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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十一章 神域のラブファイト編

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星よ生まれ変われ

 フィオナは、そんなソフィアを無言で優しく抱きしめた。

 耳元でささやく。


「……一人きりで、そんな思い、させちゃってたんだね」

「おねえ、ちゃ……」

「辛かったよね。大変だったよね。もっと早くに気付いてあげられなくて、ごめんね。それから……」


 そっと身を離す。

 呆然と目を開くソフィアに、フィオナは笑顔を見せた。


「ありがとう。わたしを守ろうとしてくれて。わたしとクレスさんの幸せを守ろうとしてくれて。とっても嬉しい。ソフィアちゃんは、やっぱりすごいね。わたしの、大切な、自慢の妹だよ。だから……同じだね。私も、ソフィアちゃんのことを守りたいな」


 その言葉と、フィオナの目からこぼれるものを見て。

 ソフィアはしばらく何も言わずに小さく震え、それからフィオナに抱きついてその胸元に顔をうずめた。

 姉は、妹の頭を優しく撫でる。妹は、姉を離さぬよう抱きしめる。二人は、しばらくの間ただ静かにそうしていた。


 ――やがて、ソフィアが「ぷはっ」と顔を上げた。涙のあとが少し残った表情は、しかしもう晴れやかなものだった。


「えっへへへ! どさくさに紛れてフィオナちゃんのおっぱい堪能しちゃったぁ♪ ふわふわでイイ匂いで、こうしてたらすぐ元気でちゃう! あーあーいいなークレスくんっ。お姉ちゃんのこと独り占めできて! あっ、でも私だって親戚なわけだし、二人のお家に遊びに行くくらいしてもいいのかなぁ?」

「もちろんいいよ。いつでも遊びにきてね。クレスさんも歓迎してくれるよ」

「やったーほんと!? ――あっ、でも聖女があんまり勝手に出歩いたらまたレミウスに叱られるなぁ。それに公務の後だと夜遅くなるかもだし、私も空気は読める方ですから、さすがに遠慮しておこうかな。だってぇ……」

「だって?」


 不思議そうに首をかしげるフィオナ。

 ソフィアは、にやーっと含み笑いをして口元を抑える。


「新婚夫婦のお家だもん。エッチな時間のおジャマしちゃったらイヤですし♥」

「ふぇっ!? ソ、ソソソフィアちゃん!?」

「あはははなんちゃってっ! ありがとねフィオナちゃん。私も、こーんな可愛くて優しい妹想いのお姉ちゃんが自慢だよ!」

「……ソフィアちゃん」


 もうすっかりいつものソフィアに戻ったことで、フィオナも心から安心する。手を繋いで笑い合う二人は、お互いに心を通じ合わせていた。

 それからソフィアが周囲に目を向け、「うぇー」と鼻をつまんで渋い顔をした。すでに臭気が漂ってくるほど魔物たちは接近してきている。


「んもー! まだフィオナちゃんのおっぱいの匂いが残ってたのに台無し! さってそれじゃあどうしよっか? いくら倒しても復活してくるんじゃキリないよねぇ?」

「うん。でもね、きっと大丈夫だよ」

「え? どゆこと? 何かわかったのっ?」


 大きな目をぱちくりとさせて尋ねるソフィア。

 フィオナは慌てる様子もなく、微笑みかけながら片手で杖を持ち直す。


「あのね、さっきのシャーレ様の言葉を考えてみたの。シャーレ様は、きっと最初から答えを教えてくれていたんじゃないかな」

「えっ? 答え?」

「うん。星の力で屍を浄化、救済しろって。ミレーニア様は一人で出来たって」

「……あっ!」


 ソフィアも、すぐに理解してくれたようだった。


「そっか! さっきはフィオナちゃんの魔術でたくさん倒しちゃったけど――」

「うん。それは意味がなかったんだよ。きっと、あの魔物たちは星の力じゃないと――聖女の聖なる魔術じゃないと浄化出来ない。シャーレ様はそう言ってたんだと思うの」

「そういうことかー! じゃあ私がなんとかして――って、あ、あれだけの数一人でどうにか出来るかなっ!?」

「大丈夫だよ。わたしもいるから」


 繋いだままの手で、ぎゅっとソフィアに気持ちを伝えるフィオナ。

 二人の持つ杖が、それぞれに呼応するように輝きを灯す。


「フィオナちゃん……そっかそっか! そうだよね! わたしたち、今はどっちも聖女だもんね! もはや一心同体! こんなミラクル美少女姉妹に出来ないことないよ!」

「うん! 二人でがんばろう!」


 うなずき、両手を取り合い、明るく笑い合う二人。それぞれの瞳が星のように瞬く。


 ――融合魔術。

 まずはソフィアが魔力を練り上げ、繋いだ手を通してフィオナに“流れ”を伝える。星の魔術を知らないフィオナでも、『天星瞬く清浄なる瞳プリミティア・ライラ・オクルス』の力でソフィアがどんな魔術を使おうとしているのかを理解出来た。本質を識れば、ソフィアと呼吸を合わせることが出来る。二人で一つの魔術を使えば、その効果をより高められる。本来は反発し重ねることは難しい二つの魔力は、姉妹だからこそ融合し、馴染む。双子の星はより輝きを強める。


 魔物たちのうめき声が聞こえてくる。

 フィオナとソフィアに、もう怖れるものはなかった。


「行くよっ、フィオナちゃん!」

「うん、ソフィアちゃん」


 極限まで高められ融合した二人の星の魔力は、合わせられた『月』と『星』の杖、その先端へと集まる。


 生まれたものは、小さな輝き。地上から見える夜空の星ほどに小さな光。

 光は、二人の頭上へと昇っていく。闇夜を照らす星のように、空へと上がる。その美しい瞬きに、魔物たちのうつろな視線さえ吸い込まれた。


 二人の髪が、プリズムに煌めいてふわりと広がる。膨大な魔力の粒子が溢れた。


 まぶたを閉じた姉妹の声は、自然と揃う。



『星よ生まれ変われ――【星誕(スター・ノヴァ)】』



 光が爆ぜる。


 音もなく、一瞬で世界中へと拡散した光は、星の煌めきと共にすべてを包み込む。


 世界は光で満たされ、星は生まれ変わり、あらゆるものは浄化される。


 その美しい光は、新たな星の誕生を祝福するかのようであった――。




 ――二人の姉妹がそっと目を開けたとき。

 救済は終わり、瞬く夜空から無数の流れ星が落ちていた。爽やかな夜風が二人の髪を撫で、草木が再び芽生え出す。


 いつの間にか、二人の近くで女神シャーレが星の瞬く夜空を逆さまに見上げていた。初代聖女ミレーニアのぬいぐるみを夜空に向けながら、女神はつぶやく。


「及第点。ギリギリの」


 たった一言の結果を聞いて、ソフィアが朗らかな笑顔でピースサインを作る。フィオナも妹に合わせてピースサインをし、それぞれのピースを重ね合った。

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