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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十一章 神域のラブファイト編

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雪の街エルンストン

 正門の前で、少女がくるりと振り返り胸元に手を添えた。


『あらためまして、ようこそエルンストンへ。私がおふたりをおまねきした『エステル・クライアット』ともうします。よろしくおねがいします!』

「やっぱり……あっ、わ、わたしはフィオナと言います。よろしくお願いします!」

「私はソフィアだよっ。よろしくね~!」

『はい! ではどうぞ、お入りください――』


 少女エステルに案内されて街へと入ったフィオナとソフィア。

 まず、二人は街の美麗さに心を奪われることになった。


「ここが……エルンストンの街……」

「私も写真でしか見たことなかったけど、こんなにキレイなんだねー!」


 そんな二人の発言に、エステルが嬉しそうにニコっと笑った。

 メインの大通りには白い雪の絨毯。そのずっと先には王族の城が鎮座する様が見えた。

 通りの左右には様々な商店と、木と石を特徴的に組み合わせて建築されている家並みが街灯に優しく照らされている。温かみがありながら洗練されたデザインをしたこの街の家々は、雪と共に生活する上で重要な強度や耐久性、断熱性能が高く造られているとエステルが教えてくれた。どうやらそういった説明もこなれたものらしい。

 また、それらの建物を繋ぐようにキラキラと光るイルミネーションが装飾されており、大きなツリーなどにも施されて見る者を楽しませていた。街の人々は皆それぞれに雪や防寒の対策をしているが、寒そうにしている者はまったくいない。子供は元気に雪の上を走り回っている。


 二人は終始あちこちに視線を移しながら街を歩いた。


「わぁ……本当に綺麗……。街全体が、すごく優しい感じがする……」

「うんうんっ! 聖都の『光祭(ルチア)』みたいだよね!」

「あ、うんっ。わたしもそう思ってたんだ」


 ソフィアの発言に大きくうなずくフィオナ。

 寒さが一段と厳しくなる年の終わり頃、聖都では教会主催の『光祭』という有名な祝祭イベントが行われる。これは最初の聖女ミレーニアの生誕と偉業を祝し感謝する催しであり、街中は煌びやかに装飾され、また人々も着飾り、親しい人たちとプレゼントを贈りあって過ごす華やかなものだ。幻想的な雪とロマンティックな光景から、現代では恋人同士の特別なイベントになっていることも多く、聖都から大陸全土に広がって今では当たり前の行事となっている。


 エステルがにこやかに話す。


『この街はずうっと雪がふっていますから、昔は、寒さと土地のまずしさで大変だったそうなんです。けれど、聖女様の『光祭』が伝わってからはみんなどんどん明るくなって、そうだ、ならいつも明るい街でいようって、みんなで今のエルンストンを作り上げたそうです。それからは、常に『光祭』を行っているような国になったんですよ』

「そうなんだ……ふふ、なんだか素敵なお話……」

「うーんさすが初代様。ここにもそんな功績が……!」


 手を合わせて街の光景に見惚れるフィオナと、腕を組んでうなるソフィア。思わず足を止めてしまっていた二人の反応に、エステルは小さな笑いをこぼして待っていてくれた。


 そこでフィオナの耳元に口を寄せ、ソフィアがひそひそと話す。


「ねぇねぇフィオナちゃん。ホントにあの子、エステルさんなのかな? たしかに顔にも魔力にも面影はあるけど、ちょっと性格が違いませぬか?」

「小さな頃は、ああいう女の子だったのかも。それに、ここがエステルさんの故郷……その過去の世界なら、やっぱり本物のエステルさんだと思うよ」

「そっかそっか、だよねぇ! ともかく、あの子がここで私たちを助けてくれるみたいだし、まずはついていくしかないよね」

「うん。それと……」

「あー、やっぱり気になる?」

「うん……」


 再び歩き出し、辺りに視線を向ける二人。しばらくは美しい街並みを楽しんでいたが、少し気がかりがなことがあったのだ。


 それは、時折沈鬱な表情をしている者、涙を浮かべているような人たちがいたこと。それも結構な数であり、装飾された針葉樹に祈りを捧げるような人々もいた。よくよく見れば、どこか曇った顔の者が多かったのだ。


 フィオナとソフィアがそのことに気付いたのを知ったのだろう。エステルは眉尻を下げ、ちょっぴり寂しそうな顔で二人のそばへやってくると、少し声のトーンを落として話す。


『……わかりますか? じつは先日、女王様の愛娘であられる第一王女さまがなくなられたのです』

「「えっ?」」


 想像していなかった展開にか、フィオナもソフィアも戸惑うように驚愕した。

 エステルは子供ながらに気を遣った弱々しい笑みを浮かべる。


『くわしくなにがあったのか、私たち国民にはしらされていません。妹ぎみの第二王女さまとなにかあったって言う人もいますけど……わかりません。ただ、王女さまがなくなられたことは事実みたいなんです。いずれはこの国をと、女王さまにも、国のみんなにも愛されていた、とっても賢くて美しい方で……優しいひと、でした』


 エステルは城の方に遠い視線を向け、話を続けた。


『しょうらいは、第二王女さまが国を継ぐことになるそうですが……みんな、まだ悲しみにふせたままで……。今回、私がおふたりをまねいたのは、歌の力でみんなを元気にしてほしかったからなんです。私、歌がとっても好きなのでっ! そ、それで、だめもとでヴェインスの歌劇団にお手紙をかいて……そうしたら、正式にお返事がきて。まさか本当に足をはこんでもらえるなんて……ありがとうございます!』

「そ、そんな、えっと、ど、どういたしまして……?」

「……なーるほどねっ。救えってそういうことか。ちょっと見えてきた!」


 エステルのおかげでようやく事の成り行きがわかってきた二人。まるで今初めてその話を知ったかのような二人の反応に、少女エステルはちょっと不思議そうにしていたが、すぐに気を取り直して言う。


『立ち話をしてしまってごめんなさいっ。ちゃんとしたお話は、私のお家でしますね。母が食事を用意してくれていると思います。まいりましょう』

「やったぁごはん! そういえばここに来てからなんかすっごいお腹空いてたんだよねっ。いこフィオナちゃん!」


 そう言ってソフィアがフィオナの手を掴んだとき、フィオナのおなかが「きゅぅ」と可愛らしい音を立てた。少ししてソフィアとエステルが笑い出し、フィオナは一人赤くなった。

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