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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十二章 花婿の決着編

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光の国Ⅱ

 すると彼は、大きな窓に近づいて手を差し向けた。


 クレスとフィオナは、導かれるままそちらに向かう。

 そして、大きく目を見開いた。


「これは……」

「わぁ……!」


 窓に張り付き、思わず感嘆の声を漏らす二人。

 どうやらここは塔の最上部のようで、曲面のガラス窓からは街の全貌を目の当たりにすることが出来た。

 街中が煌びやかな『魔力灯』の光に包まれ、張り巡らされた水路もよくわかる。それらはすべてが規則正しく造られており、まるで絵画のようになっていた。


 そして、街の周囲に広がるのは一面の海。

 よく見れば、この円形の街は海に囲まれているようで、水路もすべて海と繋がっているようであった。その美しさは、水と国とも呼べそうなほどである。


 横に控えるカボチャ男が話す。


『ここは光の国。お客様に、心より寛いでいただくための国。この街のすべてを、お二方は自由に楽しんでいただけます……』

「すべてを……」

「じ、自由に、ですか?」

『はい。お食事も、お買い物も、ご遊戯も、この街のあらゆるものがお二人の物であり、自由でございます。もちろん、代金は一切必要ございません。これよりご案内いたします別荘も、既にお二方のものでございます。すべて、お好きなようにお使いください』


 街全体を示すように手を広げるカボチャ男。


 二人は、あまりの展開にポカンとしていた。

 街で見たすべてが、自分たちの物。

 そんなことを言われても実感はなく、やはり夢のような場所に思えてしまう。


『それでは、お二方のコテージへご案内致します……』


 カボチャ男が動きだし、再び最初の部屋の扉を開く。クレスとフィオナも、ただ彼に従うしかなかった。



 ――謎の動く部屋で下階層まで降りた二人は、そのまま外に出てカボチャ男の後を続き、街を歩く。道中で、勧められたあるレストランに寄ってみた。

 最初に驚いたのは、店員が“影”だったことである。

 顔も何もない、ただの影。闇そのものが人の形をしている。

 喋らない……または喋ることの出来ない店員だったが、こちらが注文をすればスムーズに受け付けてくれた。メニューは豊富で、肉も魚も野菜もすべてが高級品であり、二人の舌と腹を満足させた。フルーツのジュースやデザートも美味で、これならばほとんどの人間は満足するはずの店である。そして驚くことに、やはり代金は必要なかった。フィオナが持ってきていたお金を支払おうとしたが、影の店員は何のリアクションもなくじっとしていただけであった。


 そんな店を出た二人は、カボチャ男の案内で海の方へと向かう。

 やがてたどり着いたのは、海のすぐ近くに建つ一軒のコテージ。温かみのある木造のモノであり、なかなかに豪奢な別荘である。中を見れば、室内の造りもしっかりしており、テーブルからソファ、ベッドまですべて備え付けだ。庭にはプライベートプールまであり、そこからは海が間近で眺められる。聖都で泊まったあの温泉宿泊施設のスイートほどの高級感はないが、少なくとも、二人で泊まるには十分すぎるところだ。


 家の外で待っていたカボチャ男が言う。


『ご必要であれば、お好きな召使いを用意することも出来ますが、いかがなさいますか? 家事に夜伽に、ご自由にお使いいただけます』

「め、召使い? いや、それは……遠慮しておこうか……?」

「そ、そうですね。あの、わたしたちには必要ありません」

『かしこまりました。それでは、三日後にお迎えに上がります。それまで……どうぞ、ごゆっくりと……』


 カボチャ男は頭を下げると、スススッと後ろに移動して闇に同化していくように消える。すぐにその気配もなくなった。


 二人ぼっちになった二人は、呆然としたまま話す。


「……クレスさん。これって、どういうことなんでしょう……?」

「……わからない。だが、今のところ特に危険はなさそうだが……」

「そう、ですよね……。ただ、歓迎されているだけのような……」

「ああ……おかしなところではあるが、まるでリゾート地のようだ……」

「はい……」


 海の方を眺める。

 ざざん……と静かな波音だけが聞こえてきた。


 フィオナがつぶやく。


「……ひょっとして、本当に、ただのパーティーの招待なんでしょうか……?」


 一拍を置いて、クレスが答える。


「どう……だろうか。ただ、ひとまずは三日後を待つしかないか……」

「そ、そうですね…………あ、それじゃあ晩ご飯でも…………あ、た、食べたばっかりでしたね……」

「う、うん……」


 ざざん……ざざん……。

 静かで穏やかな空気に、二人はいつしかリラックスしていた。


「……あのう、クレスさん……」

「……うん?」

「もし……本当に、これが、ただのパーティーの招待なら……」


 フィオナが、クレスの手を取る。


「三日の間は……その、ふ、二人っきりで……デート、みたい、ですね……」

「……デート」


 そう言われて、クレスは少々呆然とした後にうなずいた。


「……確かに、そう、だね」

「ど、どうなっているのかよくわからないですけど……その、い、いっそのこと楽しんでみるというのも、あり、でしょうか?」

「楽しむ……」


 手を繋いだまま、二人は顔を見合わせる。

 それから、クレスがその表情からわずかに緊張を解いた。


「――そうだな。今のところ、俺たちに何が出来るわけでもない。あのカボチャの男や創造主とやらの敵意もない。ここは、素直に招待を受け入れておくべきか」

「クレスさん……それじゃあ……」

「うん。警戒はしておくべきだろうが……ひとまずパーティーが始まるまで三日間は、二人で『光祭』前のデートを楽しんでおくとしようか」

「……は、はいっ!」


 喜びに表情を明るくするフィオナ。

 それから二人は、コテージに戻ってゆっくりと話をした。キッチンの大型冷晶庫には食材や飲み物があれこれと詰め込まれ、レストランにいかなくとも食事には困らない。また、コテージ内には二人で浸かるのも楽な大型の温浴設備、露天風呂まで整っており、まさに至れり尽くせりであった。クローゼットには男女それぞれの礼装やドレス、水着までが用意されていて、衣服にさえ気を遣う必要がない。二人はさっそく水着を着て、夜のプライベートプールで泳いだりもしてみた。ピンク色の『魔力灯』や一面の星明かりがロマンティックなムードを演出する。


 誰の邪魔も入ることのない、二人だけの空間。

 まるで、この世界に二人しかいないのではと思えてしまうような夜。


 あまりに贅沢な時間は――二人の警戒心をたやすく捨てさせた。


 

 その晩、二人は大きなベッドの中で手を繋ぎ合っていた。


「……フィオナ」

「クレスさん……」


 他に何を考える必要もなく、ただ、お互いのことだけを想い合っていられる至福の時。

 二人は、朝までずっとそうしていた――。

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