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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十二章 花婿の決着編

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パーティールーム

 扉をくぐった二人は呆然とした。

 そこに広がっていたのが、まったく予想外の光景だったからだ。

 とても広い会場内に、ズラリと並ぶスロットマシーン。大きなルーレット台に、カードゲームやダイスゲームのためのテーブルたち。オモチャの馬が走る巨大なレースゲームまで存在する。奥の方には大きなステージやレストランスペース、ソファのある休憩所なども用意されており、とかく華やかなイメージの場所だった。


「……これは……」

「……カジノ、でしょうか……」


 光と音。いろんな刺激が二人を歓迎するかのように待っていた。

 そんな二人の元へ、セクシーなバニーガール衣装を着た小柄な少女が近寄る。


「親愛なるお客様、ようこそいらっしゃいました! こちら、ウェルカムドリンクです。お好きなものをどうぞっ」


 まだ幼さの残る声で、頭上の小さなウサ耳が可愛らしく揺れる。少女がトレーから差し出したグラスを受け取った二人は、お互いに顔を見合わせる。


 少女はさらに懐から何やらケースを取り出し、その中身を二人の手に乗せる。


「これは……コインか」

「見たことのない硬貨、ですね……」


 顔を近づける二人。金色に光る硬貨には、中心にデフォルメされたウサギのモチーフが施されていた。

 ウサ耳の少女が言う。


「こちら、当パーティー専用の『ラビコイン』となります! 親愛なるお客様お一人につき五枚を進呈させていただきます。ゴールドラビコインは、一枚がおよそ金貨100枚相当の価値を持ちます」

「金貨……!?」

「ひゃくまい!?」


 仰天する二人。そんなものをほいと手渡されてしまっては、大いに困惑するしかない。

 クレスはまだ要領を得ないままに話しかける。


「つ、つまり、俺たちにこのコインを使って、ここで遊べと……?」


 ウサ耳の少女は、特に肯定も否定もせずに返答した。


「すべては親愛なるお客様のご自由でございます! あちらのカウンターではより価値の低いシルバーラビコイン100枚に交換することが可能ですので、レートの低いゲームを楽しむ際にお使いください。また、ゲーム終了後はカウンターで多くの景品と交換することも出来ます。たとえば、私はシルバーコイン50枚となります!」

「な……!」

「あ、あなたも交換対象なんですかっ!?」

「はい! 私だけではなく、この会場のすべてのディーラー、スタッフが交換対象になっております! 気に入った者がおりましたら、どうぞご検討ください! それではパーティーの前座として、しばし愉快なゲームをお楽しみください!」


 元気にハキハキと喋るバニーガールの少女はぺこりと頭を下げ、去っていく。


「……まさか、こんな歓迎を受けるとは……」

「さすがに……予想していませんでしたね……」


 ドリンクとコインを持ったまま、改めて辺りを見回してみるクレスとフィオナ。

 よく見れば、先ほどのバニーガール以外にも同じような衣装を着た同じような背丈のバニーガールたちが多く存在する。中には、カジノテーブルで客を相手にディーラーとして働いている者もいた。年齢はフィオナと同じか、それ以下に見える子が多い。そしてどことなく、普通の人間とは異なる気配のようなものが感じられた。


 そこで二人は気付く。


「フィオナ」

「は、はいっ。わたしたち以外にも、お客さんが……!」


 うなずき合う二人。

 ディーラー相手にカードゲームを行う者。ルーレットでコインを賭ける者。スロット台に銀のコインを大量投入している者。こちらは間違いなく自分たちと同じ人であろうという者たちが存在していた。


 そして――



「しゃあああああああ! ジャンクポットきたぜオラァァァァァアアアアッ!」



 聞き覚えのある、男の声。


『……!!』


 クレスとフィオナは顔を合わせた後、同時にそちらを向く。

 高レートのスロット台。

 その一台の前に、見覚えのある赤い髪の男が座っている。


「まさか……!?」

「ヴァ、ヴァーンさんっ!?」


 慌ててそちらへ駆け寄る二人。

 台の前でガッツポーズをしていた男は、赤い髪をオールバックにまとめた礼服姿であり、こちらに気付くこともなくなんとも有頂天な様子であった。


「オイオイオイ! いいのかいいのかこんなに勝っちまってよぉ! このままじゃあオレ様がここのバニーガール共全員貰っちまうぜぇ? もっとボインなバニーもいるんだろうなぁ? まったく最高だなここはよぉ! 笑いが止まらんぶわっはっはっは!」


 ご機嫌な男は、ピカピカ光るスロット台を前に高笑いを続けた。

 クレスが先に声を掛ける。


「間違いない……ヴァーン! 何故お前がここに!?」

「や、やっぱりヴァーンさんですよねっ! どうしてヴァーンさんまでっ!?」


 すると、ようやく傍らの二人に気付いたらしい赤毛の男――ヴァーンは、「んあ?」と訝しげに振り向いてこちらを見た。


「ああ? なんだお前ら、他の招待客か?」


 その反応に、二人は「え?」と声を重ねた。


「オラオラお前らも遊んどけよ! オレ様のオススメはゴールドコインでの超高レートバトルだ! こいつで勝つと頭からヤベーもんがドバドバ出てくんだぜ! あぁ、それとももう負けちまったのかぁ? へへ、だったら一枚くらい恵んでやろうか? ま、その場合はそっちのカワイコちゃんからちょーっとした礼くらいは貰うがなぁ!」


 ニヤニヤした顔で手をわきわきしつつ、ゲスめな提案をしてくるヴァーン。

 フィオナの前にクレスが立ち、対応する。


「何を言ってるんだヴァーン。まず落ち着け。なぜお前がここにいるんだ?」

「ああ~? うるせぇな、オレ様が勝ちまくってることに嫉妬してんのか? 女の前で格好がつかねぇもんなぁ。それに比べてオレ様はよぉ、やっぱ持ってる男ってことだよなぁ! まったく最高のカジノだぜぇブワッハッハッハ!」


 また豪快に笑い出すヴァーン。スロット台からジャラジャラ飛び出してくるゴールドコインが山盛りになっており、テンションが上がるのもうなずけるような状況になっていた。


 二人は一歩、身を引く。ヴァーンはもう二人に興味を失ったようにスロットに熱中していた。


「……ヴァーン、では、ないのか……?」

「た、確かにヴァーンさんだと思いますが……わたしたちに、気付いて、いないのでしょうか……?」


 戸惑う二人。いくらカジノに夢中になっているからといって、クレスとフィオナの顔を見てあの反応はおかしい。そもそもこんな場所で遭遇したのなら、もう少し違うリアクションがあるはずだ。先ほどは、まるで二人のことを知らないかのような反応だった。

 もしくは――良い夢でも(・・・・・)見ているかのような(・・・・・・・・・)


 そこでクレスがハッと気付く。


 見下ろすのは、腰に携えた、一本の剣。


「? ……クレスさん?」


 困惑するフィオナの隣で、クレスは鞘ごと剣を取り、構える。

 そして、ゆっくりと振りかぶった。

 フィオナが目をパチパチさせる。


「ク、クレスさん……えっ? ひょ、ひょっとして!」

「すまない……だが、大切な友のためだ……!」

「オイオイまた当たっちまったぜ! ここはオレ様のための世界だなぁ! ぐわっはっはっはっは!」


 ヴァーンが気持ちよさそうな大声と共に頭上を見上げる。


「――んあ?」


 彼が気付いた刹那に、クレスは躊躇なくその重たい塊を振り下ろしていた。


「目覚めろ、ヴァーンッ!!」


 ズガァァァーン、と凄まじい音が響く。

 さらに続けて、カジノ内には男の凄まじい悲鳴が響き渡った――。

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