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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十一章 神域のラブファイト編

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真理の3

 白い世界は崩れ去り、フィオナとソフィアが着ていたヴェインスのドレスも、すべてが雪のように散って幻と消えた。

 変移するプリズムの空間で、フィオナがつぶやく。


「……わたしたちがあの世界でしたことは、何か、意味があったのかな?」

「ん。シャーレ様も言ってたよ。私たちのしたことは現実に影響を及ぼさないけど、現実たり得るものだって。エステルちゃんの――あの世界の皆の笑顔は、本物だったよ」


 そう言ってソフィアは微笑み、フィオナの手を握った。


「さぁ、次が最後の真理しょうぶだよ。がんばろフィオナちゃん!」

「ソフィアちゃん……うん、そうだね」


 手を取り合う二人をまぶしい光が包み込み――目を開ければ、元の神域に戻ってきていた。

 聖女ミレーニアと女神シャーレのステンドグラスから、淡い光が室内に差し込む。

 神域の神殿。あの教会の中に立っていた。


「戻ってきた……みたい。最後は確か、『愛』の真理……だよね……」


 辺りを見回すフィオナ。先ほど消えてしまった女神はまだ姿を見せず、何も説明をしてくれない。ドレスの代わりに、今はまた白いワンピース姿に戻っている。『月の杖』も復活していた。


「そういえば、前にミスティオラの花園でローザさんからも愛の試練を受けたっけ。なんだか懐かしいけど、やっぱり、あのときとは違うんだろうな。ソフィアちゃんにも、前に話したことがあったよね」


 そう言って、手を繋ぐ隣のソフィアを見やったフィオナは固まった。 


「……え?」


 自分が手を繋いでいたのは、妹ではなかった。

 無言でじっとフィオナを見つめているのは、顔のない木偶。


「――きゃっ!」


 思わず手を離したフィオナ。

 その人形には顔がないのに、間違いなく自分を見ているとフィオナは確信した。



「――真理の3」



 声のした方へバッと顔を向けるフィオナ。


「あっ……シャ、シャーレ様! あの、ソフィアちゃんはどこへ、それにこの人形は――」


 頭上に浮かぶ女神シャーレがつぶやく。


「『愛』とは絶対であり、完全なるもの」


「……え?」と戸惑うフィオナの問いは無視して、シャーレは続けて話した。


「それは、永遠に、悠久に残されるこの世で唯一の証。完全なる愛は決して揺るぐことはない。そして、己の愛を証明出来る者は己だけである。ゆえに、お前は証明しなくてはならない」

「しょう……めい……」

「人形は依り代。人の姿を写し、人の魂を遷す鏡。魂の欠片から抽出した記憶は感情を宿し、本物に成る。すなわちその人形は、お前の自己の反映(セルフィ)である」

「――っ!」


 フィオナはぞくっとした気配に素早く人形の方を振り返った。



 そこに――もう一人のフィオナ(自分)がいた。



「聖女フィオナ。お前の『愛』は、お前を超えられる?」



 それだけ告げて、女神シャーレは再び消えた。


 フィオナが、もう一人のフィオナを見つめる。

 もう一人のフィオナもまた、その星輝く瞳でフィオナをじっと見つめていた。


『……わたし、なんですね?』


 声を失うフィオナに対して、もう一人のフィオナが静かにそう尋ねた。


 フィオナは息を呑む。


 銀色の髪。

 自分を見つめる瞳。

 その声。姿。魔力の質や流れまでも、すべてが同じ。違いは何一つない。

 鏡の中の自分よりもなお完璧に、双子よりも完全に、魂さえ己と同一の存在である。それが解ったから、フィオナは何も応えられなかった。戸惑いと恐ろしさ、そしてこの存在(自分)とどう向き合うべきなのか愕然とした。

 それでも、お互いにお互いのことを正しく理解していた。


 もう一人のフィオナが、『月の杖』を両手で握りしめながら言う。


『わたしたちは、どちらも本物。どちらもが本物のフィオナ。けれど、クレスさんの元へ帰ることが出来るのは、一人だけ……』


 彼女の瞳は、揺らがない。


『なら、わたしはわたし(あなた)を倒します。そして、必ず愛する人の元へ帰る……!』


 頭部にクインフォの耳が出現し、全身の魔力が青白い炎のオーラに変貌する。

 その覚悟の早さに、フィオナは先手を取られた。

 戦わなければならない。


 フィオナ・セルフィ(もう一人の自分)と。

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