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最強のお嫁さんが俺を甘やかします ~もう頑張らなくていいんだよ!~  作者: 灯色ひろ
第九章 聖都フードフェスタ編

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フィオナ、バニー服でポロリする

 上位得点者4名によるコンテスト決勝戦がスタートした。

 決勝では手持ちの衣装を好きに使い、順番に、何度でも、審査員と観客へアピールすることが出来る。

 しかし、それが難しい。

 衣装が多すぎれば新鮮さを欠き、客を疲弊させてしまう。かといって少なすぎれば単純にアピール力が減る。要は審査員と客を飽きさせない工夫とバランス、そして最終結果までに“この子が一番”というインパクトを残すことこそが大事なのだ。

 だからこそ、4名の決勝進出者たちは『どの衣装』を『どのタイミング』で『どれだけ使う』かを練りに練る。披露は順番制であるため、直前で衣装が被ることもある。これは女同士の頭脳戦、駆け引きでもあった――!


 そしてくじ引きの結果、フィオナのアピール順番は3番手。最大のライバルたるルルの順番はラストの四番手と決まった。

 一番手の女性――フィオナもよく足を運ぶ街の有名なパン屋『ポコット』の一人娘であり看板娘であるルーミアの審査はなかなかの盛況ぶりであり、この控え室にも歓声が聞こえてくる。


 ステージの様子を見に行っていたエステルが戻り、現状を知らせてくれた。


「――まさかステージ上でパンをこねているなんて思わなかった。いきなり特技審査をしているみたい」


『ええっ!』と驚くフィオナたち。


 決勝戦に限り、ある特別なルールがある。

 それは、“衣装以外でのアピール”が一度のみ許されているということ。

 いわゆる特技審査と呼ばれるものであり、剣技や魔術はもちろん、歌や踊りなど何でもいい。決勝ともなるとルックスや衣装だけでは優劣をつけられないことが多く、こうした特技審査が用いられている。その重要性をわかっているからこそ、先手をとれる一番手のルーミアはいきなり特技審査でアピールに臨んだようである。それもパン屋の看板娘であることを生かした特技だ。

 さすがに審査中に焼きたてのパンを提供することまでは出来なかったようだが、普段は見られないパン作りのパフォーマンス、そして最後に店のパンを審査員や観客へ提供したことで好感触を得たらしい。

 そんなルーミアは控え室に戻ってくるとフィオナたちにもパンをお裾分けしてくれて、一時ホッコリとした空気が流れる。『ポコット』のパンは美味いし、ルーミアは優しい子である。街の皆が知っていることだからだ。


「うーんホント美味しいわよね――ってホッコリしてる場合じゃないわよー! ほらほらフィオナ準備してっ! もう二番手の子行ってるから次あんたよ!」

「はっ、そ、そうでしたー!」


 そうしてあたふたと着替えを再開するフィオナだったが、着替え終えたところで鏡を前に呆然とした。


「って、セリーヌさん!? な、なんですかこの衣装~!?」

「何って、あたし特製のセクシーキュートな『ラビ服』じゃない。ハイ、これでカンペキ!」


 セリーヌが手に持っていたウサギの耳のヘアバンドをフィオナの頭へと装着する。


「よしっ、どうよどうよ! 本物の『ラビ族』の服を高値で買い取って仕立て直した自慢の一品よ? 娯楽都市(リゾート)のカジノにだってこんなウサギさんいないでしょ! これで最初のインパクトはバッチリね!」

「え、え、ええ~!」


 うろたえながら鏡の中の自分を見つめるフィオナ。


 頭部にはもふもふしたウサギ耳のヘアバンド、首には付け襟とタイ、ハート型のイヤリングやカフス、ビスチェに似た露出度の高い仕立てのホワイトバニースーツ、白のストッキングとハイヒール。そして腰の部分に大きなリボンのついた燕尾服のようなバニーコート。すべてが高級な素材であり、『ラビ族』という希少な魔族の姿を見事に再現していた。


「わわわっ! あ、あのぉ……これっ、ちょ、ちょっと動いたら胸がこぼれちゃいますよ! それにおへそのところ、どうして穴が開いてるんですかっ!?」


 両腕で胸を支えながらおたおたとするフィオナ。

 しばし黙り込んでいたエステルたちが、揃って目を見張る。そしてうなった。


「確かにとても可愛らしいけれど……エッチすぎるわ……!」

「す、すごくかわいいですけど……え、え、えっちです……っ!」

「レナはえっちでかわいいのがフィオナママっぽくて良いとおもう」

「うん、あたしもフィオナが着るとまさかここまでエロくなっちゃうとは思わなかったわ」

「ええー!? セ、セリーヌさんが絶対似合うって言ったんじゃないですかぁ!」


 ひたすらエッチであるという総評を受けてガーンと涙目でショックを受けるフィオナ。だがその間にも審査は進んでおり、もう着替え直すような時間は残されていなかった。


「もちろん似合ってるわよ? ただ本当にエッチなだけ。ほらほら心配しないで行ってきなさい! 酒を飲んでより単純になってる男共のハートを掴んでくるのよ!」

「わぁぁん! ほ、本当ですよね!? 信じてますからね~!」

「ハイハイ! あと特技審査のこと考えておくのよー!」


 そのまま控え室からステージへと送り出されるフィオナ。少しして、控え室まで届くほどの結構な大歓声が響いてきたため、セリーヌたち四人はグッと親指を立て合った。


 そんなとき、最終チェックを行っていた四番手の少女――ルルが海のように深い青色のドレス姿で立ち上がり、セリーヌたちの方を見ずにつぶやいた。


「あんな下品な衣装を選ぶなんて信じられない。やっぱり三流のすることね」


 そのつぶやきに、セリーヌがイラッと眉間に皺を寄せた。


「あら、あたしはフィオナの魅力を存分に引き出したつもりだけど。ま、お子様にはとても選べない衣装だものね。嫉妬するのも無理はないわ」


 その返しに、今度はルルがイラッと眉尻を立てる。


「ふんっ、女を一番美しく見せるのはいつだってドレスなのよっ。せいぜい無駄なあがきをしてなさい。ルルが格の違いを見せつけてあげる」


 老齢の執事に付き添われながら、相変わらず自信満々な表情でステージの方へ向かっていくルル。


 そんな彼女の背中を見送りながら、セリーヌが難しい顔をした。


「……まー、実際あの子はそれが最善手なのよねぇ」

「え? セ、セリーヌ先輩? あの、どういうことですか?」


 セリーヌのつぶやきに、リズリットがキョトン顔で質問をする。

 するとセリーヌは、腕を組みながら「ふー」と大きく息を吐いてから答えた。


「悔しいけど、あのルルって子のドレスはどれも本当に質が良いの。あの子のためだけに仕立てられた完璧な調和をしてる。小物も刺繍もすごい技術だわ。間近で見ればよくわかる。たぶん、今のあたしには作れないくらいの最高級品よ。超がつくレベルのね」

「ええっ!? セ、セリーヌ先輩が素直にそんなこと言っちゃうなんて……!」

「言いたかないけどね! どこの国かはわからないけど、あれほどの生地と縫製技術があるのはクルセオ……いえ、ひょっとしてヴェインス……? だとしたらどうしてあんな遠国の子が聖都まで……うーん、あー考えてもわかんないしいいわ! どうせあたしたちに出来るのはフィオナに最高の服を着せてあの子をより魅力的に輝かせるだけだもの! さ、次の衣装もキッチリ決めていきましょ!」


 その声に、リズリットとレナが「おー!」と手を上げてやる気を見せ、早速次の衣装のために小物や道具を揃え始めた。


 そんな中、エステルだけが静かに何かを考えていた。


「ん? エステルさん、そんな顔してどしたの?」

「……セリーヌさん。さっき、『ヴェインス』と言ったわよね」

「あー、うん。ヴェインス公国って貴族制の国でね、ドレスの品質が特に高いって有名なのよ。後は歌劇(オペラ)や紅茶も有名だったかな。興味はあるんだけど、すごく遠い国だから本物はなかなか見られなくってさ。確か北西のルーザ山脈を越えてずっと先の……あっ、エステルさんの故郷の『エルンストン』に近いんじゃないですか!」


 明るい顔でそう言うセリーヌに、エステルはこくんと小さくうなずく。


「ええ。子どもの頃、ヴェインスには何度か足を運んだことがあるわ。確かに、あの子が着ていたようなドレスが街にたくさん溢れていた」

「やっぱり! もしあの子がヴェインスの生まれだったら、ドレスの質じゃ敵わないわね……。うん、いろんなパターンでフィオナの魅力を演出して、後はやっぱり特技審査かしら。んー、フィオナったら何か考えあるのかしらね。さっ、エステルさんも次の準備しましょ!」

「ええ」


 そのまま次の衣装の選定と支度に入るセリーヌたち。

 エステルは手を動かしながらも、何かをぶつぶつとつぶやく。


「ヴェインスのドレス……あの紅茶……それにあの子の…………いえ、考えすぎかしら。深読みしすぎるのは良くない癖ね」


 すぐに思考を切り替えるエステル。

 その直後。再び観客の大きな歓声が上がったのち、バニー服の胸元を隠したフィオナが涙目で帰ってきて大体の事情を察する一同であった。

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