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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十一章 神域のラブファイト編

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フィオナ・セルフィ



『――【ロォラ・インパルス】!』



 二人が同時に放った魔力の光は膨大な熱量を発して弾け、爆発を起こす。身体に纏った魔力の防護壁で熱をカバーしても、激しい衝撃がフィオナを襲い、吹き飛ばされて尻餅をつく。

 一方で、もう一人の自分(フィオナ・セルフィ)は髪や服をたなびかせながらも、しっかりと地に足をつけて立っていた。


「はぁっ、はっ、はぁ、はぁ……」


 フィオナは相手を見上げながら荒い呼吸を整える。

“彼女”はこちらに歩み寄ってきた。


『どうして、という顔ですよね。先ほどから二人とも同じ魔術を使っているのに、どうして差が生まれるのかと』


 セルフィの言葉は、そのままフィオナの心情を表していた。

 相手は自分自身。であれば力量が同じなのは当然のこと。戦いは互角になるはずだった。


 ――にもかかわらず、すべての魔術においてフィオナは一歩及んでいなかった。


 どんな魔術を使おうと同じ魔術で返され、しかもその威力はさらに高く、圧されてしまう。そんな状況に理解が追いつかず、心が急いていた。相手は自分なのに、なぜ力の差があるのか。


 そんなフィオナに対して、セルフィは穏やかな表情で答えを口にした。


『それはきっと、わたしの方が素直だから、です』


「……え?」


 呆然とつぶやくフィオナ。

 セルフィは杖を下げると、胸の前で両手を組んだ。


『クレスさんに会いたい――』


 フィオナはさらに戸惑った。

 目の前の自分が、とても綺麗な微笑みを浮かべていたから。


 さらにセルフィはその頬を赤らめながら、恍惚とした瞳で熱っぽい吐息をもらす。


『はぁ……早く、クレスさんの胸に飛び込んで、温もりを分かち合いたい。唇を重ねて、愛を伝え合いたい。この身体すべてで、大好きなあの人を幸せにしてあげたい。二人きりの、二人だけの甘い世界で、あの人のことだけを想っていたい……。わたしは、それだけでいいんです……」

「……え? え、えっ、あの、えっ!」

『わかりやすく言うと……ふふっ。早く、クレスさんとイチャイチャしてラブラブしてエッチなことをいっぱいしたいんです♪』

「ほぇ!? え、ええええ~っ!?」


 自分とは違う、けれど間違いなく自分である存在の口からそんな嬉しそうな発言が出て、フィオナは赤面しながらより困惑した。


 しかしセルフィは違う。動揺も焦燥もなく真っ直ぐにフィオナを見ていた。


『どうして驚くんですか? これはわたしの本音。あの人を想う、心からの気持ち。愛する人とずっと触れあっていたい。繋がっていたい。わたしはいつだってそうしたいと思っている。クレスさんのことばかり考えているじゃないですか。それを表に出せばいいんです』

「そ、それはその……で、でもっ」

『それがわたし(あなた)の弱さです』


 自分自身の口からそう断言され、フィオナは言葉をなくした。

 セルフィが胸元に手を置く。


『わたしの強さは、想う強さ。クレスさんへの想いが、いつだってわたしを強くしてくれた。成長させてくれた。きっと、この想いこそがわたしという存在を作り上げてきた。あなたにも、わかるはずです』

「……想う……強さ……」

『魔術には、心理状態が密接に作用する。そしてわたしは、クレスさんのためにこの命を燃やし尽くす覚悟がある。あの人のためにすべてを捧げる決意がある。それが、わたしの愛。この想いは誰にも負けない。だからわたしはわたし自身にも負けない。あなたが弱いのは、その大切な気持ちを抑え込んでいるからです』

「……!!」


 大きく目を見開くフィオナ。その首元で、ペンダントが光を反射していた。

 セルフィがそっと目を伏せる。


『……あなたが先に生まれたことは、わかってます。わたしはあなた。けれど、まだ、あなたにはなれていない』

「え……?」

『お母さんとの思い出。おじ様やおば様への感謝。アカデミーで積み重ねた努力。先輩や後輩、出会ったたくさんの人々。あなたには、今まで紡いできたたくさんの幸せがある。あなたは両手に抱えたそのすべてを守ろうとしている……』


 その声は、少し寂しそうなものだった。


『わたしには、わたしの大切なものがよくわかる。それらをすべて守ることが出来たらいいですよね。けれど、選ばなきゃいけないときがある。なのに、迷いや葛藤、『心の壁』が本音を隠して、正しく、綺麗でいることを良しとして、本当の気持ちを奥底にしまってしまう……。きっと、それが人間なんです。それが普通のことなんです。――でも、わたしは違うんです』


 うつむいていたセルフィの顔が上がる。

 目が合った瞬間、フィオナは全身にぞくっと冷たいものを感じた。



『わたしには、この愛しかない』


 

 星宿るセルフィの瞳に、強力な魔力が集中する。

 


『クレスさんへの想いしかない』

 


杖を握る彼女の手に力がこもった。



『ここでわたしに勝てなきゃ、もう愛する人には会えない』



 全身から青白い炎オーラが噴出し、周囲を包み込む。

 セルフィは苦痛に揺れる声を漏らした。



『嫌……そんなのは嫌なの……わたしはクレスさんのために生きているの。クレスさんがわたしのすべてなのっ。だからわたしはそれ以外のすべてを捨てられる。正しくなくたっていい! どんな罪を被ってもいい! あの人のそばにいるためなら、あの人を幸せにするためなら、どんなことだって犠牲に出来る! たとえ、自分自身(わたし)を殺さなきゃいけなくてもっ!』



 フィオナがそれに気付いたときは、もう遅かった。

 セルフィの強い想いは膨大な魔力の波を起こし、解き放たれる――!



『【ヴェルメア・フェニーチェ】!』



『月の杖』から溢れ出した魔力はうねり、青白く巨大な炎の『不死鳥』となってフィオナを襲う。

 


「あうっ!? う、ううううっ…………きゃあああああああっ!!」



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