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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十一章 神域のラブファイト編

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聖女《いもうと》からは逃げられない


◇◆◇◆◇◆◇



 フィオナとソフィアが目覚め、神域――神の世界から戻ってきたことは皆にとって喜ばしかったが、それからがまた大変だった。


“天星”したはずにも関わらず、再び現世に舞い戻ったソフィア。

 そしてそのソフィアを神の元から連れ戻したフィオナ。


 二人の神子は教会にとってさらに神格化されることとなり、城の神官や聖職女たちを強く魅了した。特にフィオナがその口づけでソフィアを呼び戻した(ということになってしまった)奇跡は、早朝からあっという間に城全体へと駆け巡り、話を聞いた城中の者が押しかけてきてしまったのだ。


 聖女と大司教が認めていることもあり、フィオナはもう一人の聖女としてこのまま城で生活を――という話にもなったのだが、フィオナはそれを慌てて断った。


「そ、それは無理ですよ! 聖女様はやっぱりソフィアちゃんで……わたしは、ほんの少し手助けが出来ただけ……。それにわたしは――クレスさんのお嫁さんとして頑張りたいので!」


 その発言を神官やシスターたちは残念がったが、ソフィアやレミウスは理解を示してくれた。フィオナの意思を尊重し、教会としてはフィオナを正式な聖女と認定することはなく、できる限りこれまで通りの生活が出来るように努めてくれるとのことだ。


 ソフィアが手を叩いて言う。


「はい! そういうことなので皆さんあきらめてくださいねー! それよりも、今まで滞っていた仕事を片付けちゃいましょう! はいかいさーん! それと、心配掛けちゃった都民の皆様にも顔を見せなきゃだし、レミウス、そっちの方はお願いね」

「承知しました。しかし、まだお戻りになられたばかり……。しばらくはゆっくりとお体を休められては……」

「かつてなく優しい! でもへーきへーきっ、すっごい元気だから! お母様や初代様みたいに頑張らないとね! というわけでフィオナちゃん、こっちはどーんと私に任せておいてっ。フィオナちゃんには、守らなきゃいけない場所が他にあるでしょ?」


 そう言って笑いかけるソフィア。

 もとよりソフィアはフィオナに聖女としての役割を押しつけたくはなかったし、二人の幸せを邪魔したくはなかった。姉と二人でこの城に――という生活にも惹かれるものがあったが、そんなワガママは胸の内にしまっておく。


「……うん! ありがとう、ソフィアちゃん」


 そんな妹の気持ちを理解したフィオナは、感謝の意を込めてソフィアの手を握る。

 それから、こう言った。


「――でも、わたしにだけは、ワガママを言っていいからね」

「え?」

「聖女とか、そういうことは関係がなくて。わたしは、ソフィアちゃんの友達で、家族で、お姉ちゃんだから。いつでも、ソフィアちゃんの助けになるからね」


 今度はフィオナの方から笑いかける。

 ソフィアはぼうっとしていたが、すぐに表情を明るくしてフィオナに抱きついた。

 そんなソフィアの頭を、フィオナが優しく撫でる。姉妹の美しい交流を、クレスやレミウスが穏やかに見守っていた。


 抱きついたまま、ソフィアが照れた様子でささやく。


「ありがとう、お姉ちゃん。それじゃあ早速だけど……今度クレスくんとわたしたちでエッチなことし――」

「それはダメ!」

「ワガママ言っていいって言ったのにぃ!」

「言ってもいいけど全部受け入れるわけじゃないのです。お姉ちゃんとしては、大切な妹が正しく成長するよう見守らないといけませんからね。それに、そういうことは……その、じっくり学んでいくことが大切なんです!」

「お姉ちゃんはじっくり学んだの?」

「えっ!」


 思わぬ返しに若干テンパる姉。目が泳いだ。


「え、えっと、そのぉ……も、もちろんそうだよ! だからね、その、クレスさんとはっ」

「そっかぁ……わかった。じゃあクレスくんとは諦めます!」

「わ、わかってくれたの? よかったぁ」


 ようやく諦めてくれたらしいソフィアにホッとするフィオナ。自分がじっくり学んだかどうかは棚に上げておくとして、ともかくクレスと姉妹であれこれする危機は避けられたようである。


 するとソフィアが言った。


「それじゃあ、お姉ちゃんと一対一で教えてもらおうかなっ」

「えっ?」


 さらに思わぬ返しに、フィオナの表情はすぐにまた固まる。

 ソフィアはニコニコ顔で肩を寄せた。


「女の子同士なら問題ないもんね。二人っきりで……手取り足取り……どうやってそういうことをするのか、フィオナちゃんが、私に、教えてね♥」

「え、えっ」

「大切な妹が正しく成長するためだもん。このワガママなら引き受けてくれるよね? お姉ちゃんから教えてもらえたら私も安心出来るよ~。んふふっ、今から勉強しておこーっと。想像したらドキドキしてきちゃうねっ」

「え、え、えっ! あの! ま、ま、待ってソフィアちゃん! だってその、わ、わたしたちどっちも女の子で、姉妹でっ、そのっ」

「大丈夫! 聖女だけに伝わる秘密の教典によると、歴代の聖女様たちも純血を守るために女の子同士で一夜を……みたいなこと書いてあるよ。だからむしろ推奨なんじゃないかなぁ?」

「ええーっ!?」

「んふふふっ、私を妹に選んだのはフィオナちゃんだからね。もう妹からは逃げられないよ? 楽しみにしてるねー♪ あっ、クレスくんももしその気になったらいつでも来てねー!」


 ルンルン気分でフィオナの腕にくっつき、クレスに向けて手を振るソフィア。フィオナはただ呆然と固まり、何とも言えない表情でぷるぷる震えていた。

 かつてレナにも性的な質問を受けたことがあるが、今回は相手が違う。まだ多くを知らないレナとは違い、ソフィアは確実にわかって言っているのである。そのいろんな意味での重みが、レナの時とはまるで異なっていた。この困難をどのように回避すべきか、フィオナは必死に考えていた。


 見守っていたクレスが真剣な顔でつぶやく。


「……大司教様。やはり、俺は“責任”をとる必要があるのでしょうか……?」


 レミウスも真剣な顔でつぶやく。


「……いえ。その必要は、ないかと……」

「そ、そうですか……」

「はい……」

「…………」

「…………」

「……今後も、フィオナのことをよろしくお願いします」

「……こちらこそ。ソフィア様をお願い致します」


 男たちはそれぞれに深々と頭を下げ、握手を交わした。


 黒髪のメイドはそんな部屋の様子に気を配りつつ、片付けた食器を静かに、少しだけ軽やかな足取りで運んでいった。

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