻ろうとする包帯少女に、クレスとフィオナが慌てて声を掛ける。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「まま待ってください! あの、ど、どうしてっ!」


 包帯少女はくるりと振り返り、なんだか面倒くさそうな顔をする。


「まだ何か用なの? こう見えてフレは忙しい身なの。やっと手に入った聖血で試したいことが山ほどあるの」

「そ、それはすまない。しかしその、な、なぜ運を上げる薬などを?」


 クレスの疑問に、少女はかくんと首を傾げる。


「なぜ? あなたたちが欲しいのはそれでしょ? もういない(・・・・・)子を捜す(・・・・)ということは、そういうことなの」

『!!』

「それは試作品だけれど、一人で全部飲めばそれくらいのことは出来るはずなの。副作用が出るかもしれないけど我慢なの」


 淡々と告げられる言葉はクレスたちにとって嬉しいものであるはずだったが、驚きがそれを上回り上手く話が飲み込めない。


 そこで唯一落ち着きを保っていたエリシアが尋ねる。


「ありがたくいただくね。ところで、どうしてボクたちが欲しいものをこんなに都合良く持っていたの?」

「チュリムに依頼されていたの」

「ニーナのお祖母ちゃんだっけ?」

「そう。チュリムは祖母とすら触れ合えない“運”が強すぎる孫娘を哀れんでいたの。だからそれをどうにか出来る薬を作ってあげたの」

「なるほどね。でも、そんな大切なものをボクたちが貰っていいのかな」

そのために作ったの(・・・・・・・・・)。もう終わったフレたちはチュリムの孫娘に会うことは出来ないの」

「終わったっていうのは?」

「この世界は滅びたの。フレはその薬を完成させることが出来なかったの。けれどまた作れたということは、誰かが世界を再構成したということなの。チュリム以外にそれが出来るのは孫娘しかいないの」


 エリシアと白衣の少女のやりとりは端的で、しかしクレスたちには少々理解が難しかった。エリシアも完全に理解出来ているわけではなかったようだが、ある程度は納得したようにうなずく。


「君は、ずいぶんと頭が良い人みたいだね」

「ガチの天才なの」

「きっと生きていた頃も有名人だったんだろうなぁ」

「興味ないの。自由なこっちの世界で研究だけしてられる方が嬉しいの。死んでよかったの」

「あははは! じゃあついでにもう一つだけ。どうしてボクたちがこの世界の人間じゃないって?」

「見ればわかるの」


 そう言って、包帯少女はフィオナを――その腹部の辺りを指さした。

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