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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第九章 聖都フードフェスタ編

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スイーツ求めてどこまでも

 後夜祭で盛り上がる人々を見守るように、大広間の端でのんびりと過ごす二人組がいた。

 そのうちの一人は、頭にフードを被ったままひたすらにふわふわの焼き菓子を――『パフィ・ププラン』を食べまくっている。眉をひそめながら口の中いっぱいに詰め込まれたものをもぐもぐと咀嚼した後、ミルクティーで流し込んだ。周囲には空き箱や食べ終えた後の包装紙がたくさん丸まっている。


「――フン。まあまあだな」


 けぷっと喉を鳴らす少女。

 彼女の口元についていたクリームの汚れを、もう一人のメイド服の少女がニコニコ顔で拭き取った。


「まあまあの食欲じゃないですよ~」

「うるさい。喰わんのならそれもよこせ」

「あぁ、ダメですよ! 楽しみにとっておいたミルククリーム味なんですからぁ! 返してくださぁい!」

「黙れぽんこつメイド! 誰が買ってきてやったと思ってる? お前が行ったら間違いなく即バレするからわざわざ幼女のフリして並んだんだぞ! 主人をこき使ってスイーツむさぼるメイドがいるか!」

「そういう関係も良いと思いまーす♪」

「んなっ!」


『パフィ・ププラン』を取り返したメイドは、ぱくっと一口に頬張って「んん~♥」と艶めかしい声を上げる。フードの少女はイラッと眉間の皺をさらに寄せると、クリームがついていたメイドの指をバクリと咥え、ついていたものを舐めとってから離れた。


「わ~~~ん! メル様のでべとべとになっちゃいましたよぉ!」

「フン」


 不機嫌そうに肘をつくフードの少女、『メル様』。

 彼女はしばらく歌と踊りのステージを眺めながら、ぼそっとつぶやく。


「……まだ“アレ”は使っていないようだな。使うつもりもないのか、それとも…………まぁいい。人間の寿命など、どれほど伸びたところで大差ない」

「あ、またそんなことを言って、本当はもっと長生きして美味しいスイーツをたくさん作ってほしいんですよね? 海でお礼に渡しておいてよかったですよね♪」

「うっさいアホ! 独り言に突っかかってくるな!」


 立ち上がった『メル様』は、自分の手指をハンカチで拭うメイドに背を向けて吐き捨てるように言う。


「もう用はない。さっさと戻るぞ」

「今年のお祭りも終わっちゃいましたからねぇ。ご挨拶はいいんですか?」

「なぜヤツらにご挨拶せねばならんのだ」

「ダンジョンのこともあったじゃないですか。まだ、メル様の“(イス)”に座ろうとしている魔族が各地に残っているみたいですから。そういう方を見つけるのも、私たちの役目かと」


 そう言いながら、メイドは隣の空席をぽんぽんと叩く。

『メル様』はしばらく無言でその席を眺めていたが、すぐに「フン」と鼻で笑って言う。


「そんなくだらんものは何席でもくれてやる。それに、有象無象の馬鹿共はあのアルトメリアの娘一人でも十分だろう。いいからさっさと支度しろ」

「はぁい。でもでも、こちらの『パフィ・ププラン』は本当に美味しいお菓子でしたね。メル様もニコニコ大満足なようで、来て良かったですね♪ また買いにきましょう~!」

「誰がニコニコ大満足だ! この不満足な顔を見ろ! お前の目は節穴だ!」

「節穴断言されちゃいました!? ――あれ?」


 空箱を片付けようとしていたメイドは、箱の中を見てつぶやく。


「メル様、まだお一つ残っていますよ?」

「持って帰る」

「お一つだけ、ですか? ――あ、ひょっとしてエリシアさんへの手土産ですか? わぁ~、やっぱりメル様はお優しいですねぇ♪」

「自分で喰うんじゃボケ! いいからさっさとこい!」

「あっ、ま、待ってくださいよぉ!」


 大股で歩き始めてしまった『メル様』に置いていかれないよう、メイドはゴミを処分した後、一つだけ入った『パフィ・ププラン』の箱を持って慌てて後を追いかける。

 二人が去った後も、夜の大広間では歌と踊りの後夜祭が続いていた――。


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