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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十章 夫婦の定期健診編

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アルトメリアのひみつ♥

 するとフィオナは、セシリアの手を握ってこう言った。


「わ、わたし嬉しいですっ!」


「――え?」


 セシリアが目をパチクリとさせる。

 フィオナはちょっぴりうつむき加減に、けれど明るい声で話す。


「母と最後に話をしてからは、もう、同じアルトメリアの方に会える機会はないのかなって思っていて……ちょっぴり、寂しい気もしていたんです。けれど、また会えるなんて! それもセシリアさんがそうだったなんて、驚きました! 嬉しいですっ!」

「フィオナさん……」

「あ、きゅ、急に盛り上がっちゃってごめんなさいっ。でもあのっ、セシリアさんのことはなんだか以前から身近に感じられていて、それは、もしかしたらそういうことだったのかなって……え、えへへ。すごい偶然ですよねっ! ひょっとして、親戚だったりするんでしょうかっ」


 握りっぱなしだったセシリアの手を離し、照れ笑いを浮かべるフィオナ。

 セシリアは少々呆然としていたが、やがていつもの穏やかな笑みに戻る。


「外の世界に出たアルトメリアにとって、素性を明かすことは禁忌(タブー)。ですから、今までショコラ以外の誰かに明かすようなことはありませんでした。その必要もなかったからです。けれど、フィオナさんが覚醒し(めざめ)たことがわかって、つい、話をしたくなってしまいました」

「めざめ……? あっ、お母さんから教えてもらったこと、かな? あの、わたし、亡くなった母が魔術を使って会いに来てくれて、そこで自分がそう(・・)だって教えてもらったんです! そしたら、急に魔力がすごく近く感じられて、上手く使えるようになってっ」


 自分でも上手く説明出来なかったが、セシリアはすぐに察してうなずきながら微笑んでくれる。

 そしてすぐに説明をしてくれた。


「フィオナさんは幼い頃に家族と離れてしまったために、よくご存じないのですね。アルトメリアのエルフには、子供に魔術刻印の“鍵”を掛ける習わしがあります。アルトメリアの強大な魔力が、万が一の時に暴発しないようにです」

「鍵……あっ!」

「うふふ、思い当たる節があるようですね。やがて子供が成長したとき、親は子供の“鍵”を外します。それは例えば合言葉であったり、おまじないや祈りであったり、家庭によって様々ですね。これがアルトメリアの成人の儀式なのですよ。覚醒や目覚め、なんて言ったりもしますね~」

「ふぁ……そうだったんですかぁ……。あのまじないの言葉は、だから……って、もーママってば! そういう大事なことをちゃんと娘に説明する時間くらい残しておいてよ~!」


 ついあの時のことを思い出して愚痴ってしまうフィオナ。クレスと一緒に『胸キュン♥フィオナクイズ』とかいう遊びにほとんどの時間を使った母イリアにまた文句の一つでも言いたかったが、それが逆に母らしいとも思って苦笑いする。するとセシリアも、くすっと口元を押さえて笑った。


「それはきっと、説明をする必要がないと判断されたのではないでしょうか」

「え? 必要がない……ですか?」

「はい。クレスさんと一緒にいるフィオナさんを見たら……きっと……」


 目を閉じて優しくつぶやくセシリア。


 その言葉を聞いて、フィオナは理解した。


 母イリアは、きっとそれだけ安心してくれたのだ。

 クレスと一緒にいるフィオナ()を見て、これならもう大丈夫だと。二人なら、幸せになれると。だから、何も言う必要などなかったのだと。

 母の想いが今になって強く感じられて、フィオナは胸の奥が温かくなった。


 そんなフィオナを見守りつつ、セシリアが話を戻す。


「ただ、フィオナさんは少々特殊な生い立ちのようですね」

「生い立ち? あ、混血ってこと、でしょうか?」

「はい。以前の経過観察の際、フィオナさんの血を診せていただいて解ったことですが、フィオナさんは人と魔族とエルフ、三つの血を持っています。その中で最も濃いのが人の血ですから、種族としては人間に属します。今まで魔術が普通に使えていたのも、その証拠になりますね」

「え? 普通、って……」

「街の学校で習いませんでしたか? アルトメリアのエルフたちは、本来魔術が使えない種族なんですよ~」


 言われて「あっ」と気付くフィオナ。

 確かにアカデミーでもそう教わった。アルトメリアのエルフは、高い魔力を持ちながらそれを生かす術がない無力な種族なのだと。ゆえに、古い時代では悪意ある者たちに魔力だけを利用された歴史があるらしい。戦いを嫌って隠れ住むようになったのも、それが大きな理由だと云われている。しかしフィオナは幼い頃から魔術が使えたため、すぐに意味がわからなかったのだ。


「ですが、他種族と交わることで種としての“縛り”が薄れた結果、次第にアルトメリアも時代に上手く溶け込めるようになってきているようです。フィオナさんの存在が、その証ですね~」

「そ、そうなんですか。あっ、ひょっとしてセシリアさんが子供を産むのが難しいというのは、その“縛り”が関係を……?」

「ああ、そうそう。お話に夢中でそのことを忘れそうでした~」


 先ほどの会話を思い出し、フィオナの質問に答えるセシリア。

 彼女はニコニコと微笑みながらうなずいた。


「そうですね。まず、アルトメリアのエルフには女性しか生まれないということはフィオナさんもご存じかと思います」

「は、はいっ。里にもほとんど女性しかいなくって……わたしは、お父さんのこともほとんど……」

「そう。そして、それこそが私たちアルトメリア最大の宿命。実は、アルトメリアにはとっても大きな秘密があるんです……」

「お、大きな秘密……っ?」


 ごく、と息を呑むフィオナ。

 一体どんな秘密なのか、ドキドキとそわそわが同時にフィオナの胸を刺激する。


 セシリアはすーっとフィオナの方に顔を近づけると、どこか神妙な面持ちで、少し目を細めてささやくように話す。


「長年、女性のみのコミュニティを形成してきた影響なのか……アルトメリアの女性たちは……」

「じょ、女性たちは……!?」


 思わずぐっと前のめりになるフィオナ。


 セシリアは――ニコッと微笑んで秘密を明かした。



「み~んな、とっても性欲が強いのですよ~♪」



「……へっ?」


 

 パチパチ、と何度かまばたきをするフィオナ。


 なんだかとても楽しそうな声で爽やかによくわからないことを言われた。

 だから聞き返した。


「せ、せいよく……? あ、あああのっ? え? セ、セシリアさん? それってどういう……!?」

「うふふ。つまり、すっごくエッチなんです♪」

「え!?」

「と~っても、エッチなんです」

「え!?」

「私も、フィオナさんも」

「えっ!?」

「これが“アルトメリアのひみつ”、です♥ ですから、夫となる男性が耐えられなくなってしまうようで……」

「…………え? えっ? えっちだから? えっ、じゃあわたっ、え? …………ふぇえええええ~~~っ!!??」


 困惑に震えるフィオナの高い声が、居間によく響き渡った。

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