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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十二章 花婿の決着編

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光の国


◇◆◇◆◇◆◇



 クレスとフィオナが次に目を開けたとき、そこは夜の世界だった。


「……ここは一体……」

「……どこ、でしょうか……?」


 広がるのは、知らない街並み。たくさんの色彩豊かな『魔力灯』で飾られた眩しい街は、たとえ空が暗くとも鮮やかに街の姿を二人に教えてくれた。

 そして二人の目に最も大きく映ったのは、高くそびえる漆黒の塔。

 針のように天まで伸びるそれは突出して印象深い建造物だった。人の手によるものとは思えない見事な完成度である。そんな塔を中心にして、白壁の美しい建物が円形に規則正しく並ぶ。それらの建物の窓からは、賑やかそうな灯りがこぼれていた。


 ゆっくりと、二人は歩み出す。


 ――そんな二人の前に、ゆらゆらと赤く光る何かがやってきた。


 クレスがフィオナを守るように前に出てつぶやく。


「あれは……火の玉か? いや……」

「えっと…………カ、カボチャ……?」


 フィオナの言うとおり、『カボチャ』である。


 ゆらゆらと飛んできたそれは二人の前で止まり、くるっと回転する。

 そのカボチャには目と口のような穴が開いており、その奥から赤い光が発せられていた。まるで顔のようなカボチャの首から下に、いきなりバサッと黒いマントが現れる。マントの中は漆黒で身体は何も見えないが、手袋に包まれた手だけがカボチャ型のランタンを手にしている。そのどこか滑稽でコミカルな姿は――


「……え? ジャ、『ジャック・オ・ランタン』……?」


 そうつぶやくフィオナ。

 クレスもすぐに思い当たる。カボチャの異人と言えば、子どもでもよく知っている有名なお伽噺に登場する『死者の国』の住人――『ジャック・オ・ランタン』のそれによく似ていた。



『――クレス・アディエル様と、フィオナ・リンドブルーム・アディエル様でございますね』



 困惑する二人の前で、そのカボチャがいきなり喋った。しかも紳士的な男性のような声である。その声に思わず驚く二人だ。


 カボチャ男は恭しく頭(のように見えるカボチャ)を下げて言った。


『お待ち致しておりました。ようこそ『光の国』へ。本日はお招きに応じていただき、誠にありがとうございます。それではご案内をさせていただきます。どうぞ、こちらへ……』


 カボチャ男はふよふよと浮かんだまま移動を始める。クレスとフィオナがぼうっとしてしばし動けずにいると、カボチャ男は止まって一度こちらを振り返った。二人はハッとして歩き出し、カボチャ男の後ろにつく。するとカボチャ男はまたゆっくり動き出す。


 クレスが背後から尋ねる。


「君が、俺たちを招待した人物なのか?」


 その問いに、カボチャ男は背を向けたまま答える。


『私は案内役を勤めます、ただの幻影にございます。創造主様はお忙しく、まだお会いにはなれません。どうかご了承くださいませ……』

「創造主……? ところで、光の国と言っていたが、この街は一体どこに……」

『幻影は答えを持ちません。どうかご了承くださいませ……』


 そう言って、ふよふよと進んでいくカボチャ男。

 クレスとフィオナは顔を見合わせる。


「……とりあえず、ついて行くしかなさそうだな」

「そ、そうですね……。本当にここは、どこ、なんでしょう……」


 二人は周囲を観察しながらカボチャ男の後を続く。


 そこは本当に不思議な街だった。

 たくさんの料理が並ぶ出店からは美味しそうな匂いが立ちこめ、高級そうな雰囲気のレストランがあちこちに点在する。美しい衣服がショーウィンドウに並ぶ服飾店に、宝石が輝きを放つジュエリー店。子ども向けのおもちゃが所狭しと置かれた店もあった。聖都や大きな都市でも、なかなかこのレベルの品揃えはないだろうと思えるほどである。


 しかし――そんな街には二人以外に人の気配がない。


 煌びやかで明るい夜の街は、寂しげなゴーストタウンのようでもあった。


「……誰もいない、か。こんな街は、見たことも聞いたこともないな。フィオナはどうだい?」

「わ、わたしもです。心当たりがあるとすれば、それは本当にお伽噺の……。でも、こんなに立派な街なら、噂くらい耳に入りそうなものですが……」


 二人は、まるでお伽噺の世界にでも迷い込んだかのような気さえしていた。

 そんな道案内の過程で、この街に多くの水路が行き渡っていることがわかった。あちこちに川があり、短い橋があり、橋下を小さな船が渡っていく。まるで水上に創られた街のようである。


 そしてその全貌がわかるのは、この後のことだった。


 二人が見上げるのは、あの高い塔。その入り口にやってきていたのだった。

 カボチャ男が重厚な扉を開く。


『お入りくださいませ……』


 クレスとフィオナは、少々緊張の面持ちで塔の門をくぐる。最後のカボチャ男も入ってきた。


「く、暗いな……」

「塔の中……ですよね? ダンジョンか何か、なんでしょうか……」


 そこは真っ暗な空間だった。

 何があるのか、どれだけ広いのかもよくわからない。唯一の光源はカボチャ男の持つランタンと、ぼんやり光る彼の顔そのものである。だが戦いにおける空間認識能力の高いクレスには、ここが手狭な“部屋”であり、剣を振れば壁に当たるであろうくらいは容易に判断が出来た。


『上へまいります……』


 カボチャ男が手元のランタンを軽く振る。

 すると部屋がカタンと揺れ、カタカタカタカタと妙な音を立てながら、振動する部屋が動き出す。クレスとフィオナは何が起こっているのかよくわからず困惑したが、どうも部屋そのものが上昇しているようである。

 ――やがて振動が収まり、カボチャ男がもう一度ランタンを振ると扉が開き、光が届く。先ほどまでその扉は外と繋がる入り口であったはずだが、外は別の空間になっていた。


 カボチャ男に促されるまま、おそるおそる部屋を出る二人。


 そこは明るく広い廊下だった。

 ぐるりと円形状になっているらしい回廊には赤い絨毯が敷き詰められ、ふかふかとした感触が足に伝わってくる。立派な石壁や観賞用の壺など、どこぞの城や宮殿のように立派な造りだ。


 そんな廊下が囲むのは、塔の中央部となる巨大な部屋。

 そこに続くであろう巨大な扉の前で、カボチャ男が言う。


『こちらが当日のパーティー会場でございます。パーティーが催されますのは、これより三日後となります。当日まで入室することはできません。それまでは、どうぞこの街でごゆるりとお過ごしになってください』

「み、三日後?」

「え? す、すぐじゃないんですね。えっと、じゃあ、それまでわたしたちは何をしていれば……」


 てっきりすぐにパーティーが始まるものだと思い込んでいた二人。いきなり見知らぬ街に来て三日待てと言われても困った。


 カボチャ男の目が、ぼんやりと赤く光る――。

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