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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十一章 神域のラブファイト編

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真理の1

 ――まばたきの間に、世界が変わった。


「……え?」

「あ、あれ!? なにここ!?」


 立ち尽くしたまま混乱するフィオナとソフィア。

 先ほどまで聖女の姉妹がいた天国のような場所ではなく、荒れ果てた大地の上に二人は立っていた。生温い風が吹き、草木の一本も生えていないもの悲しい世界。しかし、夜空の美しさだけは変わらなかった。


 ふわふわと浮かぶ女神シャーレが自身の胸元に触れながら言う。


「完全なる女神シャーレは『愛』と『美』と『平和』を司る。ゆえにお前たちが私に勝利するというのなら、この三つの真理で私を認めさせてみなさい。もしそれが出来れば、聖女ミネットに謝罪した上でお前たちを地上に戻してあげましょう」

「「!」」


 とうとうシャーレの口からその発言を引き出すことが出来た二人は、顔を見合わせて手を取り合う。


「話はわかりました! それで、私たちは具体的にどんな勝負をすればいいんですか!」


 ふんふんっと鼻息も荒く、意気揚々と尋ねるソフィア。

 シャーレはスッと人差し指を立てて答えた。


「真理の1。『平和』とは闘争である。争いなくして安寧はない。ゆえに人は戦い続けなければならない。そして、聖女とはその最前線で人を導くもの」


 いつの間にかフィオナの両手に握られていたものは、一本の杖。


「――え? あ、あれ? この杖は……」


 手元のそれをにぎにぎと触ってみるフィオナ。元の世界で使っていたアカデミー配給の『星の杖』ではなく、サラサラとした触り心地の良いしっくりとくる持ち手に、ずしっと感じられる金属の重量。先端の宝石には三日月の意匠が施され、より洗礼された美しいデザインの高級そうな杖である。女神シャーレはそれを『月の杖』と呼んだ。

 一方のソフィアには星の意匠が施された『星の杖』。それもかつてフィオナが使っていたものではなく、より華やかに凝った作りの最高級品だ。これはソフィアが普段使い慣れていたものと同じらしい。


 お互いの杖を見比べる二人に、シャーレが語る。


「死者の世を再現した。心なき愚物であれば躊躇なく戦えるだろう。その杖を用いれば、今のお前たちにも魔力は使える。存分に力を振るってみなさい」


 そう告げた女神の背後――地平線の彼方から、無数の影が現れた。


 遠くを凝視するフィオナとソフィア。


 やがて“それら”を認識し、二人は悲鳴を上げて身を寄せ合う。


 ドロドロと溶けた人型の怪物(ゾンビ)

 より巨大なグール。

 剣や弓を持った骨だけのスケルトン。

 包帯だらけのマミー。

 大甲冑を纏った頭のない巨躯の騎士(デュラハン)

 巨大な鎌を持ちマント姿で宙に浮くレイス。

 そしてそれらの後方で、山のような巨体のアンデッド・ドラゴンが苦しげな雄叫びを上げていた。


「え、えええっ!? あ、あの魔物たちと戦うんですか……!?」

「ちょちょちょ、ちょっとちょっと待ってよシャーレ様! あ、あのキモチワルイアンデッドたちと戦うってこと!? そんなの聞いてないんですけどぉ!」

「お前たちの覚悟はその程度なの?」


 その一言に、二人はぐっと息を詰まらせた。

 おぞましい魔物が勢揃いで近づく中、女神シャーレは眠たそうな目でつぶやく。


「お前たちが勝利すればミネットを認め、お前たちを地上に戻すことを約束する。ただし、お前たちが敗北したときはこのまま天星してもらう。同時に、お前たちの記憶(・・・・・・・)を地上から消す(・・・・・・・)


「――え?」、と二人の口から同時に声が零れた。


 シャーレは何の感情もこもっていない空虚な瞳を二人に向けながら宣告した。


「お前たちの存在は消え、お前たちのしたことはすべてなかったことにする。家族も親友も恋人も、地上の誰もがお前たちのことを忘れ、魂は星の輝きに溶ける。お前は言ったわね。私に勝つと。それが出来ないのならお前は虚言を吐いたことになる。女神シャーレ()は嘘を許さない。神に歯向かった挙句、何の価値も成せない聖女など残す意味はない。聖女なら、解っているでしょう」


 あまりに淡々と告げられた“代償”に、フィオナとソフィアの全身がこわばる。


 負ければ消える。

 そして、大切な人々に忘れさられる。


 女神(かみ)に挑んだという事実。自分たちのした事の重みを初めて実感した二人の姉妹は、全身に冷や汗をかいていた。


 そんな二人にかまうことなく、女神シャーレは話す。


「星の力で屍を浄化、救済し、この地に平和を生んでみなさい。ミレーニアなら一人で容易に成せたことよ。精々、励みなさい」


 それだけ言って、シャーレはその場からパッと幻のように消えてしまった。

 フィオナとソフィアは困惑のまま取り残される。その間にも、魔物の軍団はぞろぞろと接近してきていた。周りすべてを包囲されており、逃げ道はない。つい先ほどまで天国のような世界にいたのに、今、ここは間違いなく地獄のような世界だった。


 ソフィアの呼吸が短く、激しくなる。

 聖女として、生まれ落ちたときから数多くの試練を受け、数えきれない困難に直面してきた彼女でさえ、突然の事態に青白い顔を浮かべていた。

 杖を握る手が震える。

 自分一人ではない。姉を巻き込み、危険に晒してしまった責任と恐怖に怯えていた。


 そんな妹の顔を見て――フィオナは腹をくくった。


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