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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十章 夫婦の定期健診編

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小さくなっても大きなフィオナ(後編)


「ふぇっ!?  う、うそ?」


 義娘の突然の発言に、目を丸くして困惑するフィオナ。

 レナはこくんとうなずいて続ける。


「うん。前にレナがきいたとき、おしえてくれたよね? こどものころは、レナと同じくらいだったって」

「……あっ」


 レナの不意の発言で、当時の記憶を思い出すフィオナ。

 それは初めてレナと一緒にお風呂に入ったとき。レナから訊かれたことがあったのだ。フィオナママは、子供の頃はどれくらいだったのかと。

 あのときフィオナは、確かにそう答えてしまった。ちょっぴりの嘘を混ぜてしまったのだ。すべて真実で答えてしまっては、レナを傷つけることになってしまうかもしれない。だから誤魔化してしまった。しかし今、真実が白日の下にさらされている。


 どうみても――フィオナは既に大きかった!


「レナ、ウソつかれるのキライ。だから、ちょっと傷ついたな」

「えっ」

「ウソつくオトナいっぱい見てきたから。フィオナママは、ウソとかつかないって思ってた……」


 レナは目を伏せ、うつむき加減にそうつぶやいた。

 見守るクレスはもちろんだが、当のフィオナはあまりの罪悪感にか、もはや自分が子供の姿になったことなどどうでもよくなったようで、慌ててレナの手を握る。


「ご、ご、ごめんねレナちゃんっ! レナちゃんを傷つけるつもりはなかったの! ほ、本当は子供の頃からちょっと大きくて……だけど、そう言ったらレナちゃんが落ち込んじゃうかもって思って……だから……ごめんね! ごめんなさい! それ以外は嘘じゃないよ!」

「……ほんと?」

「うん! 本当だよ! これからはもうレナちゃんに嘘なんてつかないよ! だから、だからフィオナママのこと……ゆ、許してくれる……?」

「…………」


 レナはしばらく黙り込んで、それから小さくうなずいた。その反応にクレスもフィオナもホッと安堵する。


「わかった、いいよ。そのかわり、ちゃんとおしえてね」

「え? ちゃ、ちゃんと?」

「うん。どうやってこんなにおっぱい大きくなったのか。ちゃんと、ぜんぶ、つつみかくさずおしえて。あとオトナのときとどれくらいちがうか、あとでいっぱいさわってたしかめさせてね。そしたら許してあげる」


 先ほどの悲壮感溢れる姿はどこへやら、レナはニッコリと微笑んでいた。幼くして巧みな小悪魔美少女ぶりにクレスは逆に感心していたほどだったが、フィオナはぷるぷる震えながらただうなずくしかなかった。


 こうしてその晩、小さくなったフィオナはベッドの中で義娘に自分がどんなものを食べてどんな運動をしてきたのかなどを延々と話し続けた。それがレナのためになるかどうかはわからなかったが、もう娘に嘘はつかない。そんな真摯な思いで恥ずかしいことも話し続け、ようやくレナからお許しを貰うことが出来た。そしてそんな話をすぐそばで聞いていたクレスは、なんだか落ち着かなくてなかなか眠ることが出来なかったのだった。



 やがてレナが二人の間で眠ってくれたとき、落ち着きを取り戻した二人は窓から月明かりが差し込む中で会話を始めた。


「ご、ごめんなさいクレスさん……こんなことになっちゃうなんて……」

「俺はいいんだが……フィオナこそ、お疲れ様……」

「は、はい……」


 なんだかちょっぴり気まずい空気である。

 レナの寝息がすぅすぅと聞こえる中、フィオナは小さな声でささやいた。


「……クレスさん」

「……ん?」


 シーツの中で、フィオナの小さな手がクレスの手を握っていた。


「子供になるって……こんな感覚、なんですね。もう慣れてきましたけど、クレスさんも、きっとこんな不思議な気持ちだったんですよね」

「ああ。最初は、自分の身体とは思えないような違和感があって、上手く動けなかったくらいだった。だが、すぐに頭が理解してくれた。いや、思い出したというべきなのかな。人間とはすごいな」

「ふふ、そうですね。確かに小さかった頃を思い出しました。それに、こうやってクレスさんの手を握っていると……前よりも、もっと大きく感じられて……なんだか、ドキドキ、しちゃいます……」

「……フィオナ」


 クレスが隣を見ると、フィオナはちょっぴり熱っぽい視線でクレスのことを見つめていた。子供の姿とはいえ、以前と何も変わらない妻の愛らしさに、クレスも彼女の手を優しく握り仕返した。


 フィオナは、ちょっぴりいたずらめいた子供っぽい瞳をしてささやく。


「クレスさん。もしもわたしがこのまま大人に戻れなかったから、それでも、わたしのことを好きでいてくれますか? 一緒に、いてくれますか?」


 クレスは即答した。


「当然だよ。俺は君を生涯愛すると誓って結婚した。たとえ身体が小さくなったとしても、フィオナはフィオナだ。ずっと愛しているよ、フィオナ」

「はゎぁ…………えへ、えへへへ…………♥」


 嬉しそうにへにゃへにゃと笑うフィオナ。喜びが顔中からあふれ出ていた。


「……ありがとうございます、クレスさん。なんだか、今は言葉が欲しくなってしまって……わがまま、ですよね」

「女性にはちゃんと言葉で伝えろ。ヴァーンがよくそう教えてくれていたからね。我が儘なんかではないよ。足りなくなったら言ってくれ。俺はいつでも応えるよ」

「クレスさん……」


 ぎゅ、とお互いに手を握り合う二人。

 お互いにしばらく見つめ合った後、どちらからともなく自然と顔を寄せ、唇を重ねた。


 さらにフィオナは、その小さな手で、いつものようにクレスの頭をよしよしと撫でる。


「小さくなったわたしでも……この胸の想いは変わりません。わたしも、ずぅっと、あなたのことを愛しています」

「……小さくなっても、君は大きいね」

「ふふっ。いつだって、この胸はあなたでいっぱいなんですよ」


 笑い合う二人。

 義娘を間に挟みながら行われた夫婦のささやかなやりとりは、お互いの気持ちをさらに強く繋げてくれた。一つの言葉も必要なく、ただ見つめ合っているだけのその時間は、とても幸せで温かいものだった。それだけで、確かにお互いの魂が繋がっていると感じられた。


 そんな最中、二人の間からぽつりと声が漏れる。



「――もう、おわり? えっちなことしないの?」


 

 クレスとフィオナが、揃ってそちらへ目を向ける。

 間に挟まれたレナが、興味津々とばかりにキラキラした目で二人を見上げていた。

 

 クレスとフィオナは顔を見合わせて、おかしそうに笑い出した。


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