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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十章 夫婦の定期健診編

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マンネリ解消アイテム?

 定期健診とティータイムを済ませ、ショコラもようやく遊びに満足したところで、そろそろ夜も遅いからと、クレスたち三人は自分たちの家に戻ることになった。

 店先では、セシリアとショコラが三人を見送るため出てきてくれている。この森は不思議と夜でも差し込む月明かりが多く、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「ショコラ。皆さんをお願いね」

「んっ!」


 ショコラはご機嫌に尻尾をフリフリさせながら、指をスイスイと動かして黒い扉を生み出すと、ぐぐーっと腰を逸らすように伸びをする。


「ん~~~~にゃ! 今日はたのしかったー! ねぇねぇレナ、また遊ぼうね! 今度はかくれんぼしよう! あとねぇあとねぇ」


 ウキウキしながらそう言うショコラに、全身汗だくで頭に葉っぱが乗っかったままのレナが仏頂面で返す。


「もうやだ……だってネコになってズルしそうだもん」

「え~~~しないから~~~! ねぇねぇしないから遊ぼぉ! ねぇねぇねぇ~!」

「むぐっ……ああもう、うっとうしいなぁ……。わかったからすりすりしてこないでよ! てゆーか、いま汗かいてるのっ! なめないで!」

「うわーいやったー!」

「うう……レナ、やっぱりこの子ニガテ!」


 喜ぶショコラにべったりと顔まで密着されながら、眉をひそめて困惑するレナ。すっかり仲良くなったらしい二人に、クレスやフィオナ、セシリアもついつい笑ってしまった。


 帰る支度も済んだところで、最後にセシリアが薬の入った布袋を取り出す。


「クレスさん、フィオナさん。こちら、今後しばらくの分となる『愛の蜜』です。もうそこまで必要なものではないかと思いますが、お役立てください。お菓子作り用のバニラムードも一緒に入っていますよ~」

「ああ、ありがとうセシリア」

「貴重なものをいつもありがとうございます、セシリアさん!」

「いえいえ~。お二人のおかげで、花園『ミスティオラ』から貴重な素材の数々を採取出来るようになりましたから。花の魔族さんも、またフィオナさんにお会いしたいと言っておりましたよ」

「あー! そんなこと言ってた! ウチやご主人はどーでもいいから、おねーさまにあいたいーって! ちょっかいだしたらすぐキーキー怒るし! ウチあいつキライ!」

「ローザさんが……ふふ、そうだったんですね。また会いに行きたいと思います」


 薬を受け取って顔を綻ばせるフィオナ。どうやらローザは今もあの花の楽園を守っているようだが、セシリアやショコラともなんとか上手くやっていけているようだ。


「ねぇ。クレスとフィオナママってさ、前にこっちに来たときはその魔族とたたかったりもしたんでしょ? いろいろやってるよねほんと」

「そうだね、レナちゃん。初めて来たときは、ショコラちゃんの結界に取り込まれてびっくりしたり、花園でローザさんと出会ったり、それからクレスさんが子供になったり……ふふ、なんだかもう懐かしいですね」

「うーむ、俺はローザとやり合っていたときのことをほとんど覚えていないからな……。あのとき頑張ってくれたフィオナには感謝しているよ」

「えへへ。でも、子供のクレスくんも頑張ってくれたんですよ。小さくてもわたしを守ろうとしてくれて……とっても勇敢で格好よかったんです。クレスさんは、どんな姿になってもクレスさんなんだって思いました♪」


 ニコニコと嬉しそうに笑いながらクレスに寄り添うフィオナ。クレスは珍しくも少々照れた様子で、「子供の俺にも感謝するよ」とつぶやいた。


 そんな仲睦まじい二人を見上げて、レナが「ふーん」と興味深そうに言う。


「こどもの頃のクレスって、どんなかんじなのかレナも見てみたかったな。なんか、このまま小さくなったってかんじしそうだけど」

「ん、そ、そうか? 俺自身にはよくわからないが……」

「ふふ、レナちゃんの言うとおりかも。わたしも、もう一度会えたらちゃんとお礼が言いたいな……なんて、そんなこと言ったら今のクレスさんに失礼ですよね、ごめんなさい!」

「構わないよ。そこまで言われると、俺も子供の自分に会ってみたくなるくらいだ」


 そんな笑い話をする三人に、セシリアがこそっとささやくように言った。


「うふふ。もし入り用でしたら、子供に戻れる薬も用意しますよ」


『え?』とクレスたちの驚きの声が揃う。


 続けてクレスが尋ねた。


「そ、そんな薬まであるのかい?」

「はい。お二人の魂はもう高いレベルで融和していますから、同じようなトラブルで幼児退行することはないかと思いますが、薬でなら可能です。ただし、薬では以前のように精神面まで子供の頃に戻ることはありません。正確にはそれも可能ですが、記憶の混濁など、心身の健康面を考慮して許可出来ません。ですから、今のクレスさんのまま身体だけ一時的に小さくなる、といった薬ですね。それなら処方可能ですよ~」


 本当になんでも揃っているセシリアの店の品揃えに、クレスたちは「おお~……」と声を漏らした。

 レナがフィオナの袖を引っ張る。


「ねぇねぇ、もらっておけば? レナも、小さいクレスみてみたいし。あとさ、フィオナママが小さくなってもおもしろそうだし。やっぱりおっぱい大きいのかな」

「ええ? わ、わたしもっ?」

「ああ、それは俺も興味があるな。せっかくだから、いただいておこうか?」

「ク、クレスさんまで……でも、そうですね。クレスさんが興味があるって言ってくれるならわたしも……えへへへ。セシリアさん、いいですか?」

「はい、もちろんです~」


 そうしてセシリアは店の中に戻ると、すぐに薬を取って戻ってくる。フィオナが代金を支払おうとしたが、「サービスです♪」と何も受け取らずに先ほどの布袋の中にしまってくれるセシリア。一回の効果は一晩程度とのことで、それは客の要望に応える形で設定された用量なのだとか。


 その際にフィオナは興味本位で尋ねてみた。


「あのう、セシリアさん。ちょっと不思議に思ったのですが、こういった薬は、普段どのような方が使うものなんでしょうか……?」


 素朴な疑問。薬があるということは、それを求める客もいるということである。だが、そもそも身体を小さくするような薬を何に使うのか、フィオナには疑問だったようだ。


 セシリアが落ち着いた声で答える。


「そうですね、お客様の詳しい情報はお教えできませんが……子供の姿の方が都合が良い、という方もいらっしゃるのですよ」

「都合が良い、ですか?」

「はい。それから……」


 そこでセシリアはフィオナの耳に口元を寄せ、こそっとフィオナにだけ伝えた。


「夫婦生活のマンネリ解消で、なんて方もいらっしゃいますよ。ずいぶんと楽しいようで、クセになってしまうみたいです~」


「……!!」


「うふふ。フィオナさんは、あんまりハマらないように注意してくださいね♥ 特にフィオナさんが使用する場合は、体質の影響でちょっとした…………――」


 こそこそと耳打ちをしてから、そっと身を離すセシリア。無言でこくこくと二回しっかりうなずいたフィオナは、真剣な顔でむふーと鼻息を荒くしながら「注意します!」と答え、セシリアがくすくす笑う。


 そんな二人の内緒のやりとりを見て、クレスが朗らかに話す。


「いつの間にか、フィオナとセシリアは親友のように親しくなったね」

「え? わ、わたしとセシリアさんがですか? そう、でしょうか? でも、そう見えるなら嬉しいです! お、お友達……といっても、いいんでしょうかっ」


 そわそわした感じでセシリアに視線を向けるフィオナ。セシリアは少しキョトンとした後、いつものように穏やかに微笑んでうなずいてくれた。喜ぶフィオナを見て、クレスとレナも表情を柔らかくする。



 それからクレスたちが黒い扉に入っていったところで、最後にショコラがドアノブに手を掛ける。


「じゃあクレスたちを送ってくるねーご主人!」

「お願いね、ショコラ。いつも言っているけれど、夜遊びはほどほどに」

「にゃふふっ、わかってまーす! じゃあねー!」


 ショコラが扉を閉じると、それは闇に同化するようにじわじわと消えていく。夜のしじまにわずかな虫の声だけが聞こえていた。


 一人になったセシリアは、静かに店の方へと足を運び、キィと入り口のドアを開くと動きを止めた。


「……うふふ。お友達のためにも、また何か用意しておきましょうか。そうですね、女性のお悩みナンバーワンのバストアップ……のお薬は必要ないでしょうから、逆にこちらも小さくしたり……または感度を高められるような、魅惑の香水成分なども良いでしょうか……ふふっ」


 独り言をつぶやくセシリアはなんだか愉しそうに笑い、そのまま店の中へと戻っていった。

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