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どこが好き?

 セリーヌが得心したような顔で言う。


「あたしたちもさ、フィオナが必死だったのはもちろんわかってたわよ。なんでそこまでするかなーって。今になってようやくわかったわ。全部、そこの旦那さんのためだったんでしょ?」


 その言葉に、フィオナは多少照れたようにうつむく。それからくっつけた両膝の上に手を置いて話した。 


「……はい。彼のそばにいるために、立派にならなくてはと思っていました。その目標があったから、今までやってこられたんです。だから今は……彼の隣にいられて、すごく幸せです。今まで頑張ってきたことが、すべて報われました。今は、一日が夢のようなんです」


 隣でこちらを見上げるように微笑むフィオナを見て、クレスの心は温かくなる。


 完全に出来上がった二人の空気に、セリーヌが肩をすくめて苦笑する。


「ああ~はいはいごちそうさまっ。なによもうイチャついちゃって! 未婚への当てつけかコラー!」

「えっ? ち、違いますそんなつもりじゃ!」

「なーんて冗談よ、わかってるわかってる! でも、あなたたちを見てちょっと安心したわ。フィオナも案外フツーの恋する乙女だったのねぇ」


 ニヤニヤしながらクレスたちを見つめてくるセリーヌ。フィオナは何も言えずに赤面するばかりで、リズリットも同様に顔を赤らめたままだ。


「んじゃ、ちょっとはそっちのことも聞かせなさいよ。あなたたちはいつ出会ったわけ?」

「え? そ、そうですね、グレイスさんと初めて会ったのは……えっと、6年前です」

「6年前? フィオナが聖都に来る前のことよね? それじゃあまさか……初恋ってこと? あんた、そんな子供の頃から初恋の人を追いかけてたの?」

「は、はつこい……!」

 

 なにやら敏感に反応するリズリット。フィオナは微笑みながら小さくうなずいて答えた。


「追いかけていたというか……そうですね、強く意識するようになったのは、魔王がいなくなってからです。世界が平和になって、魔物たちが減っていって、アカデミーでも上級生になって、いろいろと考える余裕が生まれたんです。それで……約束を、守りたいなって……」

「約束って?」

「そ、それは秘密ですっ!」


 セリーヌの追求に慌てて手を振るフィオナ。


 そのときクレスが思い出したのは、彼女に抱きしめられて頭を撫でられたこと。


 ――世界を平和にしたら、褒めてあげる。


 おそらくあのことを差しているのだろうと思われた。


 セリーヌのニヤニヤは止まらない。加速していく。


「ふぅ~ん? それでアカデミーに入学した頃はもうぞっこんだったわけね? なおさら寮生活が大変だったでしょ。会いに行こうとは思わなかったの?」

「はい。ある程度自分に自信を持てるようになってからと、決めていましたから」

「それで今年無事に卒業したから、成人資格も得て結婚出来るってことで会いにいったと。つーかなに? もしかしてフィオナから熱烈アタックしちゃったわけ?」

「そ、そんなかんじ、です……」

「はぁ~~~~~。アカデミー時代どれだけ男に言い寄られても素っ気なかったフィオナが、まさか恋愛にも積極的な直球娘だったとはね~。しかも初恋の人を追いかける一途さって。もう驚くしかないわよ」

「そ、そう改めて言われると恥ずかしいのですけど……」


 照れからか、まただんだんと頬を赤らめていくフィオナ。

 クレスに対してはいつも真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれる彼女も、さすがに知り合いに恋愛話をするのは恥ずかしいようだった。だがクレスとしては、そんなフィオナの一面を知れるのは嬉しいことではある。そこには大いに興味関心もあった。


「何よもう照れちゃって、ちょっと可愛すぎない? フィオナって中身はこんなに乙女だったわけ? はぁ~~~我が目を疑うわぁ。こーんなフィオナ見たら、アカデミーの連中腰抜かすわよ。ねーリズ?」

「は、はい…………」


 本当に腰を抜かしそうなほど驚いているリズリットに、セリーヌは思わず笑う。


 そして、今度はクレスの方に矛先が向いた。


「ハイじゃあ次は旦那さんね! アカデミートップのお姫様をべた惚れさせた色男にどんどん質問してくわよ~!」

「お、俺のことかい?」

「そっ! 見たところ旦那さんも若そうだけど、今おいくつなの? 何でこの街に? さすがに9歳だったフィオナを追いかけてとかじゃないんでしょ?」

「歳は22だよ。街には……仕事で来ていたんだ。今は定住しているけどね」

「ふぅ~ん、ご職業は?」

「きし──ああいや、そうだな、ええと…………今は猟師、かな」


 一瞬本当のことを話しそうになってから、しばし考えてそう答えるクレス。それが一番しっくりきたのだ。


「なるほどねぇ。ルックスも良いし体つきもいいわよね。清潔感もあって身なりもよろしい。お金……は、まぁフィオナがいくらでも稼げるでしょうし問題ないか。でもフィオナって結構年下じゃない? それはいいの?」

「え? ……ああ、それは考えていなかったな。もちろん再会したときは若い子だと思ったけれど、今は特に年齢は意識していないよ。フィオナがいくつだろうと、彼女の魅力が変わるわけじゃないだろう」


「わお」と感嘆するセリーヌ。リズリットも終始赤いままで、フィオナは目をパチパチさせている。

 正直すぎるあまりちょっとキザな発言になっていたが、クレスは完全に無意識である。だから彼女たちの反応がよく理解出来ていない。


 セリーヌはさらに身をぐいっと乗り出すほどワクワクした感じで話し出す。


「お兄さんイイわね! じゃあさじゃあさ、フィオナのどこに惚れたの? この貴族令嬢サマみたいな外見? 真面目な性格? 魔術の才能? それとも……やっぱりこの魅惑の谷間かぁっ!」

「きゃあっ!? セ、セリーヌさん! いきなり胸を触りに来ないでくださいっ! というか、そ、そんなことグレイスさんに尋ねては失礼に――」

「だまらっしゃい! 一緒に寮生活してきたから食べ物も生活スタイルもわかってるのに、どうしてここまでになれるのよ! 魔術もそうだけどなんでも早熟すぎるのあんたは! 旦那の物になる前に存分に揉ませろー!」

「ひゃっ! だ、だめでっ……んんっ! セ、セリーヌさぁんっ!」


 背後から近づいたセリーヌは、その目を輝かせながらフィオナの胸へと両手を伸ばす。

 ウェディングドレスを着た美少女が、セクシーな美女から辱めを受けるちょっぴり淫靡な光景。クレスは軽く目を逸らし、リズリットは「はわわ……!」と両手で目元を隠していたが、指の隙間からバッチリ見ていた。


 その最中にも、クレスの自問が始まっていた。



 ――自分は、フィオナのどこが好きなのか?



 クレスはただ、いつも通り真剣に頭を悩ませる。


 そして――意外にもすぐに答えが出た。

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