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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第十章 夫婦の定期健診編

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“夜のお時間”はどれほど?


「――はい、お疲れ様でした。それではこちらを書いちゃいますね~」


 薬屋を営むエルフの女性――セシリアが優しく微笑みながらそう言って、診断書(カルテ)らしきものにサラサラと筆で書き込んでいく。並んで座っていたクレスとフィオナは胸をなで下ろした。薬やその素材となる花などの独特な香りがするこの店は、街の医院と同じようにちょっぴり緊張感がある所だ。


 店主のセシリアが営むこの『クラリッサ製薬店』は、鬱蒼とした深い森の中――『夢幻の深森ミラージュ・フォレスト』と呼ばれる場所にひっそりと鎮座し、門番としてショコラが常に高位魔術の結界を張り巡らせているため、一般人が偶然辿り着くようなことはまずない。古くからの太客と、その紹介による来訪がほとんどのようだ。


 セシリアは過去の診断書も確認しながら話す。


「ふむふむ……以前のお薬も正しく作用しているようですし、魂の同調も安定していて、後遺症や副作用も心配なさそうですね~。今後の経過観察は、もう少し期間を長くしても大丈夫かと思いますよ」

「良かったぁ。安心しましたね、クレスさんっ」

「うん。ありがとうセシリア。すごくホッとしたよ」

「うふふ。どういたしまして~」


 人当たりの良い穏やかな表情と声を持つ美女は、筆を動かしながらもう肩方の手で尖った耳に髪を掛ける。その間にクレスとフィオナは辺りを軽く見回して、よく整頓された薬の瓶が以前よりさらに増えているらしいことに気付く。他にはないこの品揃えの良さも店が愛される理由なのだとか。


 診断書を書き終えたセシリアが二人の方に向き直る。そして両手の人差し指をツンツンと付き合わせながら言う。


「私も安心しました~。どうやら、ご夫婦でちゃあんと仲良くされているみたいですね♪」


 その言動に、フィオナがポッと頬を赤らめてうつむき、もじもじしながら返事をする。一方で、ただ言葉通りの意味を受け取ったクレスは大きくうなずいた。


「ああ。おかげさまで上手くやれていると思う。君の薬には助けられてばかりだね。ありがとう、セシリア」

「いえいえ~、私はただお仕事をさせていただいただけですよ。クレスさんが最も感謝すべきなのは、一番頑張っている奥様(フィオナさん)ですからね。たくさん、褒めてあげてくださいね~♪」

「ああ、そうだね。フィオナ、いつも本当にありがとう」

「えっ?」


 突然クレスから手を握られて、フィオナが驚いたように顔を上げる。

 クレスはフィオナに顔を近づけながら言った。


「君がそばにいてくれるから、俺は毎日が幸せだ。全部君のおかげだよ。これからも、ずっと一緒にいてほしい。心から、フィオナを愛しています」

「ふぇあっ……!?」


 いきなり直球で愛の囁きをもらい、ボボボッと火でも起こしたように赤くなるフィオナ。二人きりの時ならば素直に喜びだけを表せたかもしれないが、人前の不意打ちは破壊力が高い。ひたすら照れながら、けれどつい口元を緩ませてしまうフィオナ。微笑ましい二人を見て、セシリアはくすくすと笑った。


 それからセシリアが唐突に尋ねた。



「ところでお二人は、“夜のお時間”はどれほど取られていますか~?」



「「え?」」



 硬直する二人。


「不躾ですみません~。もちろん、朝や昼のお時間でもよいのですけれど~♪」


 クレスとフィオナは呆気にとられた。特にクレスの方は要領を得なかったようだが、瞬時に気付いたフィオナが真っ赤な顔のままでクレスにこそこそ耳打ちをする。クレスは「ああ……!」と納得したように手を打った。


「そういう意味か。しかしセシリア、なぜそんなことを訊くんだい?」

「うふふ。興味本位……ではもちろんなく、今夜お渡しする薬の処方に必要なんですよ~。大事なことなので、出来るだけ、詳しくお話いただけますか?」

「なるほど。そうだな、日によってことなるが、だいたい一晩で……」

「わぁ~! クレスさんあっさりとぜんぶ話しちゃうんですかっ!?」

「んっ? い、いけなかったかい?」


 思わず立ち上がってクレスの言葉を遮るフィオナ。あまりにも納得の早いクレスに、フィオナはあたふたしながら言葉を探す。


「あ、えっとっ、い、いけなくはないのですけどっ、ただそのっ、ふ、夫婦の密な内容なので、その、あにょっ、あのぅ……えっと…………」


 声と一緒に縮こまっていくフィオナ。

 クレスにとってこれは薬師からの真面目な問診であるため、内容問わずただ素直に答えるべきという考えで羞恥などないらしいが、フィオナは別のようである。

 以前、フィオナはレナからもこの手の内容の質問を受け、必死に答えた記憶があった。あの時は子供が相手であったため、いろいろと遠回しな説明が出来たし、“夜のお時間”がどれくらいかなんて話す必要もなかった。

 しかし今は違う。信頼出来る薬師からの真っ当な問診なのだ。どれだけ恥ずかしかろうとも、薬のため、夫婦のためであれば話さざるを得ない。しかも詳しく。事細かに! 

 

「う、うぅ……ううう~~~~っ!」


 しばらく激しい羞恥心に悶えるフィオナだったが、これもすべてはクレスのため。そう割り切ることで顔を上げ、とうとう覚悟を決めた!


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